第三回  フリー・ジャズA

第三回目の講座です。
この暑さの中、さらに暑苦しい(?)音楽をじっくり聴くのもなかなかの暑気払いですね。
前回の質問から見ていきましょう。

Q:"Free Jazz"にフレディ・ハバードたちが加わっているのはなぜ?
 A:ハバードは60年代後半から70年代に活躍した(最近また復活したそうですが)どちらかというと伝統的なスタイルの演奏家ですが、60年代初めはエリック・ドルフィのカルテットのメンバーとしてかなり先鋭的な演奏もしていました。"Free Jazz"は当時 のコールマンとドルフィのレギュラー・カルテットの演奏なんです。

Q:従来のジャズの「伝統的な枠」とはなんですか?
 A:フリー・ジャズの演奏家たちが打ち破ったといわれる「伝統的な枠」とは、いわゆる「普通の」ジャズの演奏のやり方である「原曲の和音進行」にのっとって「原曲の小節数」に従い、「一定のリズム」にのって、即興的にメロディーを作り出していく。という事だと思います。

Q:吉祥寺にあるジャズ喫茶を教えてください。
A:僕がジャズを聴きだした頃よく行ったのは「FUNKY」という店でしたが、今はパルコが出来てなくなってしまいました。いまでもあるのは旧近鉄デパート裏の「メグ」と言う店は昔のジャズ喫茶の雰囲気を残しているみたいです(もう10年くらい行ってないのでわかりませんが)

Q:最近はジャズを演奏しない子が多いのはなぜ?あなたは高校生時代からジャズやっていたのですか?
A:昔も今もジャズを演奏する子供は少数派でしょう。日本でモダン・ジャズが一番メジャーな娯楽だったのは50年代末から60年代初めの「ファンキー・ブーム」の数年だけだったと思います。
そして昔も今もこれからも少数ながらジャズを生涯の仕事や趣味とする人も確実に存在すると思います。
僕の高校生時代は部活に軽音楽関係のものはありませんでした。ジャズのまねごとはしてましたけどちゃんとジャズの演奏法を勉強したのは大学に入ってからです。高校生の時はクラシックギターでバッハばかり弾いてました。

さて、本日はまずフリー・ジャズの重要なピアニスト、セシル・テイラーとポール・ブレイの演奏からはじめて、シカゴ前衛派まで聴いていきたいと思います。


本日のレコード

1."Nefertete, The Beautiful One Has Come" Cecil Taylor "Live at Cafe Montmartre"1962

ピアニスト、セシル・テイラーは西洋現代音楽とジャズのデューク・エリントンたちからの影響をうけて独自の音楽を作り出した1950年代から現在までジャズの世界の中でも全く独自で孤高の演奏家です。
圧倒的なテクニックと体力、並はずれた集中力、冷静な知性による構造的な曲作り(どこまで作曲でどこから即興かはなかなか判断できませんが)などが特徴と言えるでしょう。
彼もアイラーと同じように、アメリカではなかなか認められず、この演奏はオランダのレコード会社から出たコペンハーゲンでのライブ録音です。
アルトサックスのジミー・ライオンズ、ドラムのサニー・マレイとのトリオでベースはいません。このときの録音はLP時代2枚のレコードとして発売されましたが、現在はCD2枚組で手に入れることが出来ます。


2. "Steps" Cecil Taylor "Unit Structures"1966

  アメリカのメジャー・レーベル「ブルー・ノート・レコード」からテイラーは2枚のレコードを出し、後進に大きな影響を与えましたが現在にいたっても彼のレコードのほとんどは世界各国のマイナー・レーベルからのものがほとんどです。
この演奏はライオンズとケン・マッキンタイァの2本のアルト、ヘンリー・グライムスとアラン・シルヴァの2本のベース、アンドリュー・シリルのドラム、という6人編成です。



