「夢飛行(第2話)迷走」


 思えばなぜ、こんなことになっちまったのだろうか?

 男は考えていた。そして、男の運転するエアカーは地面から、3〜40cm程度
浮いた状態でハイウェイを高速で通過する。ちなみに、エアカーとは、近未来
の人類が地球から、他の惑星に移住しだした宇宙開拓時代に発明された乗り物
で、自分がいる星に対する反重力を働かせ、空中に浮きながら、移動するの
で、タイヤによる地上との摩擦力も無いため、地上を高速で移動することが出
来る。なお、この時代に至っては車とは既にエアカーのことを指すようになっ
ていた。
 と、それはさておき、そんな中、男は助手席の若い女性に言った。
「オイ、エリス、金に困って銀行強盗をやってみたんだが、いざ、やってみる
と、これから、どうすべかな・・・」
「そうね、これから・・・どうしようかな・・・」
助手席の女性が先程の脳天気な対応とはうって変わって頼りなげな返事をし
た。しかし、やはり、いざとなると、自分がしでかした罪の重さに戸惑ってい
るのであろうか?いつしか、彼女はこうなるまでの数週間の出来事を思いだし
ていた。

 その日も彼女はいつも来る喫茶店に来ていた。付き合っている彼に会うため
に・・・
 そして、いつもの待ち合わせの席に座る。じきにウエイトレスが来て、チョ
コレートパフェを頼む。

 それにしても、いつも辛い日々だ。
 満員の地下鉄を利用しての通勤生活。
 1人暮らしで、帰っても誰もいない我が家。

 正直滅入ってくる。しかし、その時はこれから始まるであろう、付き合って
いる彼とのデートのことで、心が一杯で幸せで仕方なかった。
 が、しばらく、後に状況は一変する。
「ところで、俺達、もう別れないか。」
「ねぇ、何よ。私の何が悪かったの?」
重苦しい雰囲気が場を支配する。
「すまん。他に好きな娘が出来たんだ。」
「好きな子って、誰よ。さては・・・レミィ・・・あの子ね。」

 一遍にして、状況が変化した。奈落の底に落とされた。
 そして、それからというもの、エリスには辛い日々が続いた。
「ねぇ、あの子、彼に振られたのよ。聞いた?」
勤め先の会社で、心ないOLのひそひそ話が聞こえる。しかも、失恋後、仕事
にも、身が入らず、失敗続きのエリスに、
「オイ、何をやってるんだ。こんなことも出来んのか?何年、同じ仕事をやっ
ていると思っているんだ。女だからといって、容赦はせんぞ。ま、どうせお前
のような奴はいてもいなくても、会社には何の影響もないがな。」
上司の容赦のない追撃の手が加わる。そして、後で、椅子に座り、仕事でパソ
コンのキーボードを機械的に打ちながら、エリスは思う。

 故郷のアジスト村から、華やかな都会暮らしに憧れ、開拓惑星レダのレダ共
和国の首都のレダシティーに上京して数年が経つ。しかし、現実は、決して甘
くない。忙しい仕事に追われ、寂しい1人暮らしのアパートと会社の往復を繰
り返すそんなわびしい毎日が続く。しかも、仕事で努力しても、会社内での評
価も低く、報われない日々が続く。その上、恋愛面でも、失恋して失意のどん
底の毎日だった。それに、失恋で元気を無くしていても、周囲の誰からも、構
って貰えず、逆に仕事で失敗でもしようものなら、その時だけは上司から、情
け容赦なく、きちんと叱られているのである。

 報われないね。
 でも、なぜ?
 なぜ、こんなに頑張っているのに報われないのかな?
 悲しいね。寂しいね。
 そして、こんな世の中なら、全てぶっ壊してやりたいね。
 そして、こんなに頑張っているのに、あたしを馬鹿にして相手にもしようと
しない奴らなんか・・・・・・・死ね。
 死ね死ね死ね死ね死ね、死んでしまえ。
 そして、こんな努力しても報われず、どうしようもない会社や社会なんか、
いっそ全部無くなってしまえばいいのに、ね・・・

 そんなネガティブなことばかり、考えてしまい、いつしか、考えるばかり
で、キーボードを打つ手も止まりがちだ。しかし、

「やべ。このままじゃ、また、課長に怒られてしまう・・・だわさ。」

また、パソコンのキーボードを打ち始める。そんな憂鬱な日々が続いてい
た。

                           (第3話に続く)


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