人の発言を書き取る速記の始まりはいつごろなんやろ? どうやら、ローマ時代の話らしいな。何でも、キケロとかいうおっさんの話をティロとかいう人が、言葉の頭文字を摘記するような感じで記録したのが最初やないかと言われてる。とは言うても、ドラえもんのタイムマシーンがあるわけないから、だ〜れも現場を見たことないんやけどな。まあ、詳細はようわかってへんいうことやろうけど、とりあえずそういうことになってるらしい。どれぐらいの速度で書けたんや? ほんまに正確に記録できたんか? そんなん、ワシに聞かれてもワカリマヘン。
その後、時代は一気に進んで1602年。日本で言うたら、ちょうど江戸幕府の始まるころやな。ジョン・ウィリスとかいうおっさんが「速記術」というのを発表したらしい。これが「ステノグラフ」という言葉の始まりやとか。ちなみに、ステノグラフは英語で書いたら「STENOGRAPH」な。「速記」という意味らしいわ。ほんで、「ステノグラファー」が速記者な。「ショートハンド」というような言い方もしよる。とにかく、日本ではチャンチャンバラバラやってたときに外国ではそんなことがあったというわけや。
ほんで、その後、有名なとこでは何といっても1837年のピットマンはん。日本では天保8年、大塩平八郎の乱があったときやな。……え? 博学やて? そやろ。(そんなん、調べたに決まってるやんけ) 英語の速記としては超有名な「ピットマン式」がアイザック・ピットマンという人から発表されたらしいわ。その後もいろんな方式は出るんやけど、英語速記の源流がここにあるというのは間違いないやろな。その後50年ほどたった1888年には、ピットマン式と並ぶ双璧とも言われる、これまた有名な「グレッグ式」をジョン・ロバート・グレッグという人が発表してる。日本では明治21年、大隈重信が外相に就任、市制・町制公布のころや。
日本に速記がジャジャジャジャ〜ンと登場するのは明治時代。あの1万円札……いや、福沢諭吉先生が訪米したとき、あっちで速記文字を見て、ほえ〜っと思ったのか、帰国してからいろいろ研究したけど、あかんかったらしい。ほかにも何人かがチャレンジしたみたいやけど、何とか形にしたのが田鎖綱紀(たくさり こうき)という人。1882年(明治15年)に「日本傍聴筆記法」という名前で、速記法研究を呼びかける文が「時事新報」に載った。どうやら、この「時事新報」、福沢先生が創刊したらしいな。そういう意味では速記と縁があった人なんかも。
とにかく、その呼びかけに応えた人らが40人ほど、「小林茶亭」とかいうとこへ集まって呑めや歌えやのドンチャン騒ぎ……なわけないやろ。真面目に「日本傍聴筆記法講習会」というのを始めるんや。その初日が10月28日やったということで、今も「速記の日」というたらこの10月28日ということになってる。ちなみに、小林茶亭は今の東京八重洲口表通りからやや北のほうらしい……というても、東京の地理に疎いワシにはようわからんけど。
この講習会に集まった40人以上のうち最後まで頑張って速記の世界で名を残したのは、若林かん蔵(わかばやし かんぞう)、林茂淳(はやし もじゅん)、市東謙吉(しとう けんきち)、酒井昇造(さかい しょうぞう)の4名だけ。今でもそうやけど、なかなか速記法をマスターするというのは大変なんやろね。特に、田鎖はんが発表した「日本傍聴筆記法」は未完成な部分もぎょうさんあって、講習会で改良を加えながら、この4人が本当の実用レベルにまで持っていったとか。
当時、チャンバラからハイカラへというような感じで、あちこちで政治絡みの言論も盛んになってきてたので、速記のような技術はそれこそ時代のヒーロー的な扱いやったんやないやろか。その証拠に、当時の速記者の給料は他に比べて相当よかったらしいし。録音もないし、ビデオなんてそのカケラもない時代やから、そら、人の発言をフニャラグニャラという感じで書き取っていく速記は、まるで魔法、魔力、ハンドパワー!という感じやったやろね。
そうそう、「速記」という言葉が初めて日本人に知れ渡ったのは、矢野文雄という人が書いた「経国美談」の出版によってやわ。その本の後編部分を若林かん蔵が口述速記(矢野はんがしゃべって若林はんが速記する)したそうやけど、その本の巻末に「速記法のことを記す」とわざわざ特別のスペースを割いて、本文の冒頭部分を速記符号で書いたものを載せて出版したんやと。これが「速記」という言葉が日本で使われた、初めて世に出た瞬間やね。
