石川 | 国連についてはどうでしょう。 |
丸山 | 主権国家は武力の正統性を独占しています。だから国連の組織が主権国家を唯一の単位としているかぎり、その動きは大国の利害で左右され、本当の世界組織として紛争を解決するのに役立たない。大体、国民国家が主権をもって世界秩序の単位になったのは、歴史は長そうに見えるけれど、第一次大戦以後のことですよ。それまで秩序を維持してきた主要な大帝国が相ついで崩壊してからです。主権概念がヨ−ロッパに形成されてからも、せいぜい三百年余りだ。人間の思考というものは惰性が強くて、現実の変化より遅れるのが常ですね。(中略) |
石川 | 今のままでは、国連の未来は暗いですね。 |
丸山 | 根本改組をするしかないですね。一方ではプル−ラルな社会団体の、国家からの自主性を強化し、他方で国家を媒体にしないで直接に国際的に結合して地球社会の構成員になるようなシステムを考えるほかない。まあ、二十一世紀にもちこす課題でしょうが、憲法九条をもつ日本は、こういう方向で、つまり国家主権を思い切って制限する方向での改革を主張できる立場にある。(中略) |
なお、この「日本的原像」の問題について考える上で、最近の作品ではサントリ−学芸賞を受賞した小熊英二の労作『単一民族神話の起源』(新曜社)が参考になる。読書して非常に面白い。また年代的には古い時代の作品であるが、特に丸山真男の「古層」に対するすぐれた問題意識として守本順一郎の『日本思想史の課題と方法』(新日本出版社)を挙げておきたい。小熊はこの「日本人の自画像の系譜」の議論において、天皇制の血縁的支配のイデオロギ−について正面から論じている。小熊が守本を読んだことがあるのかどうかは分からないが、守本以来、この「天皇制の血縁的支配のイデオロギ−」に触れる議論を、私は久しぶりで目にすることができた。 小熊の『単一民族神話の起源』における梅原猛への批判的な眼差しも正鵠を射たものと言えるであろう。その「日本人の自画像の系譜」の考察の視角や方法に対して全面的な評価を与えるものではないが、一九六二年生まれという若さと少し変わった経歴に、読者として自然に関心を注がれ、次回作が期待される存在である。思想史という学問にイデオロギ−分析の視角を持ち込むことのできる、今日数少ない研究者の一人として。 |