少年ジョンの大冒険第5章


 ギルガから、出発して、何日たっただろうか?その日もジョンとアランは
行けども行けども、陸地が見えず、きりがない船旅をしているところだった。
そして、今日も2人は船の甲板で果てしない海を眺めていた。
「海って広いなぁ、どこまで行っても陸地が見えないや。」ジョンが退屈そう
にぼやくと、アランは
「どうせいつかは、目的地に着くんだ。今から、焦っても、何も始まらないん
じゃないか。ま、さしずめ、何もできない今は後でするであらう長旅のために
甲板で昼寝でもしながら、鋭気を養っておく方がいいんじゃないか。」
そういって、なんと甲板に寝転がって昼寝を始めてしまった。
 それをみると、ジョンはだんだん、不安になってきた。こんなことをしてい
て良いのだろうか?メアリーは今にも邪神の生け贄にされようとしているの
に・・・おまけに、この船の中にも、もしかしたら、邪神ラーガを崇める人間
がいるかもしれないと言うのだ。どこに、そんな人間がいるかもしれない。
用心しようと思ってジョンはあたりを注意深く、人間をうかがった。
と、そのとき、
「オイ、お前、さっき、俺にがんを飛ばしやがったな!!俺に文句でもあるの
か!」
ちょうど、ジョンと12〜3才位で同年齢くらいの白いマントをはおり、白い
服を来て、白いズボンをはいた美形の少年がジョンに近づいてきて、目を
キリッと開かせ、凄みを出しつつ、言い放った。
どうやら、ジョンとその少年が目が合ってしまったらしい。
「なんだと、こいつ。男のくせに、少し、顔が良いからと行っていい気になっ
てんじゃねぇ」
そう、ジョンが反論をするやいなや、
バシーン!!!
少年はジョンに平手打ちを浴びせるやいなや、
「何を言ってんだ!!!俺は女だ!確かに今はまだ胸がないけど、今に、見て
いろ」
どうやら、少年ではなく、少女だったらしい。ジョンもよく見たが、確かに、
言われて見れば、ショートカットの少女だった。しかも、目は少し、切れ長で
唇も薄い方で、どちらかというと、美少女であった。
そして、ジョンは少女の可愛さに不覚にも、少し、見とれてしまった。
でも、少女もそれを察してか、
「やっと、私の魅力に気が付いたか。でも、そう易々とつきあってやらない
よ。あっ、そうそう、俺、ソフィアって言うんだ、よろしくな。」と、得意そ
うに話した。
そうして、初めは険悪だった2人の中はだんだん良い感じになっていき、
いつしか、甲板の上で仲良く揃って腰掛け、澄んだ青い空を見ながら、ジョン
のこれまでの旅の話などで、盛り上がっていた。
「俺、ガイアというやつにさらわれたメアリーという友達を助けに行くん
だ。」
「メアリーって娘、いいよなぁ。自分のことを助けに来てくれる彼がいて。
俺なんか、そんな奴、いないや。」
「しかし、ここに寝転がっているアランて変な奴だよ。」
「そうね、おおかた、下手な詩ばかり歌っているヘボ詩人じゃない。」
「それにしても、リチャードって奴、エルトナの剣の代わりにこんな木のがら
くたを渡すなんて、腹が立つぜ」
「あははははは、馬鹿だな。そんなに大切な物を簡単に渡すなよ」
「なんだと〜」
「ま、そんなに怒るなよ、実は俺、料理が得意なんだ。こんど、得意のクリー
ムシチューをごちそうしてやるから・・・」
などと、なごやかな会話が進んだが、
「だけど、なんでメアリーがラーガを復活させる生け贄にされなきゃならない
んだ」と、話が、ラーガのことになると、今まで元気だったソフィアが急に顔
を少し青ざめてしまった。そして、驚くべき、真実を話し始めたのである。
「むかし、むかし、科学と魔法が組み合わさった超科学を持った文明、存在
し、人々に幸福をもたらす。しかし、一部の人間の悪しき心により、科学は悪
用され、邪神ラーガを生む。ラーガは街という街を焼き尽くし、人々は業火に
襲われる。それを逃れた人々も、全てを巻き込む巨大竜巻の群発や人々の住む
大陸の大部分をしずめた大津波により、命を落とす。かくして、繁栄を誇った
文明も滅び、生き残った人々は、ある者は神にすがり、ある者は絶望す。しか
し、これを見かねた全能の神々は地上に光の戦士を使わす。そして、長い戦い
の上、ラーガは封印され、平和は訪れた・・・と、まぁ、これは古代文字で神
官の間に昔から、伝えられる叙情詩の一部なんだけど、大変なことだな。とこ
ろで、なぜ、俺がこのようなことを知っているかというと、実は、俺、こう見
えても、神官の1人なんだ。だから、見過ごせないし、俺にも手伝わせてくれ
ないか?偉大な神々の力を借りて傷を回復させる白魔法なんか、結構得意なん
だぜ。」
と、その時、ソフィアの背後に、大斧を持って狂信的な目をした人物が現れ、
