一人っきりのクリスマス


 ここはある、郊外の平凡なベッドタウン。
12月24日、クリスマス・イヴの夜・・・・・
今日も、夜遅く、時刻は11時を過ぎ、さすがに暗い道なみには、通る人並み
もまばらだ。だが、そんな中、街頭に照らされた歩道を歩く男がいた。彼は考
えていた。

 俺は何をやっているんだろう。
 昔は確かに、それなりに理想もあったが、大学を出た後、色々と紆余曲折も
あったが、現在、町の小さな建築事務所でそれなりに一介のサラリーマンとい
うものをしている。そして、今の勤め先は、いつ、潰れてもおかしくないよう
な小さな事務所だ。だが、毎日、仕事に追われながらも、それなりに仕事をこ
なしている・・・ちなみに、仕事内容は、パソコンのCADや手書きによるA
1サイズの図面作成だが、仕事の性格上、納期までに図面を仕上げるために、
徹夜も珍しくない厳しい業界だ。しかも、現在、不景気で設計の仕事も少ない
のだが、勤務する事務所は何故か、仕事に恵まれ、次々と舞い込んで来る仕事
を納期までにこなすのは、かなり、大変だ。

 そんなわけだから、今日も納期までに図面を仕上げるために、今まで残業を
して来た所だが・・・

 むなしい。ただ、むなしい。
 毎日、仕事に追われてるだけで、ただ、過ぎ去っていく毎日だが・・・
 こんなことしていていいのか。

 そんなこと考えながら、歩いていた。
そんな中、ある声が聞こえてきた。

「出来たてのフライドチキン、お一つ、如何ですか〜。」

 フライドチキンかぁ。そう言えば、もう、クリスマスだよなぁ。
 仕事に追われ、今日がクリスマスなことを忘れていたよ。

 そんなわけだが、今日は、クリスマスらしく、実は、駅の近くの本屋の店先
で、近所のハンバーガー屋の店員が、フライドチキンを売っていたのだった。

 男は思う。一つ、買っていこうかな、なんて。
 だが、男には、一人暮らしのアパートには帰っても、誰も一緒に食べる相手
がいないのだが・・・・・彼は思う。
 そう言えば、昔、確か、山下達郎のクリスマス・イブという曲に「一人きり
のクリスマス」というフレーズがあったよなぁ。今の俺は特に、一緒にいてく
れる彼女もいないし、まさにそれだな・・・が、特に、とりたてて、どうして
も、彼女を作りたいという気も起きないのだが・・・
 駅前のコンビニで買った肉まんをかじりながら、彼は思う。

 東京の郊外のまだ、緑の残る町並み・・・

 駅から、少し離れると、畑もまだ、たくさん、残っているそんなのどかな町
並みだが、俺には、そんな風景が何故か、妙に落ち着く。
 そして、近所の、商店街の数軒の店や、コンビニ、ファミレスに、休日や夕
方は買い物客で混みあう駅前のスーパー、そんな、何でもない街の光景が全て
いとおしく、感じられた。そして、今はとにかく、いつも、辛いこともあるだ
ろうが、まだ、少しは、この町で生きていきたい。生きていこう。そう思い、
じきに、着いた駅の近くの駐輪場から、自転車を走らせ、家路へと向かった。


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