第十六回「ジャズのスタイルをつくりあげた人たち その3 レスター・ヤング」


 ジャズにおけるアドリブ(即興演奏)のやり方は、少数の天才的演奏家の創造性に多くを負っていると 言えます。多くのプレイヤー達が模範とした天才演奏家と言えば、レスター・ヤングとチャーリー・パーカー という二人のサックス奏者の名を欠かすことは出来ません。今日は、その一人であるレスター・ヤングの 演奏と、彼に敬意を表した後年のプレイヤーによる演奏を聴きましょう。

本日のレコード

1.「ジャスト・ユー・ジャスト・ミー Just You, Just Me」"Pres on Keynote" Lester Young Quartet 1943
2.「ジャスト・ユー・ジャスト・ミー Just You, Just Me」"Prez Conference" 1978

レスター・ヤングは、1940年代前半に最盛期を迎えたいわばスイング時代のテナー・サックス奏者ですが、 全く独創的な即興演奏によってモダン・ジャズ以降のプレイヤー、それもサックス奏者のみに止まらず「ジャズの スタイル」そのものに強い影響を与えました。レスターの素晴らしさを言葉で表すのは難しいですが、 聴けばわかるとおり「独特の音色」・・テナー・サックスと言えば堂々とした歯切れのいい大きな、いわば男性的な音色 が主流ですが、レスターは小さくなめらかでいわば女性的です。「独特のリズム」・・アドリブ・フレーズのつながりが 聞き手の予想を裏切るようにつながったり切れたり、同じ音を続けたと思えば一転滑らかなフレーズの連続になったり、 実に独特のノリなんですよねえ。そして、その即興のメロディーの素晴らしさ!
一曲目はレスターのカルテットの演奏です。二曲目はそのレスターのオリジナルの演奏に基づいたプレズ・コンファレンスという グループの演奏で、オリジナルのレスターの演奏をテナー3本、バリトン1本のサックス・アンサンブルで再現しています。 プレズ(prez,presと書いてあるレコードもある)とはPresident(大統領)の略で、ビリー・ホリディがレスターにつけた愛称の ことです。レスターがビリーをLady Dayという愛称で呼んだという話は前にしたよね?

3. 「ティックル・トゥ Tickle Toe」"Lester Young Memorial Album" Count Basie Orchestra 1940
4. 「ティックル・トゥ Tickle Toe」"Sing Along With Basie" Lambert, Hendrix & Ross 1958
5. 「ティックル・トゥ Tickle Toe」"Duets" Lee Konitz 1967

僕の一番好きなレスターの演奏がこれです。彼はカウント・ベイシーのバンドでの活躍で有名になったのですが これはその頃の演奏。この年の末にベイシー楽団を辞めちゃうのですがその理由がなんと「13日の金曜日にレコーディングを するから」だったそうです。
4.は後年のベイシー楽団をバックにボーカル・グループのランバート、ヘンドリクス&ロスが3.の演奏を歌詞を付けた ボーカルで完全に再現しています。5.はリー・コニッツとリッチー・カムカのテナー・サックスの二重奏で、テーマの 後二人のレスター風アドリブが続き最後にユニゾンになって3.のレスターのアドリブ・ソロが再現されます。

6. 「サムタイムス・アイム・ハッピー Sometimes I'm Happy」"Pres On Keynote" Lester Young Quartet 1943
7. 「サムタイムス・アイム・ハッピー Sometimes I'm Happy」"Prez Conference" 1978
8. 「サムタイムス・アイム・ハッピー Sometimes I'm Happy」"The Trio" Oscar Peterson Trio 1960

1.と同じ時の録音で、ベースのスラム・スチュアート独特の弓弾きとハミングによるソロも聴けます。レスターの 演奏は冒頭の原メロディーをくずしながら吹くところも素晴らしいけれど、エンディングの8小節のアドリブは特に有名で 、以後この曲を演奏するミュージシャンは皆最後にこのレスターのフレーズを引用するようになりました。7.は2.と同じく プレズ・コンファレンスがサックスアンサンブルでオリジナルを再現します。8.はオスカー・ピーターソンのピアノ・トリオ です。ピアノのオスカー・ピーターソン、ベースのレイ・ブラウンがそれぞれ自分のアドリブ・ソロの後、レスターとスラム・スチュアート のソロを再現しています。


生徒の意見

(女子A)1.ピアノが良かった。2.前のより重い感じ。3.一風変わった曲。終わり方がおもしろい。 4.ボーカルが入っているのも楽しい。ミュージカルみたい。5.また違って、すごくよかった。おもしろい。途中から二人でレスターのアドリブを 演奏するところがすごいと思った。6.ゆったりとしてよかった。7.1.と2.の違いほどではなかった。夜中にじっくり聴いてみたい。8. おとなしい感じ。ずいぶん長い演奏だった。

(男子B)1.サックスよりピアノがよかった。6.一番良かった。特にピアノ!7.今日聴いた中で一番いい!8. いい感じの曲なのに長すぎる。

(男子C)6.二人のサックスがユニゾンになっていくところがとてもスリリングでよかった。

(女子D)本当に女性的というか華奢な感じの演奏だった。いままでの型を破るということをする人っていうのは すごいと思う。ボーカルが入っているのはまた全然違って聞こえる。女性ボーカルの方が好きだ。5.のテナー・サックスだけのデュオというのは 初めて聴いたけれどすごく良かった。最初は別々に演奏しているみたいだったけれど聴いているとお互いにフォローしあっていると思えた。 途中からユニゾンになっていったのがなんかとてもうれしかった。6.優雅な雰囲気を感じさせるサックスだった。I'm Happyを表現しているようだった。 演奏で感情を表現できるなんてすごいなーと思う。7.ピアノがよかった。レスターの女性的な感じをピアノが表しているようだった。8. 6.7.8.の3曲は雰囲気が共通しているみたい。同じ曲だけれど、別々で、でも同じ、みたいな感じ。

(女子E)ジャズのスタイルってよくわかりません!4.ボーカルがついたらおもしろくなった。早口言葉みたい。 この曲を聞く前、どうやって詞をつけるんだろうと思いました。つけようと思えば付けられるんですね。ボーカルをもっと聞きたいです。


 リー・コニッツのデュオは思ったより評判良かったなあ。うれしい。オスカー・ピーターソンのやつは今日の中では確かに長かったなあ。 でも好きなんだよ。

第十七回へ
BACK