3."Communications #11 part2" The Jazz Composers Orchestra "Comunications"1968

先進的なミュージシャンで構成された「ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ」の録音にソリストとして招かれたテイラーは、マイケル・マントラー作曲・指揮によるこの曲で圧倒的なソロを聴かせます。
現代音楽的なアンサンブル(30人以上のジャズ・オーケストラです)とソロの対比を聴いてください。



4."Blues(Turnaround)" Paul Bley "Paul Bley with Gary Peacock"1968

次はこれまた独特な孤高のピアニスト、ポール・ブレイを聴いてください。
カナダ出身の白人で10代の頃からピアノ奏者として活躍し、60年代前半から「伝統的な枠」を超えた演奏をはじめています。
この曲はベースのゲイリー・ピーコックとドラムのビリー・エルガードとのトリオでオーネット・コールマン作曲のブルースですが、ブレイは「ブルース形式」の枠を超えてハーモニーとリズムを自在に操っています。ベースとの相互作用を聞き取ってください。 



5."Mr. Joy" Paul Bley "Turning Point" 1968

同時期の録音からもう一曲。
アーネット・ピーコック作の可愛らしい曲から即興でどのようにイメージが拡がっていくか聴いてください。
アーネットは当時のブレイの奥さんですが、ゲイリー・ピーコックの元奥さんでもありました。 



6."Butterflies" Paul Bley "Virtuosi" 1967

少し長い曲も聴きましょう。
ドラムはバリー・アルトシュルに変わります。アーネット作のバラードを三人が音の交流を通じて素晴らしい世界を作っています。
ブレイの官能的なピアノが僕は大好きです。 



7."Ida Lupino" Paul Bley "Open, To Love"1972

今度はブレイのピアノ・ソロです。
この曲はブレイが何度も録音している愛奏曲でこの演奏が最高だと思います。
ブレイの(アーネットの前の)奥さん、カーラ・ブレイの作品です。
カーラ・ブレイは現在も自分のバンドを率いて活躍し独自の評価を得ているピアニスト・作曲家です。



8."Levels and Degrees of Light" Richard Abrams "Levels and Degrees of Light"1967

さて、1960年代のフリー・ジャズはオーネット・コールマン、セシル・テイラー達によって始められ、続いてアルバート・アイラー、ポール・ブレイ、そしてジョン・コルトレーン達によって大きな広がりを見せていきました。
彼等は主にニューヨークを中心として活躍しましたが、かつてのジャズの中心地であるシカゴでも重要な活動がありました。
のちに「シカゴ前衛派」と呼ばれる演奏家達です。彼等はAACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)という組織を作り多くの演奏家を輩出しました。
その中心人物がピアノ奏者・クラリネット奏者・作曲家のリチャード・エイブラムズです。
この演奏は、サーマン・バーカーのシンバル、ゴードン・エマヌエルのビブラフォンにのってペネロープ・テイラーのスキャット(歌詞なしのボーカル)、エイブラムズのクラリネットのソロが聴けます。
単純な楽器編成とシンプルなメロディーから拡がっていく心象風景が素晴らしいと思います。
(実際の講座では時間がなくて残念ながらこの曲はカット)



9.10."A Jackson in Your House" "Erika - Song for Charles" Art Ensemble of Chicago "Great Black Music, a Jackson in Your House" 1969

AACMの重要なグループの一つがアート・アンサンブル・オブ・シカゴです。
ロスコー・ミッチェル(as)、ヨセフ・ジャーマン(as)、レスター・ボウィ(tp)、マラカイ・フェイバース(b)の四人(後にドラムのドン・モイエが加わる)ですが、各自が大量の楽器を持ち替えて演奏します。
黒人意識の強調も特徴でライブでは黒人の歴史を象徴するという衣装やメイクをします。
彼等も他のフリー・ジャズの演奏家と同様にまずヨーロッパで認められ、初期はフランスを根拠地として活動しました。



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