春と言えば、卒業と入学の季節だ。別れがある代わりに出会いがある。今
までの生活が終わる代わりに、新しい生活が始まる希望に満ちあふれた季節
だ。そういうわけでその少年もその年、小学校に入学して、希望に満ちあふ
れていた。そんな彼が入学して、数日後、いつものように学校から家に帰っ
て来ていた。
「母さん、ただいまぁ、僕、友達の所に遊びに行ってくるね。」
そして、友達の所に遊びに行って、帰ってきたのだが、その頃はもう辺り
は暗くなっていた。帰ってきた彼に母親が言う。
「おやおや、こんなに暗くまで遊んできて・・・もうご飯も出来ているか
ら、早く手を洗って食べにいらっしゃい。」
少年はそういう母親に言われたように洗面台で手を洗い、居間で家族と卓
袱台を挟んで食卓に着く。その日の献立はカレーだった。そして、スプーン
でカレーを食べる彼に少し厳格な父が言う。
「おい、お前は大人になったら、何になるつもりだ。」
「んーとね、おもちゃ屋なんか、いいな。あっ、漫画家や小説家もいい
ね。」
少年が得意そうに答える。そして・・・・・
そうだよな。俺にも桜の木の咲く頃、あんな夢あふれていた時代があった
んだな。しかし、あの頃は夢があって良かったよな。だけど、今の俺のざま
は一体、何だ。少しくらい、仕事がうまく行かないからといって、それで腐
って、すぐに諦めやがって、このざまとは・・・・・
白昼夢からはっと今、我に返った男はそう思った。そして、何事もうまく
行かないからといってすぐに諦めちゃいけないな。だから、今は厳しいけ
ど、明日から、頑張らないといけないな。そう思った。そして、そう思う
と、彼の目からは何故だか、妙に涙がこぼれ落ちてきた。
何故だろう。こんなに綺麗な花を見ているのに、何故だか、妙に切なく
て、何だか、涙がこぼれ落ちてくる。何故だろう・・・そして、
「さぁ、今は頑張らなくちゃいけないときなんだ。ここでこんなに泣いてい
ても、仕方ないな。頑張らなくちゃ。」
そう言って、彼は桜並木を後にするのだった・・・・・