夢飛行(第8話)裏街道


 さて、男女2人の銀行強盗の逃走劇を描いてきたこの話だが・・・舞台は
場所を変えて、開拓惑星レダの地球連邦からの独立を記念した独立記念公園
に場所を移すとしよう。
 その日も昔の人類の故郷である地球にあった、ある国の言葉で言えば、草
木も眠る牛三時(うしみつどき)になっていた。現在、独立記念公園は市民の
憩いの場となっており、毎日、昼間は親子連れやカップル、仕事の合間の休
憩時間を過ごす会社員などで大変賑わっていた。だが、さすがにその時間に
なると、いつも、公園の中には誰の姿も見当たらなくなっていた。しかし、
不思議なことにその日は少し様子が違っていた。

ザクッ、ザクッ!

公園内の森の中から、誰かがスコップで穴を掘っている音がしていた。しか
し、そんな時間に、誰が何のために公園内で穴を掘っているのだろう?懸命
な読者のみなさんは不審に思うかもしれないが、
「ねぇ、見つかった?他の誰かに見つからないうちに、早く何とか見つけな
いと!」
「いや、まだだ。しかし、俺達2人がここにいることがばれないうちに、何
とか作業を終えないとな。」
2人組の男女の会話が聞こえる。どうやら、何か、地面に埋めた物のようだ
が、他の人間達にばれないように、探し物をしているようだ。だが、その声
の主は何と、先日、銀行強盗をして、指名手配になっていたエリスとケイン
であった。そして、

ザクッ、ザクッ、ザクッ!

数時間も、2人はある桜の木の周りを掘っていた。そんなわけで、辺りは穴
ぼこだらけになっていた。だが、しばらくして、もうすぐ夜も明けようとす
る頃、遂にケインが歓声をあげた。
「やったぞ、遂に見つけたぞ!」
「えっ、本当、やったわね。」
地面に開けた穴の底からは銀色の金属片が見える。
「オイ、一気に掘り出すぞ。」
ケインがそう言い、埋まっている物を掘り出す。出て来たのは、金属製のア
タッシュケースだった。そして、ケインがアタッシュケースを開ける。する
と、中には何と、無数の札束が入っている。しかし、それは、実は、2人が
銀行強盗で奪った金を入れたアタッシュケースだった。つまり、2人は銀行
強盗で奪った金を、惑星レダの独立記念公園のある桜の木の根元に埋めてい
たのだった。

 そして、数時間後・・・
 ケインとエリスの2人はある古びたビルの中のバーに来ていた。服装は誰
にも分らないように、帽子をかぶり、サングラスをしていたが・・・
 店の中には、カウンター越しにマスターと数人の客がいた。2人は早速、
カウンター席に座った。店のマスターが2人の前に来て訊ねた。
「お客様、ご注文は何でしょうか?」
「例の宇宙暦1273年製のカモを頼む。」
ケインは答えた。しかし、マスターは少し驚いたようであったが、意味を理
解すると、
「それじゃ、ここへ行くんだな。」
一切れのメモを渡して来た。紙には、ある住所が書いてある。というのも、
実は、ここは表向きはただのバーだが、実際は密航組織の窓口になっていた
のだ。「例の宇宙暦1273年製のカモを頼む。」は密航を申し込む際の合
言葉というわけなのだ。2人は早速、席を立ち、その住所の場所に向かっ
た。

 そこは何の変哲も無い、ただの古びたマンションの一室だった。表札に
は、クレーリー商会と書いてある。ケインとエリスの2人はこんな所で密航
を手続き出来るのか不審に思いつつも、帽子とサングラスを取り、中に入っ
た。すると、
「よぉ、一体、何の用だ?」
中には、中年のがたいのいい親父が待ち受けていた。部屋の中には、テーブ
ルが1個置いてあり、親父はテーブルを挟んで奥の方のソファーに座ってい
た。両肘をテーブルに付き、両手をガッチリと組んでいる。ケインは言っ
た。
「あの、俺達、わけあって他の星に密航したいんですが・・・」
「ほー、実は、ここはただの一貿易会社なんだがねぇ。妙なこと言う奴らだ
な。」
2人のやりとりが続く。
「は、話をはぐらかさないで下さいよ。ちゃんと調べて来たんですから。こ
こが表向きは食料品の貿易会社だが、裏の顔は密航組織だってことは、もう
既に知ってるんですよ。それに、バーの親父さんにもちゃんと会って、ここ
に来るように言われたんですから。」
「ほー、そこまで分ってるんなら、話ははえー。しかし、そういえば、数日
前にあんた達に似た銀行強盗が出たようだが、なるほど。そういうこと
か?」
「で、でしたら・・・」
「いや、駄目だな?」
「何故です?」
「では、言おう。密航を甘く見るんじゃんねー。密航とはな、生まれ故郷の
自分の惑星(ほし)を捨て去ることだぜ。つまり、今までの過去を全て捨て去
ることだ。それに、自分達の知らない惑星(ほし)に行くんだ。誰も頼りにす
ることは出来ねぇ。ときには、とても辛い目に遭うこともあるだろう。だ
が、非合法な出国だから、いざとなっても、帰ることも出来ない。果たし
て、兄ちゃんよ、お前はその時、横のお嬢ちゃんにどうやって詫びる気
だ?」
「そ、それは・・・でも、俺達、そこらへんもちゃんと覚悟し、その上でこ
こに来たんです。そうだよな?」
「えぇ。」
エリスもうなずく。だが、返ってきたのは、意外な答えだった。
「ほー、覚悟は出来ているのか・・・だがな、俺達も危ない橋を渡るんだ。
お前らがそれなりのことをしてやるに値するか、あるゲームで試させて貰う
ぜ、いいな。」
「分りました。」
ケインは答えた。

                           (第9話に続く)


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