あたしのミトナ


 これは、遠い世界の、ある国の片田舎の、郊外には小麦畑が延々と続く田園
風景広がる、ちょっとした小さな町での出来事です。

 今日も、丘の上にある小学校から、父親が経営する自宅兼、武器屋に走りな
がら、急いで帰って来る、10歳くらいの1人の元気な女の子がいます。
「おぉ、リミか。ただいま、父さん、いま、帰ったぞ。」
すると、そこには、背中にたくさんの槍や刀といった武器を、荷受に背負い、
あごと鼻の下には、立派なひげをたくわえた、1人のたくましいな体格の男が
います。
「あ、父さん、お帰りなさい。今回の旅で、仕事、上手くいった?お母さんに
はいつも、苦労をかけているんだから、今回も、いい商品をたくさん仕入れ
て、たくさん儲けないといけないよね。」
「ははは、リミには、参った。こりゃ、手厳しいな。」
立ち止まった娘の口から、出るきつい一言に、さすがの父親もそう苦笑して、
答えます。

 そんな感じですが、その時、リミはあることに気づきました。
「ねぇ、父さん。ところで、その子、どうしたの?」
と、そこには、父親に抱き抱えられ、気持ち良さそうに眠っている、頭に一本
のツノが生えた紫色の猫のような動物がいます。
「わぁ、この子、かわいい。ねぇ、父さん。この子、一体、何て動物なの?」
「あぁ、こいつか。こいつは、リベール地方に住むミトナという動物の子で
な。そこに武器を仕入れに行ったとき、山の中で、密猟者の仕掛けた罠にはま
っているこいつを見かけて、罠で足も怪我しているしな。助けて、連れて来
て、やったんだよ。」
「でも、この子、そこには、お父さんやお母さんもいるだろうに・・・それを
どうして?」
「あぁ、それがな・・・その少し前、近くで、猟銃で2匹の大人のミトナを仕
留めたという、密猟者の声も聞こえたし、おそらく、な・・・」
「何、それじゃ、この子、罠で足を怪我した上に、お父さんやお母さんもいな
いの?それじゃ、かわいそすぎるよ・・・あ、そうだ。この子に名前を付けて
あげようよ。ねぇ、父さん、この子、オス?それとも、メス?」
「あぁ、オスだが・・・」
「そぉ、それじゃ、ミトナだから、名前はトナー。トナーに決まり。いいで
しょ?じゃぁ、トナー、これから、よろしくね。」
そう言って、トナーの頭をなでようとしたリミでしたが、肝心のトナーの方
は・・・

 むぎぃ、ふぎ〜〜〜

 それに気づくや否や、全身の毛を逆立てて、反抗的な態度を取るのでした。
「何、この子、かわいくな〜い。」
「わはは、人間には、今回、酷い目に遭ったからな。知らない相手には、警戒
しているんだろ。まぁ、仕方ないな。」
「でも、それにしてもさぁ、ぷんぷんぷん」
そう言って、ふてくされるリミですが、その後は、特に何もなく、2人と1匹
は1日の疲れを癒すべく、さっさと家路につくのでした。

 さて、その晩の出来事です。
 父と今回の仕入れの旅の話で、盛り上がり、食事も済ませ、もう夜も遅いの
で、ベッドに入って寝ようとしていたリミですが、昼間、出会ったトナーが妙
に気になります。
「そういえば、あの子、どうしてるかな?父さんは、足に怪我をしていると、
言っていたけど、大丈夫かな?まさか、夜、傷が痛くて満足に眠れてないん
じゃ・・・」
怪我をしたトナーがいる居間に駆けつけ、
「おい、お前、父さんは足を怪我をしていると言ったけど、怪我のほうは大丈
夫かい?まさか、傷が痛くて、夜もろくに眠れてないんじゃないだろうね?」
そう言って、足に包帯を巻き、痛々しい姿で、床に寝ているトナーを眺めてい
たリミでしたが・・・またもや、肝心のトナーの方は、声を聞いて、リミの存
在に気づいても、プイとそっぽを向いて、相手にもしてくれないものだから・
・・リミも、
「何よ、せっかく、人が心配してやってるのに・・・もぉ、かわいくないんだ
からぁ。もう、勝手にしてよね。」
そう言い放ち、怒って、居間から出て行ってしまいました。

 そして。次の日の午後、学校の授業が終わり、家に帰ってきたリミですが、
ふとみると、何と、自分の家の勝手口の玄関の前で、あのトナーが近所の悪ガ
キ、3人組にいじめられているではないですか。
「やぁい、やぁい。何だ、このネコ。ツノが生えてるし、大体、毛の色も紫だ
し、変なんじゃないか?この化けネコめ!」
そんな風に、言われ、トナーが棒で叩かれたり、足で蹴られたり、していま
す。怪我をした足が痛いので、満足に抵抗することや、逃げることすら、出来
ません。それを見かねて、リミも、
「何よ、この子、足に怪我をしているのよ。早く、弱い者いじめはやめなさい
よ。」
「何だ、こいつ、俺達は、この化けネコを退治してやってんだぜ。横から、口
をはさむなよな。」
「何、言ってんの?確かに、トナーは見かけは、少し変かもしれないけど、決
して、化けネコなんかじゃないんだからね。」
最初は、反論されますが、リミも負けじと、少し泣きべそをかきながらも、近
所の悪ガキをじっとにらめつけます。ですが、そのリミの姿があまりにも真剣
で、迫力があったせいか、さすがの悪ガキ達も、
「そんな目でにらめつけるなよ。わ、分かった。悪かったよ。せいぜい好きに
しな。」
リーダー格の少年が、そう言って、逃げていってしまいました。

 その後・・・

「ねぇ、お前、大丈夫かい?怪我をしているのに、酷いことをするもんだ
ね。」
リミは、今まで、いじめられていたトナーを抱き寄せ、心配そうに話し掛けま
した。すると、トナーも最初は戸惑いながらも、すぐ、リミに体をすり寄せ、

んにゃにゃ、にゃーごにゃーご

と、泣き声を上げているではないですか。
「やったぁ。今まで、なかなかなついてくれなかったけど・・・あたしも、ト
ナー、やっと、お前に受け入れて貰えたよ。」
そして、その時、リミはというと、トナーに初めてなついて貰った嬉しさのあ
まり、かつて、見せた中でも、とびきりの笑顔を見せていたのでした。

それで、ここで、この話も、終・わ・り


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