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総合の意味は不明確ではあるが、何となく総合政策が必要に思える背景には、
地球温暖化などの環境問題、国際紛争激化、過剰な都市化、貧困の克服(南北問題、ホームレス、自殺増加、犯罪増加など)、
年金問題、少子化、農林水産業の危機、食料自給率、危機的な財政赤字と借金、ゼロ金利、若者の雇用、
学力低下及び教育と職の繋ぎ目の崩壊、地域産業の衰退、地域文化の破壊など、
解決すべき課題が山積みのまま放置又は放棄されている現状がある。

これらは、相互に複雑に関連があり複合的でもある。総合的な思考が必要に思えるのは頷ける。
しかし、本質は同根かもしれない。総合とは、問題に横串を通して、解決策を根幹から考えることでもある。

解決策は、多面的な分析に基づいて、次の時代の社会やコミュニティをリデザインすることから始まる。
そのためのキーになるのが時代背景と価値感である。
これを体現していくため、人々の意識と力がビジョンとマニフェストに表現されなければならない。

ここでは総合政策の中味ではなく、考え方に就いて新しい観点で議論してみます。
1999、2003と見直し、今回2005年版として改訂しました。


     

 
 1.総合政策論に思う

・巷に総合政策に関わる研究科を持つ大学院は、増えてはいるがそれ程多くはない。各校は、それぞれの思いをインターネットで発信しているが、自分の処は何それの考え方で研究・教育しているといった表現であり、”This is the 総合政策”なるものではないらしい。 そもそも政策は総合性を備えるべきであるが、現実にはタテ割り行政をその主原因としてそうなっていない。 今、社会のパラダイムシフトにより、取り敢ず「総合」なる冠を被らざるを得ないのかもしれない。

・そうは言っても、来るべき社会が見通せない現在、自分の考える「総合政策論」からアプローチすべきでであろう。 しかしそこにはラスウェルの提唱した「政策科学」の基本的な考え方を織り込むことが重要である。

・市場経済の限界や制度経済学の必要性、複雑系への接近とか色々言われるが、社会科学の実証主義的、人間性排除した考え方や分析中心のアプローチに限界が出ているとの理解を、まず示すべきであろう。政策科学のポスト実証主義的、人間性・自然性の内包、統合的などに基づく将来への政策提言が必要とされる時代になっていると認識する必要がある。 政策提言が実世界でリアリティとアクチュアリティを持つべき故に、それは人間社会を反映して総合的であるべきであると理解したい。

・「知」の観点で言えば、政策科学は分析の段階で社会科学を形式知として活用はするが、更に政策提言者や市民・住民の暗黙知による練り上げを経た上で提言される、政策としての形式知をその成果とするものである、と考える。また、「学」の観点で言えば、トランス・ディシプリンという概念をアプリケーション指向で導入することである、と考えられる。そのためには、現場に出て深く物事を認知し理解することが重要なこととなる。


  2.総合化への課題

<総合という曖昧さ>
   ・総合の持つ曖昧さそのものが中身を漠然とさせ、これが総合であるという定義を空しいものにしているのかも知れない。
   ・しかし、目的を人間社会の在り方の解明に絞っていくと少しは見えて来るものがある。

<どの様な観点で総合化を図るのか、何と何を統合するのか>
   ・個の意識と社会システム:修士論文で記述を試みたが難しい問題である。→現在進行形!
   ・個の中での価値観の有機的統合化…人間の有する基本機能の活用であり、教育問題に帰結する
   ・芸術と科学の融合:技術的な秩序、両方の眼で物事を見る、考える。(P.ゲデス)
   ・経済、環境、文化、教育…地域でこそ総合化が可能であり、急務でもある。
     (経済+文化)を環境との共存で支え、研究・学習に基づく教育・訓練により進化させる。
   ・目的と手段の峻別と実行上での融合が必要である。
   ・原因と結果の峻別と関係性の解明

