何故その事を?
2人は身構えたが、
「実は私も例の組織の手引きで、惑星アルタスまで、密航するんですよ。そ
の証拠にこの密航切符もあるでしょう。」
2人も金と引き換えに、例の組織から貰った密航切符を見せられ、安心した
のだった。
男は50代半ばに見えた。そして、その体にまとった筋肉から、かなりの
長い間、肉体労働で体を鍛え上げてきたのは一目瞭然だった。だが、
「まぁ、何にせよ、俺はボブってんだ。よろしくな。」
「あ、よろしくお願いします。」
2人はこれからしばらくの間、密航船で苦楽を共にするであろう相手に声を
掛けられ、返事を返す。だが、その後、ボブは言った。
「しかし、お前さんら、その若さで、何故、密航なんぞ、する羽目になっち
まったんだい?」
「・・・・・」
エリスもケインも、今までの逃亡生活での苦難を考えると、つい、自分達は
軽はずみにも、何て馬鹿なことをしてしまったんだろうと思ってしまう。そ
して、思わず黙り込んでしまった。そんな2人にボブは言った。
「いいさ。言いたくないことは無理に言わなくとも・・・だがな・・・かく
いう俺も、昔はビッグになろうと野望も持っていたし、そのためには、それ
なりに無理もしたさ。そして、現に、恥ずかしいことだが、馬鹿やっちまっ
て、今も一応、警察から追われる身だ。だけどな、この年になって初めて分
かったんだ。どんな地位や名誉や、大金よりも、家族や友人と言った、そん
な自分にとって、大切な人間と一緒にいられる。それだけのささやかな幸せ
の方がどれくらい大事かを・・・見ろ、この写真を。今でも時々、手紙や電
話でやりとりをしているが、娘と孫のジミーだ。今は惑星アルタスに住んで
いる。」
今までどれくらい苦労したかは、容易に想像出来そうな、ボブの傷だらけの
手には1人の女性と1人の小さな子供の写った写真があった。ボブは続け
て、言った。
「だがな・・・今まで金のためには、散々悪さもやって来た、こんな馬鹿な
俺だけどな・・・死ぬ前に1度でもいい。惑星アルタスに住む大切な我が子
と孫に会ってから、死にたいんだ。でも、お尋ね者の俺には、気軽に宇宙船
に乗ってアルタスにいくわけにもいかねぇ。分かるか?この気持ちが。そし
て、密航してでもいいから、娘や孫に会うためにも、そのために働いて、働
いて・・・金を貯めて・・・そして、ようやくその夢が叶うんだ。分かる
か?この俺の気持ちが!!」
「分かります、えぇ、分かります。分かりますとも・・・」
ボブの切実な気持ちを聞いて、エリスとケインは、とても涙を流さずには、
話を聞いていられなかった。と、そんなときの出来事だった。
「オイ、お前ら、そこで何をしている?怪しい奴らめ!・・・・・そういえ
ば、思い出したぞ!お前らは確か・・・」
何と、そこには空港を巡回警備中の1人の警官がいたのだ。
「ちぃ、しまった!!」
エリスとケインにボブの3人はすかさず逃げようとする。
「何だ?どうした?」
近くの別の警官も声を聞いて駆け寄ってくる。3人を発見した警官は叫ぶ。
「大変だ!奴ら、何と、警察で指名手配している、先日の銀行強盗2人組
と、数年前、開拓惑星レダ中を震撼させたあのギャング一味の1人のボブ
だ。オイ、早く捕まえるぞ!」
「分かった。」
空港で2人の警官がエリス、ケイン、ボブの3人の指名手配犯を追う。だ
が、何とか、エリスとケインの2人は、すぐに建物の影に隠れることが出来
た。しかし、ボブをある悲劇が襲った。
うわっ!
警官達から、逃げようとするが、足がもつれて、転んでしまう。そして、
「何をっ!こんな所で捕まってたまるかっ!!」
起きあがって警官達から逃げようとしたボブだが・・・転んでいる間に警
官達に追いつかれてしまった、そんな彼を無常にも、2人の警官の手にした
電磁警棒が襲う。
電磁警棒!
それは、警棒に、2万ボルトの高圧電流を流し、相手にヒットさせることに
より、凶悪犯達を確実に気絶させてしまう、いわば、一撃必殺の武器であ
る。レダ警察の警察官なら必携の装備になっていた。
ぐわぁ!!!
あっけないボブの最後だった。
「うわぁ、ボブさんが!!!」
泣きながら、建物の影から出て、ボブを助けに入ろうとするエリスだが、そ
んな彼女をケインが引き止める。
「だって、ボブさんがぁぁぁ!!!」
「やめろ!俺達まで捕まってしまうぞ!」
「ううう・・・・・」
2人は今、改めて、自分達が警察に追われる、社会的にどうにもならない身
だと思い知らされたのだった。そして、突発的にも、自分達が、銀行強盗と
いう、実にとんでもないことをしてしまったんだなと、改めて、思うしかな
かった。あんなことさえしなければ・・・だから、今は・・・せめて・・・
絶対に、警察に不覚にも捕まってしまったボブのようにはなるまいと思っ
た。そして、今はそのためにも、少しでも多く、警官達の傍から離れた安全
な場所に、逃げることしか出来なかった。
(第11話に続く)