夢飛行(第6話)再会


 あれから、数週間・・・

 華々しく、銀行強盗をしでかしたエリスとケインだが、流れ、流れて、今
はとある、5階建ての鉄筋コンクリートのボロアパートの一室に潜伏してい
た。

 ピンポーン
「誰?」
「俺だ。ケインだ。」
「待ってて、今、開けるから。」
エリスが部屋の内側のドアの横にあるテンキーで、パスワードを打ち、ドア
を開け、外出する時、素顔が分からないように、帽子をかぶり、サングラス
を付けているケインを中に迎え入れた。ケインはしていた帽子とサングラス
を取り、テーブルの上に置き、言った。
「おい、食料を仕入れて来てやったぞ。」
彼は片方の腕に抱えていた紙袋をテーブルの上に置く。そして、エリスが彼
が持ってきた包みを、開けた。中には、フランスパンが数個入っていた。2
人はそれらのパンをかじり、
「うめぇ。こんなに上手い食事をしたのは久しぶりだ。」
「えぇ、そうね。」
貪り食っていた。というのも、彼らは実は、困窮していて困っていたのだ。
警察の捜査から逃れるため、潜伏中の彼らは人前に出ることもままならず、
食料の調達すら、ままならない状態でいたのだ。そして、待望の食事にあり
ついた2人だが、エリスがぼやくように言った。
「何故、こうなっちゃったのかしら?これじゃ、いくら、銀行強盗をして、
金がたくさんあっても、外に出かけて使えないんじゃ意味ないじゃない。」
「まぁ、そう言うな。だが、今、俺達はれっきとした、銀行強盗という犯罪
を犯して追われる身なんだ。まだ、捕まらないだけでも幸せなんだ。そう、
贅沢を言うなよ・・・」
2人は、今更ながら、自分達がとんでもないことをしでかしてしまったと思
い、後悔する以外にないのだった。

 数時間後・・・

 彼らの潜伏している部屋の前の廊下に、不審な2人の男達が立っていた。
服装は、2人とも、何処の誰がしていてもおかしくないようなTシャツの上
にジャンパーを着ていて、ズボンはジーパン、靴はスニーカーという格好で
ある。だが、その行動に不審な点があった。辺りを気にしながら、ぼそぼそ
小声で何やら、話している。
「こちら、ビリー、付近の住民の目撃証言によると、こちらのマンションの
505号室に、確かに犯人2名が潜伏しているようです。これは間違いない
ようです。」
良く見ると耳にコードレスだが、イヤホンのような物をしている。どうや
ら、エリスとケイン、2人を捕まえようと、追跡中の警察の刑事のようだ。
「よし。では、早速、犯人達に気が付かれないように部屋に突入しろ。」
「分かりました。」
ビリーは小型無線で相手から、指令を受けるや否や、
「よし、突入の許可が出た。行くぞ。」
もう一方の男に向かって言い、2人とも、エリスとケインに気が付かれない
よう、音をたてずに、静かにその潜伏している部屋の前に行った。ビリーが
ドアに何やら、小さな豆粒程の物を付けた。
「よし、離れろ。」
2人とも、ドアから離れ、身構える。ビリーがジャンパーのポケットの中か
ら、何やら、小さな箱を取り出した。そして、蓋を開け、中にあるボタンを
押すや否や、
ドカン!
いきなりものすごい音がして、アパートのドアが跡形もなく、消え去ってし
まった。どうやら、ビリーがドアにつけたのは、近年開発された、分子を破
壊し、一瞬でこなごなにする技術が開発されたが、そこから作られた小型製
の爆弾だったようだ。
「何だ!」
「え、何?」
エリスとケインは何が起きたのか分からず、動揺している。
「今だ、突っ込め。」
ビリーの掛け声と共に、彼ら、2人の刑事が部屋の中に突入した。彼らはエ
リスとケインに銃口を向け、けん制する。
「オイ、手を挙げろ!」
「ちぃ、見つかったか」
ケインが叫ぶ。だが、エリスが2人の刑事の内、1人の方を見るや否や、
「あ、あなたは・・・リチャード。でも、今頃、私の前に現れて、一体、何
がしたいの・・・・・あの時は、あんなに私に酷いことをしたのに・・・」
何と、2人の刑事の内、1人はエリスを数週間前に酷い振り方で振った元彼
氏のリチャードだった。エリスの目から、涙が零れ落ちる。だが、そんなエ
リスにリチャードが必死に説得を試みる。
「俺、考えたんだ。あの時は確かに、俺が悪かった。やはり、俺にはお前し
か、いないんだ。そこでだ、お前もちゃんと罪を償って、もう1度、2人で
やり直さないか?」
と、その時、リチャードは今更ながらに思った。

 思えば、馬鹿なことをしたものだ。
 自分にとって、一番大切にすべき女(ひと)を放ったらかしになんかして・
・・

 実は、彼は、代わりに付き合った女性も、自分に対してはただの遊びで、
2股を掛けられていたことを後で知り、後悔するしかなかったのだ。そし
て、願わくば、エリスともう一度やり直したい、そう淡い期待を抱いてい
たのだが、彼の必死の説得も実らず、
「何を今更・・・もう遅い、手遅れなのよ。」
そう叫ぶエリスの両目からは涙が溢れ出て止まらないのだった。

                           (第7話に続く)


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