御田(オデン)の起源
寒い季節に屋台の脇から湯気と共に煮汁にしみた種の香りが漂ってくるとつい立ち寄りたくなるお
でん、今ではコンビニの定番食品になりましたが、栄養のバランスが良く手軽で誰もが好む料理です。
この料理はいつ頃からオデンと言うようになったのでしょう。その歴史を調べてみました。
▲その語源は平安時代から行われている、農耕儀礼として寺社の行事に演じられる日本古典芸能の一
つである田楽躍(でんがくおどり)からきたとされています。
田楽について「日本書紀」には天智天皇10年(671)5月の条や「続日本紀」にも巻九天平14年(742)正月
の頃に宮中でタマイという形で奏でられていた記録が残されているように、タマイは古くから豊作を
祈願する田植神事に伴う芸能でした。その様式は時代や地域によって様々でしたが、次第に田楽躍と
称して専業家の集団により演じられる様になり、鳴り物の田楽衆や田楽法師という芸人が生まれまし
た。法師(僧侶・出家者)と称したのは宗教に寄与することで租税をのがれる為であったと言われてい
ます。田楽躍は舞楽、散樂、獅子舞などを取り入れて発展し、散樂は猿楽を生み、鎌倉時代に入ると
さらに能や狂言と言う芸能に発展したのだそうです。
参考
「田」の字の起源は畦で仕切られた田圃の形の象形文字で、また「楽」の字は旧字体で樂と書きますが
中央の白と左右の糸で鼓(ツヅミ)の形を表し木は設置する木製台の意でこれらを合わせて⇒太鼓と
いう意味になり、それはつまり音楽(音で楽しむ)の道具の意味⇒楽しむ⇒快い⇒容易⇒苦労が無い⇒簡単・・・と意味が拡大して現在
の様な広い意味になりました。
▲料理で言う田楽ですが、最初は豆腐を焼いて味噌を付けたものを田楽と言ったそうですが、この田
楽法師が躍る時に鷺足(さぎあし)や高足(たかあし)という竹馬の様な棒に上る姿が串に刺して焼
いた豆腐に似ているところから田楽と名付けられたようです。その後蒟蒻、里芋、茄子などの野菜類
や鮎、石斑魚(うぐい)、山女などにも同じ手法を用いて、魚類の場合は魚田(ぎょでん)とよび蒟
蒻や芋な野菜類はオデンとよぶようになりましたが、江戸時代後期になって焼かずに醤油で煮込むよ
うになり、便宜上魚菜共におでんとよぶようになりました。そして一説によると女房詞(にょうぼう
ことば)といって室町時代初期頃から宮中奉仕の女官が主に衣食住に関する事物について用いた一種
の隠語的ことばで、田楽を指しておでんと言ったとも伝えられています。
▲煮込みのおでんが現在のように全盛になったのは明治時代に入ってからです。それは次のようなと
ころで伺い知ることができます。歌舞伎の《慶安太平記》の中で、壕端(ほりばた)の丸橋忠弥のせ
りふで「煮込みのおでんでやっちょるネ」と言うところがありますが、この狂言の書き下ろしが明治
3年(1870)で、明治維新直後の薩長藩士がはばをきかしていた時代をあてこみ、江戸っ子の忠弥にわ
ざと九州弁を使わせる皮肉が、当時の観客に受けたのでした。江戸で煮込みおでんが盛んになったの
はおそらくこの頃からだろうと思われます。そして庶民の趣味に「おでんに燗酒」が盛り場の屋台店
に繁盛したことでしょう。その趣味は現在でも受け継がれていて「おでんに茶飯と燗酒」これが付き
物と言われています。
▲当時の関東では「ふぐ料理」と並んで「おでん」は下層客を対象にした料理で、その人気は次第に
衰退して行きましたが、大正12年(1923)の関東大震災で東京の料理店は殆ど全滅し、一般料理の分野
で関西からの圧倒的な進出に影響されると、復興機運のおでん屋も追従して関東に逆輸入されてきま
した。かつて関西に伝わって行ったおでんは、焼田楽と区別し関東炊き(又は関東煮)の名称でさら
に発展し「お座敷おでん」として客座敷にも出されるように繁盛していたのでした。
▲もともと味の付かない焼田楽だから味噌を付けたのでしたが、これに対して煮込みは味が付いてい
るので味噌を付けても付けなくても良く、その代わりにカラシを付けるようになりました。香辛料の
中でもカラシは最も殺菌力に優れているので、衛生設備のあまり良くない所では合理的な用意だと言
えます。味付けは、関東が昆布と鰹節の出汁を使い濃いめの醤油味で、関西は鶏ガラのスープを使っ
た薄味です。材料も本来関東では先の魚菜の他に揚げ豆腐やゆで卵、昆布や魚貝の練り製品ですが、
関西は他にも蛸や鶏肉、鯨の白い脂肉などを用いて趣向を広げていた様です。
▲最近では、特に伝統を重視して関東関西それぞれの趣向にこだわりをもっている店も有りますが、一般的には出汁も中間をとった味に仕上げている店が多く、材料も牛筋、揚げ袋、牛タン、ロールキャベツ、つぶ貝、ウインナソーセージ、串銀杏、白菜巻、鶏砂きも、鶉卵串、揚げ餃子などとそのバリェーションは各店で広がりつつあります。鍋は一般的に普通の土鍋で炊きますが、業務用には専用の中仕切りの付いた四角くて浅い(上記写真参照)銅製又はステンレス製の角鍋が多く、鍋を浅くしてあるのは、材料が被るくらいに汁をはり、煮過ぎないように弱火で炊きながら食べることが美味しいく、また材料を種類別に摂りやすく工夫した作りになっている為です。
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