第二十三回(最終回)「再び、ジャズとは何か」


 いよいよ最終回となりました。ジャズっておもしろいものだとちょっとでも感じてくれたら うれしいです。まだまだ聴かせたいレコードはたくさんあるのですが、今回は1920年代から のジャズの歴史を私の大好きな演奏でたどってみましょう。
ジャズは20世紀の初めに、ニューオーリンズでヨーロッパのクラシック音楽とアフリカの 黒人の音楽との融合によって生じたと考えられています。まず1920年代にそれ以降のジャズ音楽の 基礎を作りあげたルイ・アームストロングの演奏から聴いていきましょう。

本日のレコード

1.「マスクラット・ランブル Muskrat Ramble」
2.「バーベキュー料理で踊ろう Struttin' with Some Barbecue」"The Louis Armstrong Story"1925
3.「ウエストエンド・ブルース West End Blues」"A Portrait of Louis Armstrong"1928

 もう70年以上前の録音なのにルイ・アームストロングのアドリブ・ソロは今もなお私たちに大きな感動を与えます。   このレコードを聴いてジャズを一生の仕事とすることを決心した人は世界中に限りなく居ます。

4.「君微笑めば When You Smiling」
5.「あなたが私を好きだなんて I Can't Believe That You're in Love with Me」"Billie Holiday"1938

 1930年代を代表して、ビリー・ホリディのボーカルとレスター・ヤングのテナー・サックスを中心とした 演奏を聴きましょう。レスターの素晴らしいアドリブ・ソロ、ビリーの時間や空間を越えて私たちの感情に 訴えかけてくる声・・特に「あなたが私を好きだなんて」では恋の成就した幸せの中にもそれが本当のものかしら という不安や恐れまで感じさせます。

6.「グルービン・ハイ Groovin' High」
7. 「ショウ・ナフ Shaw' Nuff」"Groovin' High" Dizzy Gillespie 1945

1940年代では、ビ・バップと呼ばれた新しいスタイルが生じました。これはリズムの細分化、 複雑な和音分解、などが特徴で即興演奏をさらに豊かなものにした。その代表者、トランペットの ディジー・ガレスピーとアルト・サックスのチャーリー・パーカーの演奏です。

8.「ソー・ホワット So What」"Kind of Blue" Miles Davis 1959

1950年代はビ・バップのスタイルからハード・バップ、ウエストコースト・ジャズなど、一般に モダン・ジャズと呼ばれるスタイルが発展します。そこでは和音分解によるアドリブが限界まで追求され マンネリ化する面もあったようです。50年代末にマイルス・ディビス、ジョン・コルトレーンたちは モード奏法と呼ばれたさらに自由なアドリブの仕方で即興演奏の枠を広げました。今回のレコードでは マイルス、コルトレーンの他、アルト・サックスのキャノンボール・アダレィ、ピアノのビル・エバンスらの 演奏が聴けます。

9. 「Fixed Elsewhere」"The Topography of The Lungs"1970 Evan Parker, Derek Bailey, Han Bennink

  1960年代は、マイルスたちのモード奏法の他にフリー・フォーム・ジャズが誕生しました。 これは、自己表現のためならば和音進行や定速のリズムなどの制約をなくし極端に言えば「何をやってもいい」 というものです。このやり方は今まで以上にプレイヤーの個性や才能に演奏の出来が左右され、恐ろしく感動的な演奏 になることも逆に単なる騒音の塊になる可能性もありました。アメリカのオーネット・コールマン、セシル・テイラー、 アルバート・アイラー達からはじまったフリー・ジャズはヨーロッパのジャズ界にも大きな影響を与えました。 それまでジャンゴ・ラインハルトなど一部を除いてあまり成果のなかったヨーロッパのジャズ・プレーヤーたちは 現代音楽の流れとも合流し、アメリカのフリー・ジャズ以上に過激で前衛的な演奏をはじめ、 大きな収穫をもたらしました。ヨーロッパのフリー・ジャズは「ジャズ」の枠さえ越えてもはや 「フリー・ミュージック」「improvised music即興音楽」と呼ばれる音楽にまで発展しています。 今回はイギリスのエヴァン・パーカー(sax)、デレク・ベイリー(g)、オランダのハン・ベニンク(ds) の演奏を聴いて下さい。


さて、一年間の講座が終わりました。一年通しての感想・印象に残ったことなどもおしえてください。

生徒の意見

(女子A) 1.123番目の曲はジャズが出来た頃の曲だけに楽器の数が少ないみたいだけどいい感じでした。 こういう曲からはじまって今まで聴いた曲のようになっていったんだなあと思いました。 678番目の曲はこういう感じがモダンジャズなんだなあと思いました。あまりよくわからないのですが リズム感があって複雑なアドリブがあるのがモダンジャズなんですね。一年間ジャズを聴いて、 ふだんは触れることのない曲を聴けて本当に良かったと思います。いい曲もたくさんあったし、 わからないものはわからないなりに楽しかったです。

(男子B) マイルスの事は余りよく知らないけれど「だからどうした」という口癖はあの顔によく似合っていると思う。 先生がウッド・ベースを持ってきて演奏してくれたときが一番面白かった。一番興味が湧いたのはビル・エバンス でした。

(男子C) はじめは「ジャズなんか・・」と思ってたが今になってジャズの良さが解ってきたみたいだ。 今日の曲はみんな良かった(最後の曲を除いて。あれ曲じゃないよ!)。

(女子D) ジャズというのは暗くてじめじめしていて、ちょっと正常でない人たちのやっているものだと思っていました。 話を聞いているうちにそんなことはなく真面目な人楽しくやっている人が沢山いるんだと言うことが解ってきました。 ただやっぱり自分の感性で勝負する世界ではあるので自分が不安になったりする人もいますね。それはそれで私としては ジャズ的でいいと思います。今日ジャズの歴史の話がありましたけど、筒井康隆の「ジャズ大名」を読んでたので面白かったです。 ビリー・ホリディについても本を読んでたので聴きたいなーと思っていました。こういった個性がものすごく強い人を 生み出すジャズの可能性というのは大変なものだなあと思いました。モダンジャズというといまでもあやしい響きだなあと 思います。マイルスは落ち着きがあります。渋いです。彼はいいと思います。最後の曲ですけど・・破れる・・壊れるっという 感じでドキドキしました。いろいろ書いてきましたけどジャズはまだまだ私のずーと遠くにいますね。

(女子E) はやいもので、もう今日が最後になってしまったけれど、今までのではビデオで見た・・誰だったか忘れたけど・・演奏が 印象に残っている。今日きいたのでは3曲目の中で人の声が聞こえてきたのが面白かった。昔の1920年代のもいいけど 678など新しめの曲の方がいいと思った。最後にきいたのは本当に曲なのかと思った。なんかハチャメチャで初めだけ こういう感じなのかと思ったら最後までこの調子だった。すごく恐い。夢に出そう。


最後なのでたくさん書いてくれました。「ちょっと正常でない人たちのやっているもの」っていうのがいいな。 私の好きなものはほとんど聴かせたのだけれど、セシル・テイラーを出す機会がなかったのは残念だったなあ。

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