第三回 ジャコ・パストリアスとパット・メセニー

第三回目の講座です。
 皆様の感想、とても面白く拝見しています。そういう見方もあったのかー!と感心することがあります。では前回の質問から見ていきましょう。

Q: キース・ジャレットはゴスペルの影響を受けているということだが、なぜ?
 A: ゴスペル調が好きなんでしょう(笑)。キース以前にゴスペル調というかジャズ・ロック風の演奏で有名な人にニーナ・シモン、レイ・チャールズ、ラムゼイ・ルイス、などがいますが、やはりキースは別格です。

 Q: 2002年にNHKで放映されたジャズの歴史のドキュメンタリーがDVDで発売されているそうですが、タイトルは?
A: 「ケン・バーンズ JAZZ」ジェネオン エンタテインメント - ASIN: B0000DJWEG DVD10枚組¥39.900だそうです。私はテレビで見ただけですが、ジャズのドキュメンタリーの決定版です。

 Q: 70年代というとハービー・ハンコックもいろいろ活動していましたが彼の位置は?
 A: ハンコックも「ヘッド・ハンターズ」というファンク・バンドを率いて大人気でしたね。70年代後半から日本でも夏のジャズ・フェスティバルが盛んに行われ、ハンコックは「V.S.O.P.」という60年代マイルス・クインテットの再現のようなバンド(マイルスの代わりにフレディ・ハバードがtp)が好評でした。今回は「70年代以降のジャズ」という広いテーマにしたので残念ながらハンコックは割愛しました。私にとってハンコックは、60年代マイルス・クインテットでのプレイが最高だと思っています。

 今回の講座は、私がリアル・タイムで体験した「70年代以降のジャズ」の中で、特に好きなものを紹介する、という形で進めています。
私の好みですから、ジャズの歴史にとっての重要度は人によって異なる評価になるかと思います。しかし、大きな流れとしては間違ってはいないとは思います。

 今日はエレクトリック・ベース奏者、ジャコ・パストリアスとギタリスト、パット・メセニーの二人を中心に紹介したいと思います。
 私もジャズ・ベース奏者の末端の一人ですので、実際に楽器を演奏しながら簡単な解説をしてみたいと思います。
(ここでウッド・ベースの4ビート奏法から、エレキ・ベースのフレットありとフレットレスの違い、エレキ・ベースの各種奏法・2フィンガー・ピッキング、ピック弾き、いかりや長助奏法(笑)、ハーモニクス奏法、ダブル・ストップなどを実演)


本日のレコード

1.2."Donna Lee" "Portrait of Tracy" Jaco Pastorius "Jaco Pastorius"1975

  70年代のジャズの十大ニュースを選べばたぶんベスト3に入るであろう事件は、ジャコ・パストリアスの登場だと思います。
76年に発表されたこのジャコのデビュー・アルバムとウエザー・リポートの「ブラック・マーケット」で聴けるフレットレス・ベースの演奏に世界中のジャズ・ファン、ミュージシャンは大きな衝撃を受けました。
エレキ・ベースはジャズの世界では60年代から使用されてはいましたが、極端に言えば「ウッド・ベースの代用品」「ロックの世界の楽器」と考えられていました。
しかしジャコの演奏はそうではないことを照明しました。ジャコの演奏に見られる、凄まじく高度な演奏技術、バンドをグルーブさせる力、そして彼の作曲・編曲など音楽的能力、カリスマ性、まさにエレキ・ベースの革命。
まさしく彼は「天才」でした。しかし悲劇的なことにそれは「”破滅型”天才」だったのです。
 まず彼のデビュー・アルバム「ジャコ・パストリアス」から1945年のチャーリー・パーカーの演奏に敬意を表し、高度な技巧と音楽性を示したベース・ソロと、ハーモニクスという特殊奏法をギミックではなく、作曲・演奏・即興の音楽的必然性の中の中心に示した演奏を聴いて下さい。初めて聴いたときは本当に「ぶっ飛び」ましたよ。



3.4. "Birdland" "A Remark You Made" Weather Report "Heavy Weather"1976

  ジャコがデビュー・アルバムを吹き込むきっかけは、有名プロデューサーがジャコの妻をたまたまナンパしたら「私の夫は世界一のベース・プレーヤーよ!」と言ったからだというのがおもしろいですね。
笑いものにしようとジャコをスタジオに呼んで演奏させたプロデューサーは、あまりにものすごいプレイに「本当に世界一だ・・」と感動して一流プレイヤーを集めてアルバムを作ったそうです。
さらにそれを聴いたベーシストを探していたウエザー・リポートのジョー・ザヴィヌルがジャコに電話して「ところでエレキ・ベースは弾けるのかい?」と聞いたエピソードは有名です。(もちろんジャコのデビュー・アルバムは全編エレキ・ベースを弾いています。ウッド・ベースの演奏かと思ったのです)
 ウエザー・リポートに参加したジャコはあっという間に有名になり、それまで「難解なジャズ・・」と思われていたウエザー・リポートを、多くの若者を引きつけ大ホールを満員にする人気バンドにしてしまいました。
今回聴くのはジャコ参加の2枚目のアルバム、ミリオン・セラーを記録した「ヘビー・ウエザー」です。このアルバムからジャコはザヴィヌルと並んで共同プロデューサーとクレジットされています。



5.6."Three Views of a Secret" "Chromatic Fantasy-Blackbird-Word of Mouth" Jaco Pastrius "Word of Mouth"1980

