「夢飛行(第4話)襲撃」


 その日まで、念には念を入れて、準備して来た。2人は開拓惑星レダでも随
一の大銀行であるレダシティーバンクの1支店のラリータウン支店の前に来て
いた。銀行の入り口から、少し離れたところの路上に止めたエアカーの上で、
男が言った。
「オイ、最近の銀行はコンピュータによる警備システムがやたら厳重らしい
ぞ。本当に大丈夫なのか?」
「えぇ。でも、銀行のコンピュータをハッキングして、行内の電源を落とし
て、かつ、予備電源も立ち上がらないようにしちゃえば、彼らも手も足も出な
いはずよ。今やるから・・・」
助手席に座っていた女性がそう言って、ノートパソコンを膝の上に載せ、キー
ボードを使って激しく何かを打ち始めた。画面には、何やら、文字のメッセー
ジが次々に出てくる。そして、遂に彼女が言った。
「やりぃ、やっと、銀行のコンピュータにアクセス成功っ!もう後は時間の問
題だね。」
と、そういう具合に彼女は、ノートパソコンから、無線でネットワークに接続
し、とうとう銀行のコンピュータシステムの中枢にまで、進入することに成功
したのだった。

 さて、その頃、レダシティーバンクラリータウン支店内では・・・
「ありがとうございました。」
「ねぇ、ユキ、今度の休み、近くに、この前、テレビ番組で紹介されてた喫茶
店があるんだけど、行ってみない?美味しいケーキを出してくれるんだって
さ。」
「えぇ、でも、今は勤務中よ。じゃ、話は後でね。」
ユキが接客を終えた後、小声で隣の窓口の女性が休日の予定について、喋り掛
けて来た。平日の午前中だし、客も少ないし、そのような暇も少し出て来る。
いつもの何ともない平和な一時だ。だが、その平和な静けさもすぐに大変な一
大事へと変わることを、話している2人は、その時、まだ、知らなかった。
 と、そんなときだ。突然、銀行の全電源が切れてしまい、蛍光灯からコンピ
ュータに至る行内のあらゆる電機製品の電源が切れてしまったのだ。しかも、
そのことで電力会社に数人の行員が電話で連絡をしようとしたが、全く通じな
い。そこで、
「何よ、何なのよ?」
誰もが慌てたが、当然、ユキも余りに突然の出来事に驚いて、ただ呆然とする
ばかりだった。しかし、彼女にとって不運な出来事はそれだけでは終わらなか
った。
「オイ、お前等、手を挙げろ!この支店の電源はセキュリティーシステムも含
めて、たった今、全ての電源を落とした。防犯システムが作動するとは、期待
しない方がいいぞ!あっ、そうそう、電話回線の電源も、ももちろん遮断して
あるからな。助けを呼ぼうとしても、無駄だぞ!!」
 いきなりの声に、支店内の客や行員達は、皆、驚いたが、すぐに目の前に、
客を装った男女2人が隠し持っていたマシンガンを構え、自分達を狙っている
のに気が付いた。
 ま、まずい。このままでは、殺される。でも、助けも呼べない。
 行員達はあくまでも、現実がそういう絶望的な状況なので、自分の命を守る
ため、素直に2人の言うことを聞いたのだった。また、客達も殺されると不味
いので、素直に犯人の言うことを聞き、犯人達の指示によって、銀行のロビー
内の1ヶ所に集めさせられていた。しかも、その客達も犯人の内の1人の女性
がマシンガンを突きつけ、牽制しているので、うかつに反撃も出来ない。
 よって、ユキも当然、自分の命を守るため、犯人の2人組の言うことを素直
に聞いていた。しかし、幸か不幸か、行員や客達が犯人の要求をのんで、両手
を挙げ、おとなしくしていると、犯人の男女の内、男性の方が、いきなり、自
分の前に来て、今度はマシンガンでなく、懐の中から取り出した拳銃を突きつ
けて来たのだ。そして、
「やい、金を1億ギガ、出せ!!出さないと、この女の命は無いぞ!」
男が叫び声を挙げる。
 ひぃ〜〜〜、何でこうなるのよ?
 どうやら、ユキは銀行強盗の人質にされてしまったようだ。そして、ユキも
それを自覚してか、怖くて、ガタガタ震えている。そんな中、男がさらに続け
る。
「やい、支店の責任者よ!!早くしないと、この女の命は無いぞ!」
 そうして、とうとう銀行の中の50代初めの中年男性が言った。
「オイ、早く要求通り、金を持って来い。ユキ君の命が危ないぞ!!」
部下に指示を出し、金庫から、1億ギガの入ったアタッシュケースを持って来
させた。そして、若い男性行員の1人がユキと犯人のいる窓口に来て、
「ハイ、お金はこの通り、1億ギガ、あります。どうか、これで勘弁して下さ
い。」
少ない勇気を振り絞って犯人と交渉する。すると、犯人は、中の金を確かめた
上、アタッシュケースの蓋を男性店員に閉めさせ、受け取ってから、窓口から
少し、後ろに下がり、
「フハハハ、これで大金が手には入ったぞ!しかも、一生、遊んで暮らせる額
だな。もうお前等に用はない。死ね!」
そう言い放ち、持っていた拳銃を懐の中にしまい、素早く今まで体にぶら下げ
ていたマシンガンに武器を持ち替えた。
 やばい。殺される。
 その場にいた客や行員の誰もがそう思い、その場の床に伏せた。案の定、

 ズダダダダッ!!

 犯人の男女の持っていたマシンガンの銃弾の音が鳴り響く!しかし、その場
の誰もが命を守るため、床に伏せたので、弾丸はただ、宙を飛びかい、銀行の
建物に無数の穴を開けただけで、人命に影響はなかった。ただ・・・

「よし、もうここは用済みだ。警察が来る前に逃げるぞ!!」

そう男が言い放ち、犯人の男女には、皆が殺されないように床に伏せている間
に逃げられてしまったのであった。ここに、エリスとケイン、2人の銀行強盗
の目標はあっけなく達成させられたのだった。そして・・・

「本当にとうとうやっちまったんだなぁ。」
「そ、そうね・・・」
ハイウェイを失踪するエアカーの上で2人が話している。しかし、この後、彼
らにどんな苦難が降りかかるかはその時はまだ、2人とも知らないのだった。

                      SF小説「夢飛行」第1部完


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