「神聖エリーナ公国のソフィア姫よ、ガーラ様の御ためにその命もらった!」
と言うやいなや、ソフィアに斧を振りかざした。それに気付いたジョンは、
「危ない」と叫び、ソフィアを抱えて飛んで逃げた。そして、難を逃れた2人
は空中から甲板に着地する際に勢い余ってソフィアの上にジョンが覆い被さる
格好になった。あまりに衝撃的な出来事なので、2人はほんの一瞬、頬を赤ら
めた。しかし、すぐ、
「あんた、何やるのよ」というソフィアが言ってジョンに平手打ちを食らわ
せ、ジョンもソフィアの上からどいて、2人とも我に返るのだが・・・
ちなみに、その間、男は斧を甲板に打ち込んでしまい、取れなくて立ち往生し
ていたのだが、斧が取れると再び、2人の方に勢い良く走って追ってきた。
ジョンもそれを迎え撃とうとしたのだが、その前にソフィアが男めがけて走っ
ていき、男の前で突然止まり、男に足を引っかけた。勢い良く走ってきた男は
勢いで前につんのめり、転んでしまった。そして、ソフィアは持っていた賢者
の杖で倒れた男の頭めがけて、とどめの一撃を与えた。でも、その後、すぐに
「大丈夫ですか、姫様。」と茶色い魔法使いのローブを着たジョン達より3才
位年上の15〜6才位の少年が慌てて飛んで着た。そして、ソフィアの無事を
確認すると、ジョンに
「私、木々や火や水などの自然の精霊の力を借りた精霊魔法を使うヒムです。
姫様を助けていただき、ありがとうございました。」と言った。
しかし、ジョンは聞き逃さなかった。
「やれやれ、親父の命令で姫様のお供をしているけど、とんだやんちゃ姫だ。
この少年も巻き込まれるのか、かわいそうに」と小声でつぶやいたのを・・・
それを聞いたジョンは以前、神聖エリーナ公国のお姫様がこの船に乗っている
らしいと言う客のひそひそ話にアランが
「ふん、お姫様とか王族とかはどうせろくな奴じゃないだろうよ」
と、つぶやいたのを思い出し、少し、納得してしまうのであった。
 ところで、神聖エリーナ公国といえば、代々王族はエレンディラで主に信仰
されているアスミック教の聖地を守る神官であり、各国の王にも影響力を持っ
ており、また、独自の貿易で富を蓄え、エレンディラの2大軍事大国のギガ王
国とゼータ王国に対抗する力を持っていた。現在の王はミッドナイト14世と
言って2大軍事大国に対する第3の勢力としてのカードを使って巧みな外交交
渉により、エレンディラに平和をもたらしていた。だから、ジョンもソフィア
姫のあまりのやんちゃぶりに呆れ返っていた。
 とにかく、騒ぎに集まってきた船員に男は捕らえられたのである。だが、
ジョン達もまだその場にいるその時、うつろな目で
「偉大なるラーガ様、ソフィア姫暗殺に失敗した私をお許し下さい。ラーガ
様、万歳」
と言って舌をかみきって自殺し、その後、全身から血が吹き出した。
その姿にはジョン達のみならず、その場に居合わせた誰もが恐怖したという。
果たして、自分達は無事でいられるのだろうか?ジョンの脳裏にそんな不安が
よぎった。しかし、ジョン達は確実に船旅の目的地の神聖エリーナ公国の港町
テルドーラに向かって進んでいるのであった。
 そのころ、昼間だというのに、深い雲に覆われた城の中の薄暗い1室で4人
の男女がテーブルを囲みながら、卓上の水晶を眺めていた。
「まだ小さいが、我々の今の領主の領民からの搾取権力ゲーム、貧乏人を騙し
て苦しめる悪徳商人等の裏切りや欺瞞に満ちた世界を破壊して、新しい世界を
創造するという崇高な目的を阻む者が現れたらしい」
一見、やさ男風の神官らしい風貌の美男子が言った。
「ビクティム、それはたくましい男かしら、この妖術使い、ミーヤ様が得意の
妖術で虜にしてみせるわん」
劇場で踊れば、たちまち人気が出るであろう豊満な肉体の女性が言った。
「ふん、どんな野郎であろうと、この豪腕ダイザック様が蹴散らしてくれる
わ」
身長がゆうに2mを越し、屈強な筋肉を持った男が2人の会話に割ってはい
る。
「ほっほっほっ。若い者は元気があって良いのぅ。魔法使いであるこのワード
にわけて欲しい位じゃ」
黒い魔法使いのローブを着て、顎に白いひげをたくわえた老人が儀礼的な応対
をする。
「ふっ、何があろうと、我々、暗黒四天王はガイア様の元で当初の目的を達成
するために、備えを考えておくのは損ではないがな」
そう、ビクティムが言うやいなや、4人の姿は闇に消えて部屋には水晶玉だけ
が残っていた。
 ちなみに、そのころアランと言えば、何事もなかったように、未だにのんき
そうに寝ているのであった。
                          第5章 おわり

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