序論
関連の文献には固定式の三脚をもったH VIIが飛行していたとあるが、このような誤解は、H V V3がH VIIに極似しているために生じたものだろう。
この両機は翼幅が等しく、風防ガラスの形状も殆ど同じだからである。
このH VIIは終戦までに一機だけ試作され、飛行していたことがヴァルター・ホルテン氏の情報により確認されている。
H VIIが、訓練後に無尾翼機型の高速戦闘機ならびに爆撃機に搭乗するパイロット用の練習機として設計されたのは、1938年のことだった。しかし計画は1942年に入ってようやく具体化され、1943年にHo VII V1がミンデンの航空機メーカー、ペシュケ社で製作された。
・ホルテンH VII V1
当機は1943年末までに完成し、シャイドハウアーとヴァルター・ホルテン両パイロットが各々18時間のテスト飛行を行った。また当機は1945年3月にはテスト飛行のためにオラニエンブルグにあったが、その後の運命は現在不明である。
・ホルテンH VII V2
当機は1944年に製作が開始されたが、終戦時にはまだ完成していなかった。また、H VII V1 機と同様、方向舵の代わりにいわゆるツンゲン・ラダー(舌状方向舵)を備えていた。当機の主要な各部は、構造がざっと見てとれるような写真で示した。
・ホルテンH VII V3
当機の機体の一部が、終戦までに同じくミンデンのペシュケ社で製作された。外翼にはツンゲン・ラダー(舌状方向舵)の代わりに、後にHo IX 機に用いられたような、上下に曲がるフラップが取り付けられていた。
・H VII量産型機
H IXに搭乗するパイロットの訓練用として、20機を規格生産せよとの指令が1945年中に出された。この時点では当機(H IX)にはRLM ナンバー 8-229がつけられ、ゴータ社が量産態勢を整えていた。
H VIIの型番号は8-226 であった。
H VとH VIIの比較
項目 | H V | H VII |
---|---|---|
翼幅 | 16.00m | 16.00m |
全長 | 6.00m | 7.5m |
原動機 | HM60R × 2 | As10C × 2 |
後退角 | 34° | 40° |
後退角の延長線 | 屈曲 | 直線 |
着陸装置 | 固定式 | 引込式 |
H VIIの概説
(1)主翼中央部
主翼中央部は前後して座る訓練生と教官を収容する役目をもち、型枠によって側面全体を形づくっている、円筒形の構造物から組み立てられている。二つの外翼は取り外せるようボルトで主翼中央部に取り付けられている。
(2)外翼
外翼は主桁、肋材および合板製の外板からなる。肋材と主桁は木製である。H VII V1およびV2には外翼に各一基のツンゲン・ラダー(舌状方向舵)が取り付けられており、必要な場合に外へせり出すようになっている。H VII V3 機ではツンゲン・ラダーの代わりに、翼面に上下一対になったフラップが各一基取り付けられているので、翼の後縁部の組み立てが若干異なっている。この相違は写真をみると良く理解できる。
(3)着陸装置
一体となった二本の前脚をもつ引込式の着陸装置が装備されている。この前脚は後方へ持ち上がり、胴体中央部に引き込まれる。また前脚は互いにがっちりと固定され、静止状態では機体の総重量の50% を支える。
二本の主脚は、地上では各々総重量の25% を支える。これらは前方に持ち上がり、主翼中央部に引き込まれる。
着陸装置の引き込みには油圧装置が用いられ、脚が出入りする穴は、はね蓋で閉じられる。
(4)原動機
二基のAs 10 C エンジンは主翼中央部に取り付けられ、長いシャフトを介してアルゴス可変プロペラを稼動させる。エンジンは主桁の前にあり、また両翼面の翼根部には各々300 l入る燃料タンクが主桁の後ろに取り付けられている。
(5)舵
