「20年後の多摩のイメージ」

−『世界に開かれた多摩』への展開−


1.提案内容
1)「多摩ブランド構築」のための提案の背景と理由
 平成13年には多摩地域の人口が390万人に達した。静岡県レベルの日本有数な県に匹敵する人材と市場を持つ地域であるが、産業の幅や文化的な質は如何か。都の資料によると、いわゆる三多摩格差は数値的には解消されつつある。しかし、工業出荷高は都区内と肩を並べる位置に着けているが、数値化が困難な質的な面では、都区内と同等なレベルに達しているとの実感は薄い。
『多摩ブランド』の骨子となるのは、
  @ハード的な社会インフラとその上に築かれる活力ある産業と良好な暮し
  Aソフト的な住環境、教育、医療・福祉の充実
  B人の心や精神に関わる"文化の質" とこれを楽しむコミュニティの構築である。
これら3つが相まってこそ、多くの人の期待を裏切らない魅力と品格の確保が実現出来る。残念ながら多摩は自然環境は良好であるが、外に向かって開かれた"文化の質の高い地域"にはほど遠い。

2)現状認識
 上記Bの文化的な面は、個人的な感覚や好みに関わり多様性が大きいため、行政主導の議論に乗りにくい。一方で、多摩には文化の中心になるものが希薄である。短い期間に人口が10倍にもなり、都区内のベッドタウン化したことが大きな要因である。従って、蓄積された地域文化が薄まった上に、ベッドタウンの単純な機能が新しい文化の蓄積を阻んでいると考えられる。産業面では、規模そのものは工業出荷高が示すように大きいが、新しい文化を生む独自産業に乏しい。産業のソフト化や産業と文化の融合が大きな課題である。社会起業家や公務員起業家の出現が待たれる。

3)提案の骨子
 この様な認識に基づいて文化の質の高度化に注目する。洗練された文化的な魅力を高め、首都圏、日本全国そして世界中から人を呼び込み交流を促進する「世界に開かれた多摩」を築いていきたい。その基本になるのは自立と連携であるが、更に地域全体として外に開かれた意識を持たないと自己満足に終わり、「ブランド」を築くことは困難になる。その意識は行動を伴うべきであり、逆に以下に列挙する様な諸活動に注力する中から外向きの意識が培われていくものでもある。人を呼び込む諸活動を例示すれば、
  ・地域間交流:多様なコミュニティー間の国内、海外含めた交流の推進
  ・文化交流:伝統的な産業文化の活用と多摩に住む多くの文化人の自覚的行動
  ・教育・学習機能の多様化:留学促進、総合的学習や生涯学習の場の提供
  ・観光産業:豊かな緑と水を活用したグリーンツーリズム、滞在型・学習型への展開
  ・休日のレジャー:農林水産業が主導する体験型レジャーの開拓
  ・地域特性を活かした産業と生活:スローライフ、スローフード、スローアート
  ・地域文化の発信:大都市圏に隣接する地域の新しい文化モデル構築と情報発信
  ・新しい産業への国際投資促進と研究・研修機能の高度化:情報、環境、生活・文化
などである。文化の質の高度化を意図して地域の内外の人が協働することで、「開かれた多摩」を創造するチャンスが広がる。この様な諸活動に市民が直接関わる高い質の生活があってこそ、地域のコミュニティ活動の活性化が図られ文化の質が高まると共に、住民の誇りと地域の魅力の両立が実現出来るものと考える。

2.実現方法
1)ビジョンの整合
 東京都は平成13年に2015年の"多摩の姿"をビジョンで示した。今回の調査・研究は2020年をイメージしているが、これと路線を異にするのはリアリティーが薄い。都のビジョンで掲げられたグランドデザインは2つあり、T「東京の活力の一翼を担う多摩」とU「全国に誇れる多摩の生活と魅力」である。これらは内向きのビジョンで上記の@とAが主体である。ここでは、上記Bを明確に切り出して「世界に開かれた多摩」をビジョンに加えることを提案した。ブランド創造には、各方面で個々に活動することを基本にしながらも、各界のビジョンの整合と情報共有を進めることが肝要かつ必須である。

2)遠心力と求心力のバランス
 ビジョンの推進には、大学など研究機関の地域への関心、地域の各界専門家の知恵、地域産業による事業化など個々の独自活動に基づく遠心力の強化がまず必要である。これらが強まれば、ブランド創造に向けて地域活動を統合していく意味が出て来る。また、都としても現状の様に多摩地域を1つの係が統括することが何れ困難になり、課→部→局・担当副知事と組織を拡大して求心力を高める方向が必要になろう。
 地域を統合するシンボルと具体的な場が必要である。"TAMAらいふフ21"の時に展望されて消滅した「多摩文化フォーラム」の、産業振興と融合した形での実現が強く望まれる。ハード的にはモノレールのループ化と国際的な窓口としての空港の実現、及び交通機関のモーダルミックスが接続時間を中心にした、交通ネットワーク体系として再構成されることが、市民の求心力そして世界へ羽ばたく力となる人のネットワーク構築にも重要な役割を果たすものとして期待される。