舞台は現代、東京のとある大学に通う影野闇代という女子大生がいた。そし
て、彼女は最近までごく普通の女子大生であった。だが、そんな彼女もサッカー
部の元彼の坂野一郎に振られたショックで、思わず恋敵を黒魔術で殺してしま
い、ついには、自分を振った坂野一郎も特製の媚薬で強引に自分の虜にしてしま
うのであった。
闇代が一郎を強引に自分の虜にしてしまった数日後のことである。都内の某所
のあるアパートで早朝、2人して1つの布団の中で話をしている1組の男女の姿
があった。
「うふふふ、一郎ったら。昨日は激しかったんだから。」
「オイ、闇代、何を言うんだい?俺があんなにまで出来るのは、お前があまりに
も綺麗だから・・・お前以外じゃ、とてもあんなことする気分にならないぜ。」
「ふふふ、まったく一郎ったら調子良いんだから・・・」
「いや、俺は本気でお前のことが好きなんだ。お前だけが好きなんだ。だから、
こうしているんだ。」
そして、布団の中で男は女を抱き寄せ、肌と肌が触れ合う。2人にとっては何も
しないけど、互いに抱き合って相手の体温を確かめ合う。それだけで満足だっ
た。自分の好きな人が今はすぐそばにいてくれる。それだけで満足だった。そし
て、この幸せなひとときがこの後、ずっと続けばいいのに・・・そんなこと、考
えながら、2人は布団の中でずっと互いに抱き合っていた。
そして、数時間後、2人は遊園地に来ていた。絶叫マシンのジェットコースタ
ーに乗った。
「キャー、キャー・・・」
などと闇代が声を上げる。楽しいひとときである。しばらくして、2人はジェッ
トコースターの3回転半のスリルを味わってゴールにたどり着き、出口から外に
出る。闇代が一郎に声を掛ける。
「一郎、さっきのジェットコースター、意外とスリル、あったね。」
「うん、そうだな。最近、色々な所に絶叫マシンが数多くあるけど、この遊園地
のジェットコースターも特に特徴はないけど、何故かスリル、あるな。」
「うん、そうだね。」
「あ、そうそう。今日もけっこう歩いたし、疲れて喉が渇いたんじゃないのか?
俺がソフトクリームでも買ってきてやるよ。」
一郎がすぐさま、近くの売店にソフトクリームを買いに走っていく。闇代は思っ
た。こんなに一郎に優しくして貰ったのは何ヶ月ぶりだろう?確かに今までも、
色々優しくして貰ったけど、それは私のノートを写させてもらうため・・・・・
そして、それから、一郎に一方的に振られたりで・・・・・色々あったけど、現
在(いま)はとにかく一郎がこんなに優しくしてくれて幸せって感じ・・・・・
色々汚い手段も使ったけど、こんな幸せなひとときがずっと続けばいいのに・・
・・・そんなこと、考えていた。
闇代がそんなこと、考えていたとき、そばから声がした。
「ねぇ、彼女、今、暇。これからデートしない?」
気が付くと、そこにはいかにも柄の悪そうな男達が2、3人いて、その中の1人
がいつの間にか、闇代の手をつかんでいた。闇代は地味だけど、そこそこは可愛
かったので、たぶん、ナンパされたのであろう。だが、その時、闇代はの心は恐
怖心でいっぱいだった。こんなやつらに関わり合いたくないのに、手をつかまれ
ているので、逃げようにも逃げられない。それで闇代がどうしようもなく、困り
果てていたとき、
「オイ、闇代、大丈夫か?」
闇代の腕をつかんでいた男の顔面にもろに一郎のパンチが炸裂し、体が吹き飛
ぶ。さすが、サッカー部のエースストライカーだけあって、運動神経は抜群だ。
続けざまにもう1人の男にもキックが炸裂する。そのためか、男達は
「ちぃっ、男がいやがったのか。こんな所に女が1人でいるから、おかしいとは
思ったが、仕方ないな。覚えていやがれ。」
そう吐き捨てながら、どこかへ走り去って行ってしまった。
そして、その場に2人が残された。一郎が切り出す。
「オイ、闇代、大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫。それより・・・」
闇代は自分を助ける際に一郎が近くの路面に放り出し、もう食べられなくなった
ソフトクリームを見て、
「アイス、せっかく買ってきてくれたのに、残念なことしたね。」
「何を言っているんだ。そんなことより、闇代、お前が無事でいてくれたことだ
けで十分満足だよ。」
そう言って、闇代を優しく抱き寄せる。闇代も一郎に身を任せる。
「ありがとう、でも、今日は部活もないし、せっかくの休日なのに、付き合って
くれて、でも、こんなことになって・・・それに、夕べもなんか一方的に一郎の
部屋におしかけちゃって・・・」
「いや、大丈夫だよ。それより、闇代こそ、一晩、外泊してしまったけど、家の
方は大丈夫かい?」
「うん、大丈夫。家の方は友達の女の子の部屋に泊まるって言ってあるから。」
「そうか。」
「うん、それより最近のあなたは優しいね。そして、私はそんなあなたが好き・
・・だからこそ・・・・・こんなひとときがこれからも続けばいいよね。」
「あぁ、そうだな。そして、俺もそんなお前が大好きさ。」
と、その言葉を聞いたとき、闇代は幸せでたまらなかった。もう、こんなに幸せ
なら、どうなってもいい。そう考えていたときである。一郎の様子がおかしい。
「おれはやはりそんなお前が好きだ。大好きだ。もう離れないでくれ。」
そう言って激しく闇代のことを抱き寄せる。
「ちょっと、一郎、いきなり、何?苦しいよ。」
そう言って、闇代は一郎を突き放して、彼の腕の中から逃れようと必死に抵抗す
るのだが、そんなとき、不意に見えた一郎の顔は
「すきだ、すきだ、あいしてるよ、このままどこにも行かないでくれ〜。」
などとよだれを垂らしながら、訳の分からないことを言っている。もう尋常では
ない。闇代は思った。一体、どうしてこんなことになっちゃったの?私はただ、
一郎にいつまでも好きでいて欲しかっただけなのに、何で・・・・・そんなと
き、例の男の声がした。
「何を言っているんだ。これこそ、お前の望んだ世界ではないのか?そう、彼を
文字通り、自分だけのものにしてな。」
「何を言っているの?確かに私は一郎に自分だけのことを見て貰いたかったけ
ど、望んだのはこんなことじゃないよ。本当に心の底から私のことを好きにな
って欲しかったのに・・・・・」
そう心の底でつぶやいたが、
「だがな、結局、黒魔術を使っても、人の心は変えられることは出来やしない
ぞ。人の心を変えられるのは人の心だけなのだ。卑怯な手段を使ってズルをしよ
うとしたお前が悪い。だけど、人生は一度きりだから、後悔しても、やり直すこ
とは出来んがな。」
「そ、そんなことって。」
謎の声の主の容赦ない追い打ちに闇代はいくら、一郎の心を自分だけのものにす
るためとはいえ、ただ、黒魔術を使ってしまったことを後悔してしまった。だ
が、そんなこと考えても、一郎は以前の彼には戻らない。そんな闇代にとって、
「闇代、すきだ、すきだ、だいすきだ、えへへ、あいしてるよぉ〜〜〜。」
などとよだれを垂らしながら、機械的に自分に求愛してくる一郎の声がただ空し
く響くだけであった。こんなはずじゃなかったのに・・・・・
黒魔術の女(おわり)