闇からの使者


長い夜、男は必死で耐えていた。それもこれも、
「何があろうと、誰が来ようと、決して、戸を開けてはいけませんぞ。」
都では知らぬ者はない高名なあの祈祷師に言われた、その言葉によるもの
だった。そして、家中に祈祷師から貰った怨霊退散のお札を張りまくった
彼の家だが、そのおかげか、中には、ここ数日、夜な夜な、彼の寝室に現
れ、彼を悩ませ続けてきたあの存在は決して、入って来ることはなかった。
が、しかし・・・ときおり、
ダン、ダン。家に何かがぶち当たる物音がしたり、
ごーごー。強風で戸を吹き飛ばそうとしたりして、
その存在は、何度も家の中への進入を試みてきた。また、ときには、
コンコンと、戸を叩く音の後、
「もしもし、長旅で疲れていますが、あいにく、今夜泊まる宿もまだ見つ
かっておりません。どうか、一夜の宿を貸して頂けないでしょうか?」
とか、
「わしじゃ。田舎から出てきたお前の母親じゃ。今夜は久しぶりにお前の
顔が見たくて、はるばるここまでやって来たんじゃが・・・積もる話もあ
る。どうか、ここを開けてくれんかの?」
誰かに成りすまし、中に入ろうとした。
だが、結界の威力がそれだけ強かったのだろう。男が戸をに開けるに際し
て、予想以上に、慎重になってたのも功を奏したかもしれない。その存在
は決して中に入ることはなかった。だが、そんなときのことだった。
「俺だ。実は奴を倒す手段が分ったんだ。だから、そのことを知らせたい
んだ。早く、ここを開けてくれないか?」
その声はまさしく、今回の件も相談もし、例の祈祷師のことも紹介してく
れてていた彼の大親友だったのだ。だから、男は彼のことを信用するから
こそ、急いで戸を開けたのだった。だが、その声の主は、非情にも、実は、
彼の親友などではなかったのだ。奴だったのだ。そして・・・
「ふはははは、騙されおったな。」
「ぎゃぁーーーーー」
信頼や信用とはかくに危うい物であろうことか・・・
魔物に襲われる男の悲鳴が空しく辺りに響いているのだった。

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