夢飛行(第16話)追憶


「たくっ、だから、あんたは甘いんだよ。」

 だが、実は、彼女自身、昔に実際に経験した2度と思い出したくもないよ
うな一連の出来事を思いだしていた。そう、それは彼女が10歳になった日
のことだった。
 彼女は惑星レダのある1都市に生まれる。父親はその街一番の規模を誇る
貿易商社を経営していた。父親が会社社長ということもあり、家は資産家で
それまで日常生活の中も、特に不自由する事は何もなかった。また、友人も
特に多い方ではなかったが、その誰とでも分け隔てなく付き合う性格は誰に
でも好かれ、文字通り、何の不自由なく過ごしていた。
 だが、そんなささやかではあるが、平和な生活も、ある出来事により、崩
壊する。父親の経営する会社が長年の経営難の末、とうとう倒産したのだ。
 そして、彼女の一家は、それ以後、債権者の追及や父親が会社を潰したこ
とへの世間の冷たい目から逃げるかのように、街の片隅でひっそり暮らすこ
とを強いられるようになる。だが、同時にその出来事は彼女の周りの人間の
彼女に対する態度を一変させたのだ。彼女が会社社長の令嬢であることから、
ちやほやしていた、彼女の父親の会社の元社員や取引先などのとりまきが会
社倒産後、手の平を返すように彼女に対する態度を一変させたのは言うまで
もない。
 だが、問題はその頃、彼女の同年齢の友人達もそろって彼女に対する態度
を一変させたことだった。
「オラオラ、お前の親父がきちんと金を返してくれりゃなぁ、俺達もこんな
に苦労はしないんだよっ!」
サラ金の取り立ての街のチンピラに、父親が会社の運営資金に借りた借金の
件で、彼女も絡まれることが少なくなかったためか、
「ねぇねぇ、あの子、お父さんが借金取りに追われているそうじゃない。や
っぱ、面倒なことに巻き込まれないためにも、あの一家には、余り近づかな
い方がいいわよね。」
近所のおばちゃんの心ないひそひそ話で、噂は街中に伝わることになる。そ
して、
「あの子とは付き合うな。」
彼女の父親の件で無用なトラブルに巻き込まれるのを心配した親達が、子供
に彼女と付き合うのをやめさせたのである。
「ごめんね、私も本当は嫌なんだけど・・・実は、親から、あなたとはもう
付き合うなって、言われたんだ。」
今まで親しかった友人の誰もが離れていった。

一体、自分が何をしたって言うの?
結局、こうだ!
普段、どんなに立派なことを言っていても、いざとなったら、誰も結局は、
自分のことしか考えちゃいないんだ!
だから、これからは自分も自分のことしか考えちゃいない、そんな自分勝手
な連中のように、たとえ、どんなことをしても、自分だけは生き抜いてやる
んだ!たとえ、どんなことをしてもね・・・

幼いながらも、彼女は自分の置かれた境遇に、そう決意したのだった。

そして、以後、彼女は生きるために、学校の受験や職場の昇進試験など、あ
らゆる場面で他人との競争社会を勝ち抜いて来た!
そう、たとえ、他人を蹴落としてでも。。。生き抜いて来た!

そんな彼女にとって、目の前のリチャードの考え方は甘過ぎる。
「あんた、甘いんだよ。表向きはどんなに、いいこと言っててもな!結局は
誰も自分のことしか考えちゃいないんだよ!そのあんたが酷いやり方でふっ
たという相手だってな!一皮むけば、何を考えているか、分らないんだぞ!」
「あぁ、だがな。それでも今回、俺は俺が彼女にあんなことをさせてしまっ
た責任をとるためにも、あいつを必ず、警察官としての自分の手で捕まえ、
そして、罪を償わせてやりたいんだよ!」
「ったく、バカね。」
彼女はそう答えた。

                          (第17話に続く)


  • メインメニューに戻る。