ズダーン!!
拳銃から弾丸が発射された。だが、幸い、ケインとエリスには当たらず、2
人は怪我をしないで済んだが・・・部屋の壁には拳銃の弾丸がめり込んでい
た。しかし、ケインとエリスは余りに突然の出来事に思わず呆然としてい
た。そんな2人に親父が言った。
「安心しろ。今の一撃は挨拶代わりだ。狙いも外していたし、当てるつもり
もなかった、だが・・・まぁ、そんなことより、そんな所に突っ立ってない
で、椅子にでも座れや。」
「は、はい。」
そんなわけで、思わず、ケインとエリスの2人も、目の前のテーブルを挟ん
で親父と真向かいの席のソファーに座った。すると、親父は拳銃から、何を
思ったか、シリンダーを外し、入っていた弾丸を全て抜き取った。そして、
また、弾丸を一発だけ入れ、シリンダーを拳銃にはめ直した。だが、特筆す
べきはその後の出来事だった。何と、親父は拳銃を自分の頭に当て、引き金
を引いたのだ。
「うわっ。」
この出来事には、さすがのケインとエリスも驚いた。だが、その時は、拳銃
に弾丸は入ってなかったので、ただ、「カチッ」と音が鳴っただけだった。
だが、親父はその後も、もう1回、撃ったのだ。親父は、弾丸を装着するシ
リンダーの位置が移動した拳銃の引き金を引いた。でも、その時も拳銃に弾
丸は入ってなかった。ただ、「カチッ」と音が鳴っただけだった。しかし、
その後である。親父は、
「ほらよ。」
ケインに、弾丸を装着するシリンダーの位置が移動した拳銃を投げ付けたの
だ。そして、
「わっ。」
受け取ったケインに、親父は言った。
「では、さっき、おれがやったように自分の頭に拳銃を当て、引き金を引い
てみろ!弾丸が入っている確立はもう二発撃ったから、四発に一発だ。そし
て、運が良ければ、生きているだろうさ。つまり、運が悪く、実弾が入って
いれば、その時は一間の終わりだし、入っていなければ、次は、相手の番に
なる。そして、三発売って、弾丸が一発、拳銃の中に残っていれば、お前の
勝ちだ。また、どちらか一方が勝負から降りれば、当然、相手の勝ちだ。ど
うだ、分ったか?」
それは、いわゆる、ロシアンルーッレット、人類の故郷である地球をルーツ
とした文字通り、命がけの度胸試しのゲームであった。
「そんな、クレイジーな!!」
さすがのケインも抗議する。だが、周りを見ると、いつの間にかにケインと
エリスの2人は、黒服をまとい、サングラスを掛け、帽子をかぶった4人の
男達に囲まれていた。そして、4人の男達は手に拳銃を持ち、ケインとエリ
スを狙っていた。親父は言った。
「つべこべ言わずにやればいいんだよ!!幸い、この部屋は、特別に防音の
工事がしてある。だから、いくら銃弾の音が鳴っても、外には漏れないとい
うわけだ。つまり、拳銃で2人の人間を殺したところで、外の人間には、全
く分らないと言うことだ。それに、俺達の秘密をあそこまで知られたからに
は、ただ、返すわけにはいかないんでね。さぁ、この近くのルミナス湾に身
元不明の2人の死体が浮かび上がることにならないうちに、早くどうする
か、決めるんだな。」
「分りました。」
ケインは答え、自分の頭に拳銃の銃口を当てた。だが、なかなか、引き金を
引くことが出来ない。そして、いくらか、時間が過ぎ、
「何をしてるんだ、早くやれ!!」
「は、はい。」
親父に言われて初めて自分の頭に銃口を向けた拳銃の引き金を引いた。だ
が、幸い、その時も拳銃に弾丸は入ってなかったので、ただ、「カチッ」と
音が鳴っただけだった。そして、
「次は俺の番だな。貸してみろ!」
「はい。」
ケインも親父に拳銃を渡す。こうして、四発目の引き金は親父が引き、五発
目はケインがという具合に、交互に、弾丸を装着するシリンダーの位置が移
動した拳銃の引き金を、自分の頭に銃口を向け、引いていった。そして、拳
銃に弾丸が一発、残った。
「やったな、お前の勝ちだぜ。」
親父はケインに言った。と同時に、親父は、弾丸を装着するシリンダーの位
置が移動し、今度は間違いなく弾丸が入っているであろう拳銃の銃口を、自
分の頭に向け、引き金を引いた。
「なっ。」
ケインは驚いたが、中には弾丸は入ってなかった。
「なーんてな。実は、さっき入れたのは、弾丸でなく、弾丸の付いていない
カートリッジだけで、最初から、この拳銃の中には、弾丸は入ってなかった
のさ。それに、さっきも言ったが、俺達も危ない橋を渡るんだ。お前らが本
当にそれなりのことをしてやるに値するか、その覚悟を確かめたかったん
だ。」
「なーんだ、親父、あんたも人が悪いぜ。」
ケインも安心して緊張の糸が切れたのか、ソファーにそっくり返り、言っ
た。だが、何はともあれ、ケインとエリスの2人はゲームの勝負に勝ち、宇
宙への密航切符を手に入れることが出来たのだった。
(第10話に続く)