全翼機の世界

解説:Northrop MX-324/334 "Rocket Wing"

 MX-324/334はXP-79(陸軍計画 MX-365)の実物大飛行試験機(XP-79より2割ほど小さくなっていますが)として計画/製作されたものです。 XP-79は全翼機、ロケットエンジンと初めての試みが多く、こういうものが作られたのも不思議ではない気がします。
 MX-324/334グライダーとロケットエンジン搭載の計3機が製作されましたが、名称がはっきりしていません。 グライダーをMX-324、ロケット搭載機をMX-334とする説、逆にグライダーをMX-334、ロケット機をMX-324とする両説があります。 参考にしたPapeやMatthewsの本では、グライダーがMX-334として3機製作され、その内の1機がロケットエンジン搭載機としてMX-324と識別されたとしています。 納得できる説なので、ここではそれに従うことにします。

 本機は当初、小さい車輪付きのトロッコ(Me-163のドリーのようなもの)が離陸用に装着されましたが重過ぎて自動車(!)による牽引に失敗、 固定脚(スパッツ付き)が装着され滑空試験を開始しました。(1943.10.03 ジョン・マイヤーズにより初滑空)
操縦性の面では、滑空中にパイロットの不注意(?)から背面状態になって操縦不能となりパイロットが脱出するという事態でも背面滑空を続けたこともあるらしいので、背面のまま姿勢を保っていたことに疑問符が付きながらも、静的な安定性は確保できていたことになります。
装備されたロケットエンジン(Aerojet XCAL-200、液体ロケット、再着火可能)はXP-79用に製作されていたもので、1944年7月5日、P-38による空中曳航から切り離されたMX-324はエンジンに点火、4分18秒間燃焼して、非公式ながらアメリカ初のロケット機としてなんとか成功を収めました。
何とかというのはXCAL-200は推力が低すぎて、430km/hほどにしか速度が出なかったのです。
 結局、推力向上が見込めないXCAL-200はメーカーからも開発が断念され、XP-79自体もターボジェット搭載のB型に開発が移行していくのです。

最終更新日2001.02.11


MX−324/334データ
ノースロップ社コード NS-12
全幅32 ft
全長14.25 ft
全高 7 ft(垂直フィンを含む)
翼面積252 sq ft
翼型NACA 66,2-018(全翼)
最大翼厚比18 %
テーパー4
アスペクト比2.5
空虚重量2,960 lb(グライダー)
総重量3,656 lb(グライダー)
燃料搭載量約 500 lb
最大速度300 mph(ロケットエンジン時)
航続時間牽引+自由滑空 14〜29 分
航続距離20 miles
上限高度17,000 ft(試験時の最大高度)
エンジンAerojet XCAL-200(推力:200 lb)
乗員1 名
初飛行MX-334 3号機:1943.10.02 by John W. Mayers(於)ロジャー乾湖 カルフォルニア 牽引 
MX-334 1号機:1943.11.30 by Harry Crosby(於)ロジャー乾湖 カルフォルニア 牽引
MX-334 2号機:1944.07.01 by Alex Papana(於)ハーパー乾湖 カルフォルニア 牽引
MX-324(MX-334 2号機):1944.07.05 by Harry Crosby(於)ハーパー乾湖 カルフォルニア