その後、若林はんらは、当時の人気落語家やった三遊亭円朝師匠の「怪談牡丹灯籠」の口述速記本を出したんやけど、これがまためっちゃ売れて、ベストセラーになった。そのころはまだ「書き言葉」の時代やから、語り口調をそのまま速記して文字化したこういう講談落語速記本は、話し手の雰囲気もありありと再現されていたんで、ほんまに大ヒットしたらしい。あっという間に大流行して、それと同時に「速記」という言葉もどんどん広がっていったというわけや。二葉亭四迷はんの「浮雲」とか、このころ「言文一致」という方向へ大きく進んでいくわけやけど、その推進力、超強力な波動エンジン!みたいな役割やったんが速記やねんな。
で、帝国議会の記録も、その第1回目から速記が入って、現在まで完全な逐語記録が残されてるという、世界にもエッヘン、すごいやろ、と自慢できるようなことになってるわけやね。それやのに、最近の某国会ときたら……まあ、やめとこ。
その後、明治〜大正〜昭和と時代は流れるけど、その間ず〜っと手書き速記による国会の記録は続けられてる。ほんで、第2次大戦が終わった後、裁判制度ができたときに新しい速記法として「ソクタイプ」が導入される。これはタイプ式の速記法や。左右両手の10本の指を駆使して発言を記録していく方法なんやけど、押されたキーの組み合わせがレシートのような紙に印字されていく。それを一定のルールにのっとって解読していくというもんや。国会や地方議会では従来どおり手書き速記、裁判所ではタイプ式速記という流れが、ここでできあがるわけやな。
国会では、衆議院と参議院それぞれで速記業務を担当する専門職員を養成するための自前の養成所がつくられる。素人的には何で一緒にせえへんかったんやろとは思うけど、まあそうなってた。教える速記方式も別で、衆議院は衆議院式、参議院は参議院式や。衆参は何かとライバル関係になることもあるようやけど、そういうのがこの辺にも影響してたんやろか。また、裁判所は裁判所で、同様のタイプ式速記者の養成所がつくられとった。
速記関係の仕事としては、国会や裁判所以外にも新聞社などの求人は多くて、まあ一時は花形産業やったようやわ。特に新聞社では、電話速記というて、ニュースの内容を電話で受けて速記し、それをもとに記事を作成するというようなことが日常的に行われてたようや。民間の速記学校も生まれて、大学や高校でも多くの速記部が生まれて、競技会や検定というたら、それはそれはえらい賑わいやったんやで。
順調に発展してきた速記界が大波をかぶることになるんやけど、その第1波が「録音機」の登場やね。
それまでは、口から出た瞬間に消える音を記録するのは速記の専売特許やった。そこに、録音機というものが出てきよった。最初は、ばかでかいオープンリールタイプのやつやったやろか。カセットはもう少し後になってからやな。まあ、とにかく、ボタンを押すだけで、しゃべったものが音として記録されてしまう録音機の登場で、「これで速記の時代は終わりや」みたいなことをあちこちで言われたもんや。速記界では、「速録戦争」というようなことも言われたりするけど、今までの速記者たちと、そういう録音機を使って記録作成を始めた人たちとの間で喧嘩みたいなことになってしもた。これは、記録業界にとっては不幸なことやね。
ほんで、録音機の登場で「速記の時代は終わった」か。いやいや、そんなことはないで。そうそう、ここでも「速記」の定義が曖昧よな。「速記の時代」というのは、「速記文字で記録する」ことかいな、それともそういう速記を使ったりする「速記者」と言われる人たちの居場所がなくなったということかいな。前者は多少そういう面が出てきたけど、後者は全然そんなことない、というのがこのごろやったと思うで。