 1980年に録音されたジャコの2枚目のリーダー・アルバム「ワード・オブ・マウス」は彼の作曲・編曲・演奏、などすべての音楽能力を使いバッハからファンク、フリー・ジャズ、レゲエ、ビートルズまであらゆる音楽の入り交じった傑作です。
今回はトゥーツ・シールマンのハーモニカをフューチャーした美しい曲「スリー・ビューズ・オブ・ア・シークレット」とバッハの半音階幻想曲、ビートルズのブラックバード、とメドレーで続く部分を聴いて下さい。
ジャコは1981年にウエザー・リポートを脱退し(実質的にリーダーとなっていたザヴィヌルと音楽的にも人格的にも衝突するようになっていたようです)自分のバンド「ワード・オブ・マウス」で活動するようになります。
 このころからジャコの飲酒、ドラッグ、躁鬱病質、から生まれる奇行は周囲のミュージシャンたちの心配の種となりました。
1982年ビッグ・バンドを率いて日本公演を行ったときの行動は伝説になっているほどです。1983年以降の彼は、ほとんどボロボロの状態で、時たま見せる天才の片鱗でかろうじて音楽活動を続けていましたが、仲間のミュージシャンたちの手に負える状態を超えていたようです。
家族や親しい友人たちでさえ彼が自滅的に転落していくのを止めることはできず、そしてついに、1987年9月の深夜、高級クラブに入ろうとして断られたジャコはクラブの用心棒と乱闘になり、殴り殺され、35歳の生涯を終えました。 



7.8.9."Free Man in Paris" "Jaco's Solo" "Dry Cleaner From Des Moines" "Amelia〜Pat's solo" Joni Mitchell "Shadows and Light" 1979

ジャコの絶頂期の演奏は大雑把に言って、「ワード・オブ・マウスのライブ盤を含むリーダー・アルバム」、「ウエザー・リポートのメンバーとしての録音」そして「ジョニ・ミッチェルとの共演」、の三つに聴くことができると私は思います(ジャコの死後、多くのライブ録音が主のレコードが出ましたが玉石混合のようです)。
 ジョニ・ミッチェルは1968年にデビューし、現在に至るまで活躍しているシンガー・ソングライター・・というより「ジョニ・ミッチェルの音楽」を歌い、演奏する、素晴らしい芸術家です。
彼女は1970年代にジャズ演奏家と盛んに交流し、1976年から79年まではジャコと共演しています。今日はジョニの1979年のライブ・ツアーを記録した映像を見て下さい。
ジョニの歌とギター(彼女はギターの名人でもあります)、ジャコのベースの他、マイケル・ブレッカー(ts)、ライル・メイズ(key)、ドン・アライアス(ds)、そして若きパット・メセニー(g)、というジャズ界のそうそうたるメンバーです。
まずロック調の「パリの自由人」から、ジャコのソロ・パフォーマンス、ジャズ調の「デ・モインのおしゃれ賭博師」、そしてジョニの弾き語りからパットのソロになる「アメリア」と聴いていきましょう。しかし、ものすごいメンバーをバックに堂々と歌うジョニ(当時36歳)の格好良いこと!



10."Solar" Pat Metheny "Question and Answer" 1989

 さて、今度はパット・メセニーの演奏を聴いていきましょう。
パットは現在のジャズの最重要人物の一人であると思います。彼もまた、ジャズ、ロック、ブラジル音楽、フリー・ジャズ、等々色々な要素を持つ音楽家で、何を紹介しようか本当に迷ったのですが、まず私の一番のお気に入り「クエスチョン・アンド・アンサー」を聴いて下さい。
これはパットの作品ではジャズ色の強いもので、パットのギター、デイブ・ホランドのベース、ロイ・ヘインズのドラム、というトリオで演奏されます。アルバム冒頭で、マイルスの40年代の曲を素晴らしい即興演奏でまさに現代のジャズとして再創造しています。  



11."First Song" Charlie Haden & Pat Metheny "Beyond The Missouri Sky" 1996

これは、ベースのチャーリー・ヘイデンとパットのデュオです。
ナイロン弦のアコースティック・ギターとウッド・ベースという二つの弦楽器から生まれるなんとも魅力的な音楽世界を味わって下さい。
ベースのヘイデンは、前回のキースのカルテットのメンバーで紹介しましたが、1950年代のオーネット・コールマンのバンドでデビュー以来現在まで活躍しているベースの巨人です。 



12.13. "Have You Heard" Pat Metheny Group "More Travels"1991

パットは1970年代後半から自分のバンド「パット・メセニー・グループ」を率いて活躍しました。1991年のライブ・ツアーを記録した映像作品から聴いて下さい。
 メンバーは、パットのギターにライル・メイズ(key)、スティーブ・ロドビー(b)、ポール・ワーティコ(ds)、アーマンド・マーサル(perc)、ペドロ・アズナール(vo.g.etc)です。
 「パット・メセニー・グループ」の作品は、精緻にアレンジされて見事なアンサンブルを聴かせるのですが、私の好みで言うと、アドリブ・ソロはほとんどパットのみであくまでパット中心の音楽、というところが今ひとつのめり込めないところです。それ故私はパットの作品では前記の「クエスチョン・アンド・アンサー」のような各人の個人プレイが生かされるスペシャル・プロジェクトの方を愛聴しています。皆さんはいかがでしょう?



14.15."Always And Forever" "See The World" Pat Metheny "Secret Story Live"1992

 1992年に8人編成のバンドでライブ・ツアーをしたときも素晴らしい映像作品を残しています。
アコースティック・ギターをじっくり聴ける曲と、バンドで盛り上がる二曲を聴いて下さい。メンバーはベース、ドラム、パーカッションは同じで、キーボードにギル・ゴールドスタインとジム・ベアード、トースター・デ・ウィンクル(g,etc)、マーク・レッドフォード(vo,g,tp,etc)という一流ミュージシャンを集めています。




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