読売新聞 96年8月19日朝刊31面

戦後論壇で一方の支柱

原点｢8･15｣､母の命日に

日本政治思想史研究の第一人者で、戦後論壇に大きな影響を与えた東京大学名誉教授の丸山真男（まるやま・まさお）さんが、十五日午後七時五分、肝臓がんのため東京都内の病院で死去したことが、十八日わかった。八十二歳だった。

故人の遺志で葬儀は行わず、「偲ぶ会」が、二十六日午後一時から東京都新宿区南元町一九の二の千日谷会堂で開かれる。自宅は武蔵野市吉祥寺東町二の四四の五。遺族代表は妻、ゆか里（ゆかり）さん。

一九一四年大阪府生まれ。東京帝大法学部政治学科に入学、南原繁氏（故人、元東大総長）に師事した。助手、助教授時代に、近世日本の近代的思惟の発展過程をめぐる諸論文を発表。「日本政治思想史研究」（五二年）に集大成された。

応召し、復員した翌四六年、雑誌「世界」に「超国家主義の論理と心理」を発表、論壇に登場する。日本を戦争に駆りたてた要因を探り、日本の近代精神の未成熟を指摘した同論文は脚光を浴びた。その後も戦後民主主義擁護の立場から発言を続け、「現代政治の思想と行動」（五六年）「日本の思想」（六一年）などを刊行。西洋の政治思想を立脚点としながら、わが国の精神風土や政治の構造を分析する手法は「丸山政治学」と呼ばれた。

「六○年安保」闘争では「反安保」の論陣を張り、学生や市民にも大きな影響を与えたが、東大紛争の際は沈黙を守った。七一年に退官後は、論壇の表舞台から退いたが、七七年に「戦中と戦後の間」で大仏次郎賞を受賞、また昨秋から「丸山真男集（全十六巻、別巻一、岩波書店）」の刊行も始まっていた。

学士院会員。米ハーバード大の名誉博士号を授与されたほか、英国学士院外国会員にも選ばれ、海外での評価も高かった。

さる五月、発熱のため入院、一時帰宅したが、六月末に再入院していた。