結局、録音機を一番活用したのは速記者やったと思う。速記法で記録するのは、機械の故障の心配はないし、現場で生の声を聞いて表情や身振りも見ながら記録するので、それは1つの有力な記録手段やわな。そやけど、さすがに長時間になったり、やたら専門的な話を高速にされたりすると、やっぱりしんどい。そんなとき、速記法と同時に録音も回しておけば、鬼に金棒やろ。そういう感じで、速記者たちはこの録音機を最良のパートナーにしてしもたんやな。速記だけ、録音だけ、速記と録音の併用の3つでどれが最強かというたら、速記と録音の併用に決まってるやんか。
速記への第2波は、やっぱりワープロの登場やろね。キーボードをガチャガチャ叩くと文章を入力できる、ほんで、何というても、その入力された文章に後で削除・挿入・移動・複写を自由にできるというのは、ほんまに夢みたいなことやった。ただ、これはあくまで単に「手で書いてた文章をキーボードで打てるようになった」というだけのことなんやけど、このときも何でか知らんけど「速記不要論」みたいなもんが起こったわな。そんなに速記が嫌いなやつらがおるんやろか。全然次元の違う話やのに。
改めて言うまでもないことやけど、このワープロについても、一番の仲良しさんになったんは速記者やで。それまでの速記業務というのは、現場で速記・録音してきたやつを、せっせこせっせこ手書きで原稿用紙に普通の文字で書き直してたもんや。それも、会議録なんぞは不正な改竄がないようにとかいうことで、簡単に消せやん万年筆でや。大幅な間違いをしたときは、また一から書き直したり、そら、ほんまに大変やったで。「○議長(××××君)」なんて、議長を起こすたびに溜め息が出たな(ゴム印つくってるとこもあったけど)。幾ら筆圧の軽い万年筆やいうても、朝から晩まで字ばっかり書いてたら手も痛うなるし。で、一応そうやって手書きで反訳しても、照合・校閲したら、またミスは出るもんや。そのたびに訂正が大変や。そうやって何とか原稿はできたとしても、印刷はそのころはまだ手組みの活版。校正が大変やったな。その点、ワープロやったら訂正は簡単にできるし、途中から印字もぐんときれいになってそのまま版下で使えるようになって、ほんまに大助かりやわ。
もうわかるやろ。ワープロは、速記者が必死こいて手書きでやってた「反訳作業」を楽にしてくれただけや。速記と録音の最強タッグで現場で記録してきて、このワープロで反訳する。調査や校閲といった作業はそれまでと何も変わらへんで。最後の訂正・印刷がまたこのワープロで楽になった、そういうことや。そやから、「ワープロの登場で速記者はなくなる」というのが、どれだけあほな議論やったかということがわかるやろ。
ほんでな、速記者はこのワープロにちょっとした魔法をかけて使たんや。速記法の考え方の根本には「できるだけ楽に記録する」というのがある。「できるだけ書く量を減らす」と言いかえてもええな。そこで、速記法の省略法の要領で、ワープロの入力もできるだけ楽しようとしたわけや。例えば「あります」と4つ打たんなんとこを「あ」の1文字で済ます。「ありました」やったら「あた」と2文字で済ます。「ありますけれども」やったら「あすも」とか、そんな感じで単語登録機能を駆使して大量の略語をつくっていった。ワシが最初に使た「OASYS100」という1人では持ち運びできへんかったやつでは、単語登録の限界数まで登録して、まだちょっと足りんぐらいの略語をつくったな。それを親指シフトキーボードという高速向けのやつでバコバコ打つと、検定問題やったら2級ぐらいは打てたもんや。まあ、そんな感じで、速記者はワープロという強力な武器を持って、反訳のスピードを相当上げたわけや。
その後も、当たり前やけど、時代は進んだ。録音関係の機器も、ほんまにいろんなもんが出てきては消えたり、中には生き残ったりしとる。オープンリールからカセットテープへ、その後はちょろっとLカセットやのDATやの、そんなんが出たけど、もう消えてしもた。その次はCDやMDかいな。今はDVDやICレコーダーなんかが主流になってきとる。文書作成オンリーやったワープロ専用機からパソコンの時代へ。パソコンも、8ビットのMSXなんかから始まって、一時代を築いたNECの98、ほんで32ビットになってWINDOS機へ。昔のLPレコード(若い人は知ってるかいな?)ぐらいの大きさがあったフロッピーから始まって、今はUSBメモリやカードの時代。ハードディスクも、我が家の2代目パソコン(富士通のFM−TOWNS)は40MB(「メガ」やで「メガ」。「ギガ」とちゃうで)搭載のやつで何やかんやで80万ぐらいした記憶があるわ。今なんてメモリだけでも1GB超の時代やもんな。