飛行高度は両翼面の昇降舵と補助翼のコンビネーションにより操作される。H VII V1およびV2では外翼に、補助翼を補佐するツンゲン・ラダー(舌状方向舵)が組み込まれており、必要な場合、40cm外へせり出す。このツンゲン・ラダーの後縁は面取りされており、これが空気の乱れをさらに大きくするので、方向舵と同様の望ましい効果が得られる。H VII V3 機では外翼にフラップが取り付けられ、やはり空気抵抗と空気の攪乱によって方向舵と同じ効果を持つ。
二基の原動機の間の主翼中央部には、下方へ60°曲げられる着陸用のフラップが取り付けられている。外翼の翼根から昇降舵のつけ根にかけて、離着陸時の操舵用にもう一つ舵が延びており、最大で45°まで繰り出すことができる。
写真の解説
本当は写真も載せたいところですが、そこまでやると逮捕されそうなので、やめときます。
番号 | 解説 |
---|---|
写真1 | この写真はホルテンVII V1が通りすぎたところを後ろからみている ホルテン無尾翼機の優美な輪郭が余すところなく示されている |
写真2 | H VIIは横から眺めると矢尻の形をしている |
写真3 | H VII V1を上からみたところ |
写真4 | 同機を前からみたところ |
写真5 | 後ろからみたところ |
写真6 | 横からみたところ これは1943年末、ゲッティンゲンで撮影された |
写真7 | H VII V1 を用いた荷重テスト |
写真8 | 製作中のH VII V2の胴体中央部。 これは1944年8月6日にミンデン(ペシュケ航空機製作社)で撮影された |
写真9 | 翼面繋材の主桁を前からみたところ。(H VII V2) |
写真10 | H VII V3の外翼の構造。この外翼はもう、いわゆるツンゲン・ラダーを装備しない予定だった |
写真11 | H VII V2の翼面からツンゲン・ラダーがせりだし、方向舵の代わりになっている |
写真12 | 収納されているツンゲン・ラダー |
写真13 | 外板をはったH VII V2の外翼 |
写真14 | H VIIの外翼部分の方向舵の軸受け |
写真15 | せり出したツンゲン・ラダーの後縁は面取りされている |
写真16 | 内側にある補助翼に取り付けられているトリマー |
写真17 | 右プロペラの取り付け位置 |
写真18 | H VIIのシャフトと、下ろされている主脚 |
写真19 | H VIIが着陸用フラップを下ろしている |
写真20 | H VIIが前脚を下ろしている |
写真21 | H VIIが屋外に出されたところ |
写真22 | シャフトのカバーを外したH VII機が、回転テストに向けて待機している |
写真23 | H VIIのスケッチ |
写真24 | 格納庫に入っているH VII(左のプロペラは外されている) |
写真25 | 離陸に向け滑走するH VII |
緒元
項目 | 内容値 |
---|---|
機名 | 8-226 V2(1944) |
用途 | 練習機 |
原動機 | As 10 C × 2(As可変プロペラ 付) (離昇出力 2000回転/min.:240 HP) (公称出力 1880回転/min.:高度0m:200 HP) |
全幅 | 16.00m |
全長 | 7.50m |
全高 | 2.60m |
主翼面積 | 44.0u |
翼面荷重 | 72.7s/ u |
馬力荷重 | 6.7s/ HP |
自重 | 2200s |
乗員重量 | 200 s |
燃料搭載量 | 450s |
総重量 | 3200s |
最大速度 | (高度0m換算)340 q/h |
巡行速度 | (高度0m換算)310 q/h |
離陸速度 | 110 q/h |
着陸速度 | 100 q/h |
最長航続距離 | 1280q |
上昇時間(総重量 2500Kg時) | 高度2000m まで:4.0min. 高度4000m まで:10.0min. 高度6000m まで:20.0min. |
絶対上昇限度(総重量 2500Kg時) | 8000m |
離陸滑走距離(20m まで上昇時) | コンクリート 327m 草地 352m |
出典 | 1945年1月1日のRLM 型小冊子8-226 V2 1944年12月のデータおよび性能小冊子 |