ある巨人の嘆き
むかし、むかし、ある国に、身長が二十メートルはあるであろう、とても、
とても、大きな、ポックルという巨人がいました。
しかし、ポックルは体があまりにも大きいものだから、
「おい、でかぶつ、また、俺達の家を踏み壊しやがったな、この野郎。」
「ごめん、ごめん、足元に君達の家があることに気が付かなくて、つい、踏
んづけちゃったんだよぉ。」
こんな風に、そこらじゅうの村や町で人々の家を知らないうちに壊しては、
迷惑を掛けていました。そんなわけだから、神様も、ある日、ポックルに、
「おい、ポックルよ。お前はあまりにもでかい、その体で人々に、迷惑を
掛けて来たな。この際、これ以上、他人に迷惑を掛けぬよう、1ヶ所でじっ
としておれ。」
天の上から、そう言い放ちました。すると、ポックルは、その声を聞いたと
思ったのもつかの間、いきなり気を失ってしまい、いつのまにか、薄暗い洞
窟の中に寝かされていました。
しかし、気が付いたポックルが、
「おい、ここはどこなんだ。俺は一体?」
そう思って立ち上がろうとするのですが、体の自由が利かず、一向に立ち上
がることもままなりません。そこで、彼は不思議に思い、辺りを見回すので
すが、何と、驚いたことに、彼は大の字に寝かされ、両手両足を鎖で杭につ
ながれていたのでした。そんなわけだから、彼も必死に鎖を引きちぎって起
き上がろうとするのですが、不思議と力が入らず、起きることすら、出来ま
せん。と、そんなとき、どこからか、こんな声が聞こえて来ました。
「ポックルよ、わしは神じゃ。お前は今まで、あまりにもでかい、その体で
人々に、迷惑を掛けて来たな。この際、これ以上、他人に迷惑を掛けぬよう、
わしはお前を一生、暗い洞窟の中に閉じ込めることにしたんじゃ。そんなわ
けじゃ。そこで、一生、じっとしておれ。」
「おい、そんなぁ、神様、待ってくれよぉ。俺が何をしたというんだよぉ。
たかが俺は、人より、少し体がでかかったために、時々、みんなに迷惑を掛
けてただけじゃないかぁ。」
ですが、神様からは、何の返事もありません・・・そこで、ポックルは、仕
方なく、鎖を引きちぎるか、杭を引き抜くかして、どうにかして起きようと
するのですが、不思議と力が入らず、どうにも起きることも出来ません。そ
して、ついには、もう駄目だと観念し、諦めるのですが、その後は・・・自
由に動き回りたいのに、満足に動けない自分の運命を呪ったり、自分をそう
した運命に導いた神様を呪ったり・・・そんなすさんだ毎日でした。
そんなある日・・・
「あ、冷てぇ。」
あるとき、鎖で両手両足の自由奪われ、寝ているポックルの顔に、一滴の
水が落ちて来ました。何事かと思って洞窟の天井を見るポックルですが、天
井には、無数の鍾乳石があり、実は、そこから、水滴がこぼれ落ちて来たの
でした。
「何だ、地下水か・・・」
そう思ったのですが、耳をすませて聞いてみると、
ザーッ
近くで地下水の流れる音がします。しかも、もっと耳を済ませて聞いてみ
ると、
チュンチュン
地上でさえずる小鳥の声すら、聞こえてきます。
ヒューーー。
しかも、どこからか、吹いてくる風の心地良いこと、心地良いこと。
あぁ、何て、心地いいんだ。
確かに、俺は体の自由は利かずに、動くこともままならないけど、こうい
うのも悪くない。
俺は一生、ここの心地よい風や、周りの水の流れに小鳥のさえずりなど、
楽しめれば、それで十分で、後は、時々、見知らぬ異国の地に行った自分を
想像して、楽しめれば、それは、それで十分幸せじゃないか。
これでいいのだ。いっそ、このまま、この流れに身を任せてしまおう。
そう思うに至ったのです。
そんなある日・・・
今日も、まだ見ぬ異国の地に想いをはせ、外国に行った自分を想像して
いました。しかし、その時の、空想の中でのポックルの体の大きさは、何
故か、他の人間と同じサイズでしたが・・・その中で、彼は、木に、もう
十分に、赤く熟していて、いかにも、美味しそうな実がたくさんなってい
るリンゴの木を見つけました。試しに、木の枝からリンゴを1個、取って
食べてみたのですが、そのリンゴの美味しいこと、美味しいこと。とても
空想上の美味しさではなかったので、
「美味しい、これも本当に、夢なんだろうか?」
と、頬をつねってみたんですが・・・
「いてぇ、夢じゃない。」
もしかしたら、これは、ポックルの身を案じた神様による、これからは、
普通の人間として、幸せに生きよという粋な計らいかもしれませんが・・・
こうして、その後も、ポックルは普通の人間として、幸せな人生を送っ
たとさ。
めでたし、めでたし。
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