日付 試験概要 パイロット 機体 場所 備考
1943 1号機 完成後、ラングレーフィールドの風洞で試験。
1943.08.25 2号機 ノ社ホーソーン工場で、完成
1943.08.27〜28 地上滑走 Harry Crosby 2号機, MX-334 ミュロック乾湖 ノ社テストパイロットJohn Myersの運転するキャデラックで、初地上牽引。
1943.09.14 地上滑走 Harry Crosby 2号機, MX-334 ミュロック乾湖 離陸しようとして直後に失速。右翼、着陸装置、機種部分を大破。3号機が試験飛行に用意される。
1943.09.30 地上滑走 John Myers 3号機, MX-334 ミュロック乾湖 垂直尾翼、4輪式スキッドを装備
1943.10.02 試験飛行 1 John Myers 3号機, MX-334 ミュロック乾湖 同日の数回の地上滑走のあと、P-38による曳航飛行。操縦特性は満足できると報告。
1943.11.09 試験飛行 2 Harry Crosby 3号機, MX-334 ミュロック乾湖 安定性確認の開始
1943.11.10 試験飛行 3 Harry Crosby 3号機, MX-334 ミュロック乾湖 曳航機(P-38)後流の影響か、深い左へのダイブ旋回から背面に陥り、Harry Crosbyはパラシュートで脱出。機体大破。
この事故により1号機を急遽飛行状態へ。また、スラットを削除し、スキッドを改良。加えてXCALR-200ロケットエンジンを装着。
1943.11.30 試験飛行 4 Harry Crosby 1号機, MX-324 ミュロック乾湖 ロケットエンジン付き機(MX-324)としての初飛行。
1943.12.02 試験飛行 5 Harry Crosby 1号機, MX-324 ミュロック乾湖 着陸時、数回バウンドして、スキッドを破損(機体自身は無傷)。
1943.12.10 1号機 ミュロック乾湖 スキッドの修理なるも、乾湖を豪雨が襲ったため、ローチ乾湖に移動。
また、スキッド方式から、前輪式のスパッツ付き固定脚を装備。
1944.04中旬 地上滑走 Arthur Eisele米陸軍中尉 1号機, MX-324 ローチ乾湖
1944.04.19 試験飛行 6 Harry Crosby 1号機, MX-324 ローチ乾湖
1944.04.29 試験飛行 7 Harry Crosby 1号機, MX-324 ローチ乾湖
1944.04.30 試験飛行 8, 9, 10 Harry Crosby 1号機, MX-324 ローチ乾湖
1944.05.05 試験飛行 11 Harry Crosby 1号機, MX-324 ローチ乾湖
1944.05.11 試験飛行 12 Harry Crosby 1号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.05.19 試験飛行 13, 14 Harry Crosby 1号機, MX-324 ハーパー乾湖 試験飛行14における重心後退時の試験時に、オシレーションにより着陸時に事故。
修復中の2号機(同時に3輪式とロケットエンジンを装備中)が試験飛行に復帰することに。
1944.06.23 ロケット噴射による地上滑走 Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.07.01 試験飛行 15 Alex Papana 2号機, MX-324 ハーパー乾湖 2号機の初飛行
1944.07.05 試験飛行 15A Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.07.05 試験飛行 16
(動力飛行 1)
Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖 P-38による空中曳航から切り離されたMX-324はエンジンに点火、非アメリカ初のロケット動力による飛行。
1944.07.11 試験飛行 17
(動力飛行 2)
Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.07.12 試験飛行 18
(動力飛行 3)
Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.07.12 試験飛行 19 Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.07.14 試験飛行 20
(動力飛行 4)
Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.07.18 試験飛行 21
(動力飛行 5)
Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.07.18 試験飛行 21, 22
(動力飛行 5, 6)
Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.07.19 試験飛行 23 Harry Crosby 2号機, MX-324 ハーパー乾湖
1944.07.20 試験飛行 24 Harry Crosby 2号機, MX-324 ミュロック乾湖
1944.07.25 試験飛行 25
(動力飛行 6)
Harry Crosby 2号機, MX-324 ミュロック乾湖
1944.07.25 試験飛行 26
(動力飛行 7)
Harry Crosby 2号機, MX-324 ミュロック乾湖
1944.07.26 試験飛行 27 Harry Crosby 2号機, MX-324 ミュロック乾湖
1944.07.27 試験飛行 28, 29 Harry Crosby 2号機, MX-324 ミュロック乾湖 最終飛行

使用文献:Northrop Flying Wings, G.R. Pape, Schiffer, 1995
     Chronology of MX-324, H. Matthews, HPM Publivation, 1995

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