夢飛行(第5話)追跡者の後悔


 何故、こうなっちまったんだろう・・・

「ソフィアさん、そちらの方はどうですか?」
「はい、先日、レダシティーバンクラリータウン支店に男女2人組の銀行強
盗が押し入った模様。現在、強奪した金を持って逃走中です。これに対し、
警察では、付近に包囲網を張って、犯人逮捕に向け、全力を尽くしています
が・・・」
 丁度、TVでは、先日の男女2人組の銀行強盗についてのニュースをやっ
ていた。現場から生中継で女性アナウンサーが現在の状況を報告している。
 男は、テーブルを中に挟み、TVの向かい側にあるソファーに腰掛けてい
たが、TVのニュースを見て、両手で頭を抱えながら、嘆いた。
「エリス、あの娘も本当はいい娘だったんだが、俺が・・・俺があの日、い
きなり、『俺達、もう別れないか。』とか、あんなことさえ彼女に言わなけ
れば、こんなことにはならなかったのに・・・」
 男は現在、後悔してもしきれない気持ちでいた。男の名はリチャード、現
在、TVのニュースで生中継されている銀行強盗のうちの1人で、エリス・
・・彼女が銀行強盗をやった元々の原因となった、彼女を数日前に酷い振り
方で振った彼女の元彼氏である。

 そういえば、あの後、彼女が急に様子がおかしくなったと聞く。
 俺さえ、あの娘にあんな酷いことを言わなければ・・・・・

 男はその時、ソファーに深くもたれかかり、放心状態になっていた。そし
て、ただ後悔するだけしか、出来なかったのだった。
 それ故、前にあるテーブルの上に置かれた携帯端末からは、つい最近、開
発された立体画像を映し出す技術を使い、その上には、彼が付き合っていた
頃の、笑顔のエリスが、端末と同サイズの縮小画像で写し出されていたのだ
が・・・・・うわぁぁぁ、こんないい子がどうして・・・だが、その笑顔も
今の彼にはただ空しいだけでしかなかった。

 そして、数時間後・・・彼は部屋の真ん中に大きな長方形の机が設置され
た会議室らしき部屋にいた。机を囲んで、彼を含む男女数人が椅子に座りな
がら、何やら資料を眺めている。1人の眼鏡を掛け、少しインテリ風の女性
が立ち上がり、手元にある資料を読み上げた。
「先日、レダシティーバンクラリータウン支店に押し入った男女2人組の銀
行強盗ですが、男の方は、氏名はケイン=スミス、31歳・無職です。現
在、今まで勤めていた会社もリストラ解雇され、かなり荒れていた様子で
す。後、女の方はエリス=ミラー、25歳のOLです。特に目立った点は無
いですが、最近、男女間のトラブルが元で、会社も休みがちだったようで
す。そして、次に、犯行に使われた凶器についてですが・・・」
と、そこへ、40代ぐらいのコートを肩に掛け、深く後ろにもたれかりなが
ら、椅子に座っているという、いかにもだらしなさそうなおっさんが口を挟
んだ。
「ところで、不思議なんだがよぉ、何故か、ここに犯人女性と最近まで付き
合っていた事件の関係者がいるんだが、実に不思議ですな。」
「トム先輩、そ、それは・・・」
リチャードが最初、口を詰まらせながらも答えた。
「リチャード君、それは本当かね?」
机の真ん中に向かった席に座り、少し頭の禿げた中年男性が聞いた。
「はい、署長。実は私は今まで、犯人女性のエリス、彼女と付き合ってまし
た。でも、最近、あいつを酷いやり方で振ってしまいました。で、あいつは
それが元でかなり思いつめていたようなんです。だから、もしかしたら、そ
れが元で今回の犯行に至ったのではないかと・・・そして、私は私が彼女に
あんなことをさせてしまった責任をとるためにも、あいつを必ず、警察官と
しての自分の手で捕まえ、そして、罪を償わせてやりたいんです。」
「ほー。しかし、いくら自分のせいだからと言って、そんなに責任を感じる
こともないだろうに・・・」
トムが小声でつぶやく。だが、署長が
「本当は事件の関係者が刑事として、犯人の追跡に携わるのは余り好ましく
ないことなんだが・・・辛いことになるかもしれないけど、本当にそれでも
いいのか?」
そう聞き返したとき、
「えぇ。」
リチャードは、これから辛い思いをするのは分かりきっているはずなのに、
それが自分が彼女にしでかした罪を償う、唯一の方法なのだ思い、

 彼女を必ず自分の手で捕まえ、ちゃんと罪を償わせてみせる。

 そう心に誓うのだった。

                           (第6話に続く)


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