何で速記法は速く書けるんやと思う? 腹をすかし切ったドラゴンボールの孫悟空が狂ったようにご飯を食べるときみたいに、むっちゃ速く手を動かして書くんやろか。 んなあほなことはあらへんわな。ワシらだってフツーの人間、そんなに特別な手の動きはできへん。耳も101匹ワンちゃんたちみたいに遠吠えのリレーなんてできへん。目もブッシュマンには遠く及ばんし、名探偵コナンみたいな読唇術もできん。もちろん、コウモリのように超音波で飛ぶことなんか、できるわけない。暗闇ではな〜んも見えへん。そんなん、当たり前やんか。
速記法を考えた人は、ほんまは怠けもんやったんかもしれん。いや、これは全くの独断やで。ほんまはそんなことないはずや。けど、ちょっとでも楽に書こう、できたらなるべく書かんと記録しようと、あれこれ工夫したような痕跡があるねん。今風にちょっと気取って言うたら「省力化」やろか。(どこが気取ってるんや?) 超人的な手の動きはできへんから、画数の多い文字をもっと簡単な線で書けるようにしようと頭をひねったんやろね。
普通の文字やったら平仮名とかカタカナに当たるようなやつが「基本文字」というやつで、ア〜ンまで、1音につき1文字ずつつくられとる。で、方式によって多少は違うねんけど、大体が1画で書けるようにしてある。カタカナで「アイウエオ」と書いたら全部で13画あるけど、速記の基本文字で書いたら5画ですむということやね。単純計算で倍以上のスピードや。それに、「省略法」というて、もっと書く分量を少なくしようという法則を入れていくと、もっと速く書けるようになる。例えば、「私」と漢字で書いたら7画、「わたし」と平仮名で書いても7画やけど、これを省略法を使えば1画で書ける。つまり、7倍の速度や。また、できるだけ書かんとすまそうということで、前の字からの位置を利用したり、ちょこっと形をかえたりと、こすいことをやって手を抜きよるねん。そうや、あんた、バス旅行なんかで、ガイドのおね〜さんがクイズを出してくれやんかったか? 「話゛」みたいな字を書いて「さあ、何と読むでしょ〜?」という感じ。答えは、そう、「てんで話にならない」やね。「話」に点を打っただけでそんな読み方をさせてしまう。そんな感じの工夫が速記文字にはぎょうさんあるんよ。
そういう「こすい」ことをやって、手を抜いて、書く量を減らす。ということは、書く量が減ってるんやから、その減った分を普通に書くだけでも、普通の文字に比べたら速く書けるやろ? それが速記が速く書ける秘密やねん。……もひとつ納得してないようやな。よっしゃ、ほんなら、カタカナの「ノ」、あれ10秒間に何回書ける? 一遍試してみ。普通に書いても30回ぐらいは書けるんちゃうか。で、「ノ」の右横に「・」を打って「のであります」と読むとしたらどうや? フツーに「のであります」と口で言いながら「ノ・」て書けるやろ? で、その「・」をちょっと上の方に書いたら「のでありまして」、ちょっと下の方に書いたら「のでありました」やとしたら? 余裕のよっちゃん丸儲けやろ。そんな「こすい」ことしてるんよ、速記というのは。そやから、慌てて書かんでもええんや。ゆっくり普通に書いたら自然と速く書けるんよ。
上で言うたような「話゛」とか「ノ・」とか、発想がおもろいやろ。例えば「ネ」という文字を上の方に書いて「値上げ」、下の方に書いたら「値下げ」とかな。「ケン」という文字があったら、それを斜めに倒して「検討(「ケンを倒すという意味な)」にするとか。そんな、ちょっと「おちょくってんのか、おまえ!」というようなのが結構あるねん。全く同じ形の線やのに、書く位置の違いだけで全然違う読み方させたりな。カタカナの「ニ」で「日本」、で、その最後をちょこっと右上にはじいたら「日本人」とか。おもろいやろ。そんな感じやったら自分でもいろいろつくって遊べそうやわな。
こういう工夫は、あんたらも普通のメモである程度やってんのとちゃうやろか。例えば予定表に会議とか打ち合わせの日程を入れるとき、きちんと「会議」なんて書くか? ま、几帳面な人はそうするやろけど、ワシやったら「カイギ」の「カ」とか「MEETING」の「M」を書いて○で囲むとかするな。時間は24時制で書いたら「午前」「午後」とか「AM」「PM」とか書かんでええわな。
そういう遊び心の入ったやつもあるんやけど、反面、すごい学問的というか、法則的というか、日本語の弱点をついたというか、へえ〜っていうようなこともあるんやで。それが「ツキイチクン」というやつや。「インクツチキ」とかいう言い方もしたりするけど、日本語というのは、漢字で音読みしたとき2音目は必ずこのどれかの音(または長音か拗音)になるというすごい法則やねん。例えば、「速記」やったら「ソッキ」で2つ目の音は「ツ」やんな。「漢字」やったら「カンジ」で「ン」やんか。「阪神」は「ハンシン」でどちらも「ン」、国会は「コッカイ」で「ツ」と「イ」やろ。これに気づいた昔のエライ人は、ほんならその音だけでも簡単に略せるようにしたらすんごい楽になるやん!と思たわけよ。で、それ専用の省略の仕方を考えたんやな。
ま、せっかく速記法に興味持ってここへ来てくれたんやから、速記の勉強を始める・始めへんは別にして、こういうおもろい柔軟な速記の発想、あんたも少しは取り入れたらええと思うで。それだけでも、メモとるのが結構楽になるんちゃうやろか。大体、濁点なんて何で2つもチョンチョンて打たなあかんの? 1つでもええやん。いや、言葉によったら打たんでもわかるの多いで。「土曜日、学校は午前だけ」とかいうのでも「トヨウ カッコウ コセンタケ」でもわかるやろ?