<実行面での工夫>
   ・生活場面での住民を含めたプロジェクト化(補助金のあり方と関連;元気な個への支援強化)
   ・都市と農村、地域と国の役割…国家観から見直しがなされ地方分権が進行中
   ・学問の融合、総合化…問題別体系化と融合理論の評価根拠化(効用)...遅々として進まず?
   ・産業面で、工業化と工芸化のバランスを取り直す(手仕事の重要性再認識)

 @手法の考察
  1)デザイン論の追求 ←→ 評価手法の同時開発が必要
    ・計量経済学などの知見を駆使して現状の認知と理解を行う。
    ・次元化した時間軸と空間軸を関連させたデザイン考具の構築
  2)計画学…日本では遅れている。
    ・デザインに基づくイメージモデルの操作モデル化(計画学)が必要である。
    ・QCDの評価:効果の予測…バランス論、モデル評価、価値論
  3)各フェーズでの市民参画の手法確立:ワークショップ
  4)プロジェクト管理
    ・意思決定過程のオープン化、プロセスの品質管理
 A新しい社会科学的接近
   第四次産業/HFE(Human Factor Economy)の認知と統合的発掘・接近
    ・統計的なデータに遡っての分析:計量経済学の活用
    ・「e-model:修論」を使った分析・統合が有効
    ・「やじろべい理論」による評価:新しいダイナミック・バランス論
 B新しい文明論の確立
    ・工業化文明と工芸・手仕事文明の融合
 C社会人教育の充実:専門家ほどリフレッシュが重要
   経験に新しい知識を加えての有機的な統合により、新しい知識を生み出す。
   つまり、暗黙知の進化により、環境変化に適応出来る形式知を得る。
    ・専門家養成としての修士コースやロースクール、リカーレント教育の重要性


  3.総合の位置づけ

・図は横軸に時間系、縦軸に空間系をとった1つの「知的な場」の上で、総合政策の位置づけを示したものである。

図−1:知的な場における総合政策の位置づけ

・但し、ここで言う時間軸、空間軸は、実社会の物理系の発想と人間の意識上の知の世界を統合した形の場を構成するものを示している。 また、2つの軸を関連付ける役割は政治/NGOがとるイニシアティブで実現される。

・華厳教に言う「存在するものは、すべて心の表れである」なる思想に近い考え方により、社会システムと個の世界を知の世界で統合してみた。(3.項参照) 少なくともまず上記のような多元的な要素と横断的な関係性を視座に据えるべきであろう。


   4.社会システムと個の融合モデルについて:重要(c 1999)

・社会システムと個、西洋の近代科学ではこれらを2分してきた。東洋では後者が前者に埋没してきたと言えよう。 これからの世界はそれらのどちらでもなく、両者が各々存在しながら融合する姿へと接近していくに違いない。 こらは認識論の世界でもあり、華厳教の唯識での統合性の中に、新しい世界を開く手掛かりを求めることが出来ると考える。

・3.項を含めもう少しブレークダウンすると、社会システムを時間軸と空間軸からなる物理系で表現し、 個を生命体としての生存権と知性(知的活動)からなる精神系で表現し、これら2つの系を融合させ、知の体系モデルで統合させて考えることが可能である。 発想としては鈴木大拙やパーソンズの社会システム論にも近いと考えているが、このモデルは工学の知識を織り込んでビジュアルに表現したもので、社会記述に極めて重要なフラクタルな構造を内包しているものである。

・実はこのモデルから、時間軸の次元としての”Sustainability”と空間軸の次元としての”Amenity”が誘導される。(別稿参照)


  5.総合の要素と場の構築論:修論で「e-Model」化

・「総合」に意味があると考え、それを少し掘り下げてみたい。総合化の記述にその基盤となる”要素”があり、これによって構成される”場”が存在すると仮定している。

・要素として9つの質の異なる切り口で論じてみたい。分類的には、2つの時間軸、2つの空間軸、これらが作用する4つの相、そして全体を横断的に関連付ける関係性である。 これらの要素が、図示した構造をもって総合の場を形作っていると考えられる。このモデルは実は3.項で述べたものの一部である。ここに、フラクタル構造の仕掛けが存在する。

