夢飛行(第11話)新たなる旅立ち


「もう本当に、レダとはお別れなんだね。」
「あぁ。そうだな・・・」
 故郷の開拓惑星レダから、追われるように去り、もうこれっきりで、2度
とレダに戻ってくるつもりもないエリスとケインの2人は感傷に耽っていた。
2人は、現在、ある宇宙貨物船内の倉庫で山積みにされた荷物入りの木箱に
よっかかり、床に座っている。
「いいか!お前らは聞く所によると、警察に追われる身で自由に宇宙船で旅
することすら、出来ないそうだな。良く覚えておくんだ!そんなお前達を宇
宙船に乗せて運んでやるだけでも、ありがたいことなんだということを!!」
先程、宇宙船の船員に言われたせりふが2人とも、やけに身にしみる。エリ
スは思う。

 所詮、警察に追われているためとはいえ、自由に宇宙船に乗って旅をする
ことすら、出来ない自分達は、宇宙船の船員にそのようなことを言われても、
文句の言えない身なのだから・・・そう、そんな中、警察に見つかったら、
犯人隠匿の罪や密航の罪で自分達すら、捕まりかねないそんな状況で、宇宙
船に2人を乗せて惑星アルタスに行ってくれるだけでもありがたいことなの
だから・・・

 だが、他の一般客船と違い、ここには客席も無ければ、ときおり、見せる
女性船員の気の利いたコーヒーや機内食等のサービスも無い。2人は宇宙船
の中では、倉庫内の床に、じかに座り、ただ、目的地への到着を待つばかり
である。でも、さすがに貨物船の側も、密航を請け負った以上、目的地まで
着くまでに2人に餓死されてはならじと、2人は、1日3回の食事だけは与
えられていた。しかし、それも決していい物ではなかった。1回につき、パ
ン1個とコンソメスープ1皿だけのいたって粗末な食事である。船員達はも
っといい物を食べているのは間違いなかった。だが、そんな具合に、決して
宇宙船の中は、居心地も良くなかった。むしろ、劣悪とも言えた。しかし、
そんな中、ケインは考えていた。

 何故、銀行強盗というあんな馬鹿なことをしちまったんだろう?
 何故?
 でも、もし、あんな馬鹿なことをしなかれば、こんなことにはならなかっ
たのに・・・そして、あの時、もし、あんなに軽はずみに銀行強盗をやろう
などとしなければ、彼女もこんな思いをさせずに済んだのに・・・

 先程から床に座り、黙り込んだままのエリスを見て、彼は思った。
 今更ながらだが、悔やんでも悔やみきれない気持ちで一杯だった。

 だが、しかし、彼女も同じようなことを考えているんだろうな・・・

 そんなことを彼が考えていたときだった。エリスが話し掛けてきた。
「ねぇ、ケイン。私達、今まで銀行強盗をするまでは、いたって普通の生活
をしていたよね。でも、それが数週間経って、今では、こんな風に故郷の開
拓惑星レダから、追われるように去り、旅をしている・・・何だか夢のよう
だね。でも、今回の旅は、夢のような逃避行だからさ・・・略して、夢避行
なんちゃって・・・あ、各地を転々と飛び回って逃げているから、夢飛行な
んてのもありかな、アハハハ・・・・・」
先行きが暗過ぎる今の状態で、無理にでも笑顔を作ろうという、彼女だが・
・・その声に元気はなく、笑い声が、やけに空しく響いていた。
「あぁ、そうだな・・・・・」
そんな彼女に彼は相槌を打った。だが、彼は思う。

 今回の旅は確かに夢のような出来事だ・・・だが、これは夢ではない。ま
ぎれもない現実なのだ!
 まぎれもない目の前の直視しなくてはならない現実なのだ!!
 しかし、俺達は一体、これから何処へ行こうとしているのだろう?
 そして、果たして、どんな未来が俺達を待ちうけているというのだろうか?

 そんなこと考えていると、彼はただでさえ、現在の状況に憂鬱になってい
たのに、更に憂鬱にになって来るのだった。
 だが、そんなエリスとケイン、2人の気持ちをよそに、現在、宇宙船はた
だ目的地の惑星アルタスへ向かって突き進んでいるのだった。そんな中、エ
リスは口にこそ、出さないが、心の中でつぶやいていた。

「さらば、我が故郷(ふるさと)の開拓惑星レダ・・・もう、決して戻ること
もないだろう。そう、2度と、決して・・・」

                      SF小説「夢飛行」第2部完


  • メインメニューに戻る。