最近、速記の仕事でシェアを伸ばしてきてるんが、MP3などデジタル音声ファイルでのやりとり。ICレコーダーで録音して、メールで発注、納品もメールっていう感じのがふえてる。ICレコーダーの録音は、ちょっと前までほんまに往生しまっせチッチキチーみたいな感じやったけど、最新機の高音質モードではかなり使えるようになった。まあ、それでも録音の仕方を間違うたら悲惨なことになるけど、ダビングも一瞬やし、再生速度も自由に変えられるし(しかも音質はそのまま)、早送りなんかもほんまに一瞬やもんな。便利な時代になったもんやわ。
こういった便利な機械たちは、みんな速記者のええお友達やねん。速記と録音の組み合わせが最強や言うたけど、その録音がほんまにどんどん強力になっとるんやから、速記者にしたらうれしゅうてかなわん。一部のあほは「速記」の意味もはっきりせんと「速記の時代は終わりや」みたいなこと言うとるけどな。まあ、現場で速記文字を書く率は今までより減っていく傾向にあるやろ。中には全く速記せんでも何とかなる現場もあるやろ。けど、逆に速記がないと対応できへん現場も確かにある。結局、この辺の話は速記「業」の話になってくるわけやから、記録の方法でああだこうだ言うても始まらん。最終目標は「ニーズに合致した記録をつくる」いうことで、その第1段階の現場では、何回も言うけど、予算や人員が許せば、できるだけ多くの方法を組み合わせる方がええに決まっとるんよ。国会でも、不規則発言への対応やの、同時発言への対応やの、いろいろ考えたら、録音だけやのうて速記もあるほうがベターなのは明らかや。それにお金の問題やら、いろんな政治力の問題が絡んできて、あんなややこしいことなっとるだけや。
昔は、速記文字で記録して、手書きでエッチラホッチラ反訳して、調べ物は1日がかりで図書館へ行って、印刷の校正にもぎょうさん時間がかかって、納品は自分で持っていくか郵便やった。それが、速記に加えていろんな録音・録画機器が使えて、反訳はパソコンで修正も自由、調べもんはインターネットでほとんど間に合う、納品もメールやと一瞬、宅配便でも翌日というような感じになった。ほんまにありがたい時代になったもんや。反面、セキュリティーとか、そういう面での心配はあるけどな。
裁判所で使用されてた「ソクタイプ」は、速記官の養成ストップという「いじめ」を受けながらも、速記官たちの全国ネットでの団結もあって「はやとくん」というすごいシステムをつくったんや。何がすごいかやて? そら、あんた、この「はやとくん」は、ソクタイプで打った記号を自動的に普通の文字に直してくれるねんで。
「ソクタイプ」のキーの下の方に電気的な接点をつけて、その信号をパソコンに取り込む。ほんで、反訳用の辞書をパソコンに入れておいて、それを使って自動的に漢字仮名まじりの普通の文章に変換させるという感じのシステムやわ。ワープロの入力に似てるけど、速度は断然こっちのほうが上。現場でソクタイプで速記したやつが、ボタン1つで一気に反訳されよる。これはすごいわ。最近では、「ステンチュラ」とかいう「ソクタイプ」の舶来品、高級・高性能型のやつが使えるようになって、さらにパワーアップしてる。現に速記官の人らは、2〜3人でチームを組んで、講演会での発言を現場で速記して「はやとくん」でソッコー反訳、ほんでその文章を会場の大型スクリーンに映すという、リアルタイムでの字幕づけのボランティアをやってる。これは、聴覚障害者(特に中途失聴者)の人への情報保障という点で、ほんまにありがたいことやねんな。
残念なんは、そのすごい技術の継承が危ういということや。裁判所は速記官の養成をとめたままやから、公的な養成は無理。ほんならということで、速記官個人が寺子屋的に教えたり、大阪のワードワープという会社では正式な講座として養成を始めてる。ま、どっちも少人数やけど、「官」が当てにならんから、頑張ってほしいわ。アメリカなんかでは、このタイプ式の速記者がわんさかおって、裁判とかですごい活躍してるんやで。
