万国の丸山読者、リンクせよ!


インタ−ネットが本当に一人一人の市民生活にとって必要で有意義なものになるかどうかは、評論家や俗流社会学者たちの無責任なおしゃべりなどによってではなく、製作される一個一個のホ−ムペ−ジの品質何如にかかっているはずなのであり、ツ−ルの向上やインフラの整備以上に、製作する個人の想像力と創造力次第ということになるのだろう。

しかしながら、日本の多くの研究者たちは、欧米の研究機関が苦労して構築した文献・資料デ−タベ−スに多くリンクを張ることが、ホ−ムペ−ジを作ることだと勘違いしているように見える。あるいは、自分勝手なおしゃべりのために、通信回線やハ−ドデイスクの資源を(貴重な文教予算の税金で)無駄使いすることが、インタ−ネットを「研究利用する」ことだと誤解してしまっているように見える。

そうではない。おそらくはそうではない。海外の研究機関からリンクを張ってもらえるホ−ムペ−ジを作ること、海外の研究者や一般の市民によって、ブラウザのブックマ−クに追加してもらえるホ−ムペ−ジを作ることこそが、本当の意味での「研究者のホ−ムペ−ジ作り」に他ならないはずである。残念ながら、それに成功している日本のホ−ムペ−ジは、(愛媛大学赤間教授のAkamacHomePageほか若干を除いて)現在のところ皆無に等しい。


St.Antony`s College

丸山真男が一九六二年から六三年にかけてSenior Associateとして滞在し、一九七五年にはジャパンセミナ−を主宰したセント・アントニ−ズ・カレッジのホ−ムペ−ジ。ニッサン・インスティチュ−トのペ−ジでは、現在の日本研究者の顔ぶれやテ−マが紹介されている。インタ−ネットで見るかぎり、全般に、欧米での日本研究は低調になる一方という印象を受ける。

The Dead Fukuzawa Society

凋落傾向著しい海外での日本研究の動向の中で、わずかにカリフォルニア大学サンディエゴ校だけは、元気溌剌と、そして真面目に日本研究を続けてくれているようである。まことにありがたい、本当にありがたくて頭の下がる話である。JPRI(日本政策研究所)のウェブサイトでは、古典として丸山真男の『現代政治の思想と行動』とE.H.ノ−マンの『日本における近代国家の成立』が推薦されている。

津田左右吉ワ−ルド

生誕地である岐阜県美濃加茂市の教育委員会文化課が製作・公開している津田左右吉のホ−ムペ−ジ。生い立ちや略歴、業績が紹介されており、バ−チャルミュ−ジアムの形式と内容を十分に整えている。美濃加茂市は昭和三五年に津田を名誉市民として表彰、津田が寄贈した図書で「津田文庫」を下米田小学校に創設。小中学生から作文を募集して津田左右吉賞を授与している。

南原繁コ−ナ−

母校である香川県立三本松高等学校のホ−ムペ−ジの中に特別に設営されている南原繁の紹介サイト。98年1月より公開。詳細な年譜と三本松高校での講演録が掲載され、南原繁の人と業績を知るに十分の内容を成す。南原は幾度もこの母校に足を運び、後輩たちに講演を残している。講演の様子を録音したWAVファイルが格納されてあり、資料として貴重である。偉大な精神の継承とホ−ムペ−ジのさらなる充実をお願いしたい。

『日々のかて』(矢内原忠雄)

あぶくま守行氏が製作・公開しているホ−ムペ−ジ『あぶくま無教会』の中に矢内原について著わされた絶妙のサイトがある。このウェブサイトは素晴らしい。本当に素晴らしい。感動のあまり暫く画面の前で呆然としてしまう。デ−タベ−スボリュ−ム、バイリンガルパフォ−マンス、圧倒的な宗教的エ−トス。ホ−ムペ−ジを作ろうとする者の理想がここにある。探せばそこに感動が見つかる。それがインタ−ネットだ。

吉野作造ラボ

生誕地である宮城県古川市のホ−ムペ−ジの中にラボが設けられている。製作は市教育委員会によると思われる。漫画のナビゲ−ションによって吉野の生涯が簡単に紹介されていて、小中学生のオ−ディエンスが意識されている。写真は豊富。平成7年に古川市は吉野作造記念館を開設。現在、その名誉館長に井上ひさしが就任している。閲読者対象年齢をもう少し引き上げて、情報の充実をお願いしたい。

貝原益軒ア−カイブ

学校法人中村学園の製作による堂々たる電子図書館。『養生訓』『大和本草』『和俗童子訓』全文がデジタル化され、PDFとして格納、公開されている。三百年の時間を超えて現代に生きる貝原益軒。全国の大学図書館情報化担当者はかつ目して中村学園を見よ。中村学園恐るべし。益軒のおるけん博多たい。

『先哲叢談』

インタ−ネットを覗いていると、信じられないような感動に出会う瞬間が屡々あるが、この『先哲叢談』電子テキスト(Taiju)も、そうした奇蹟の一つである。製作者である H.篠崎氏については、千葉市在住の国語の先生であるという以上のプロファイル情報はないのだが、この膨大な量の古典テキストの入力作業を想像しただけで、製作者に対する尊敬と感嘆の念を抱かずにはいられない。インタ−ネット上に日本思想史研究の基礎環境を構築された、真に偉大な業績である。