図−2:e-model上の総合化デザインのイメージ図

・各軸、各相の表現は更にバラエティが考えられるが、質的なものの代表例を掲げて全体を理解し易くすることを旨とした。

・以下に各要素の概要を掲げておく。
 図式化の構造はT.パ−ソンズが提唱した社会システム論との類似性が高く見えるが、改善を伴って別物である。

 <時間軸系>
   (1) 歴史観、効率

     ・実在系(今)の時間的流れを示す。歴史観は蓄積(積分)であり、効率(微分要素)は価値観である。
   (2)生命観、公正
     ・将来を可能ならしめ、将来からのローリングバックとしての生命観と、その価値観としての公正を示す。

 <空間軸系>
   (3)活動 スパン

     ・実存系の活動対象の総合化スパンの軸を示し、産業、文化、環境・福祉、学習などからなる。
   (4)知のサイクル
     ・個と外とのインタフェースであり、形式知と個に内包される暗黙知が、この中で創造的過程のよって
      交換されるサイクルの軸を示す。

 <関係性>
   (5)価値体系(媒介):時間と空間の関係子+学術と現実の関係子

     ・個と社会システムの両方からの価値体系でなければならない。
     ・直交する時間系と空間系を横断的にまとめる要素である。こらは、社会システムと個の融合のイニシアティブをとり、
     個のコラボレーションを誘導する働きをする。”Hear & Now”なる感覚で当事者意識を発揮して最初の一歩を踏み出す。
     総合化は社会システムと個が意識の中で統合されるもので、人間の存在そのものでもある。
     人間中心なる考え方はこの点に由来すると考えることができる。このときの人間は、当然自然環境と一体化した、
     命ある存在としての人間である。
     ・この関係性は、下記の新しい軸(学術軸、現実軸)に関しても機能しなければならない。
     ・関係性の機能には、自律性と柔軟性に基づく価値判断と調整力が要求される。

 <4つの相>
   (6)精神系の発想・ビジョン:従来から存在する哲学・思想系全体

     ・人間の意識から発するもので、全ての知はここから想起される。

   (7)認知系:多様性を担保するもの。
     ・もう一つの新しい相である。個、環境・福祉、文化、持続可能性を入れた新しい価値基準に基づく
     受容・認知の在り方を示す。

   (8)学問体系:適応性・進化を担保するもの。
     ・社会システムと個の融合から出てくる新しい相の一つ。内容的に別に新しくないが、位置づけが
      重要である。総合化を想定すると、「社会経営学:仮称」的発想が一つの解に成りうる。
      当然、図中各要素を中心とする問題指向(Problem oriented)な体系が必要である。
     ・つまり、トランス・ディシプリナリな知の創造モードとなる。

   (9)実在系の方法論:従来から存在する社会工学的接近
     ・実存系に対する各種モデル、規範などに基づいて導出される。

 <新しい軸の存在と呼称>
     ・上記4つの相は、基本的に時間軸・空間軸・関係性の平面で記述されているが、 ここに更に新しい軸が想定出来る。
     認知系と学問体系は現状の変革を促す理論を提供する学術的な意味をもって対をなしている。
     また、精神系の発想・ビジョンとこれから出て来る実在系の方法論も、現実的な意味を持ち別の次元でやはり対をなしている。
     ・そこから、前者は学術軸(理念主義的な軸)、後者は現実軸(実証主義的な軸)と称しておきたい。
      これらの2つの軸は直交している。学問の独立性はこのことを示しているが、現実軸との交差を忘れてはならない。
     ・学術軸の次元は、創造性或いは進化度・専門度であり、現実軸の次元は利潤性或いは効果度/幸福度である。
     ・上記の関係子は、学術軸と現実軸をも結び付ける機能を有しなければならない。

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