さて、最後はこいつやな。新しい技術の本命……かどうかは知らんけど、よく「もうすぐしゃべったまんま文字になる機械ができて速記者は要らなくなるな」なんて言われるやろ? そう言われると、いつも「あのな、おっさん、もうちょっと勉強してからしゃべりいな」と心の中でつぶやきながら、「話し言葉の文字化はそんなに簡単じゃないんですよ」なんて優しく諭してやってるんやけど、いい加減嫌になる。ま、そのボス的存在がこいつ、音声認識やね。
こいつは、ちょっと前までとんでもないあほで、全然言うたとおりに文章になんかなれへんかった。そやけど、このごろは、ぎょうさん金を出したら特定の条件ではまあまあ使えそうなのが出てきたみたいで、地方議会では既に幾つか導入したとこもあるわ。議場のマイクで音を拾って、電気的にノイズなんかをとっぱらってパソコンで認識させて文字にする、というような感じやね。「、」や「。」は一々発言せえへんから、後で全部入れていかなあかんけど、整った文章を読み上げるようなやりとりやったら結構な認識率らしい。ところが、方言丸出し、言い損ない、言いよどみの大名行列、オッペケペーな支離滅裂発言なんかやったら、話にならん。ま、辞書は回数を重ねると徐々に賢くなっていくらしいけど、かなりシビアな条件での使用が前提になるんやないかと個人的には思てる。
こいつがほんまに99.9%ぐらいの認識率になって、故障したり突然フリーズしたりはなかなかせえへんというような信頼ができてきたら、これまた速記者(特に手書き速記者)にとっては大好きなフレンドになれるかもな。特に、現場では小型のICレコーダーみたいなので録音してきて、事務所でそれをパソコンに取り込んで認識できるようになったら、すごい楽になるやろな。ただ、ここでもその「楽になる」のは、最初の反訳作業だけや。現場で録音するのは、今までと変わらん。今まではパソコンへの入力で反訳してたのを、機械に勝手にやらせるというわけや。「1次原稿」なんて言い方をしたりするけど、それをつくるのに、例えば発言1時間分の記録やったら3〜5時間はかかってる。それを機械でざ〜っとやってしまえるんなら、その分の手間が減らせるかもしれん。
ただ、その場合でも楽になるのはその「1次原稿」をつくるまでというとこがキモやな。記録作成の仕事いうのは、それで終わるんやったら浮輪でプールにプ〜カプ〜カ浮いて鼻くそほじってるぐらい楽なもんや。けど、そうやない。見直し、校閲、調査、訂正、通読などなど、大変な作業はまだまだ残っとる。そこまでこいつは面倒見てくれへん。そやのに「速記者は要らん」か? ほんなら、その後の面倒くさい、時間のかかる、辛気臭いこの作業をだれがやってくれるていうねん。発注者がやってくれんのか? 素人さんには結構大変やで。まあ後学のために1回ぐらいやってみてもええかもしれへんけどな。
で、ワシの結論。高級なやつは非常に限定された好条件のもとでは「1次原稿」作成の力にはなるやろ。条件の悪いとこでは、余り期待できん。ほんで、その1次原稿をもとに正確なちゃんとした記録をつくろ思たら、上で言うた「その後の作業」をきちんとできる人間が絶対必要やわ。それを今、音声認識システムを導入した地方議会や「新速記システム」を導入した参議院では経験豊富な速記者がやってる。経験豊富な「プロ」のおらんとこでは、新米の職員はんが必死こいてやってるはずや。そこのとこを絶対に忘れたらあかんわ。そういう人間がおらんとこでは、いくらこんな機械を入れたところで、あっはっは〜のぺっぺけぺ〜やな、多分。
ついでやからもう一言。料理の下ごしらえで、野菜なんかのカットを頼むとき、ど素人に頼むのとプロの板前さんに頼むのとではどっちが楽や? プロに頼んだら、あとはそのまま煮炊きして味を整えたらオーケーよな。けど、ど素人に頼んだら、もう一回包丁で材料に手を加えやんなんこともある。プロがつくる1次原稿と機械やど素人がつくる1次原稿にはそんな差があるんよ。ほんで、もう一回包丁で手を加えるのも、プロがやるのと素人がやるんではでき上がりに差が出るわな。いろんな段階があるこの仕事、どこかでやっぱりしっかりしたプロがかかわらんと、客には出せんはずや。「速記者は消えてなくなれ」と思てる人よ、そう言うなら消えてやってもええけど、ほんなら別の「プロ」をちゃんと用意してくれるんやろな?