5.呼吸理学療法

 呼吸理学療法(呼吸訓練)は,以下のことを目的に行います.
 (1)呼吸に必要な筋力を維持する.(2)脊柱と胸郭の変形を防ぐ.
 (3)胸郭の柔軟性を維持する.(4)補助呼吸に慣れる.(5)楽に痰を出す.
 目的別に内容の説明をします.


(1)呼吸に必要な筋力を維持する
 呼吸のための筋肉としては肋骨についている肋間筋と,胸と腹を仕切っている横隔膜などがあります.これらの筋肉は病気のために萎縮するだけでなく生活が不活発になると不使用による萎縮も起こすと考えられます.したがって自力での移動が難しくなるころから積極的に呼吸訓練を行います.

 

4.ユニフロ
 呼吸訓練のために考案された器具です(図2).吸い口をくわえて息を吸うと中の玉が上がるのでそれを目安に頑張ります.理解力の低い子供にもわかりやすく,抵抗量が調節できるのでいろいろな段階の人に使えます.


(2)脊柱と胸郭の変形を防ぐ
 脊柱がひどく曲がると胸郭の形まで変形し呼吸がしにくくなります.これを予防するには装具起立訓練など小さいころからの機能訓練が大切です.機能訓練については3章2項を参照してください.


(3)胸郭の柔軟性を維持する
 呼吸のための筋力が同じでも胸郭が固くて動きが悪ければ十分に呼吸できません.胸郭の柔軟性を保つには,図3のように手で肋骨どうしを捻ったり,体幹をひねったり側屈させたりします.呼吸訓練で大きな息をして胸を広げればそれだけで胸郭の動きを保つ効果があり,さらに深呼吸をしながら両腕を上下させればより効果的です.肺活量が少なくなった人では器械による補助呼吸法で胸を膨らませます.

(4)補助呼吸に慣れる
 呼吸機能が低下してきたら,補助呼吸に慣れておきます.補助呼吸は肺活量を補う方法でこれに慣れておけば風邪をひいたときなどに助かります.深い息ができるので痰がたまるのを防ぎ,胸郭の動きを保つ効果もあります.

※舌咽呼吸
 肺活量を増やすために患者自身が行う代償的な呼吸方法です(図5).食べ物を飲み込むときに使う口,舌,喉の筋肉を使って口に貯めた空気を肺のほうに送り込みます.
10〜20回続けて空気を送り込み,まとめてはきます.上手になればかなり肺活量を増やすことができるので,咳をしたり大きな声を出したりするときに役立ちます.この呼吸法は誰でもできるようになるというわけではありませんが,他の人がしているのを見て案外簡単にできるようになる人もいますから挑戦してみると良いでしょう.


(5)楽に痰を出す
 肺活量が減少して深い大きな息ができなくなると痰が溜まりやすくなり,咳で出すのも難しくなってきます.そのため,風邪をひいたときなどは治りにくくて肺炎になってしまっ
たり,空気の通り道に痰が溜まってそこから先に空気が行かなくなったり,喉に絡んだ痰のために窒息するなど重い合併症を起こしがちです.日頃から補助呼吸などの手段で肺の隅々まで空気を送るようにして痰が溜まるのを防ぐとともに,楽に痰を出せるよう介助してあげる必要があります.
 痰を出すには体位排痰法(ドレナージ)という方法を使います(図6).これは痰が溜まっているところが上になるように姿勢を変えて,重力を利用して喉もとまで痰を移動させる方法です.痰は座っているときは下のほうや背中が後ろに弯曲しているところ,仰向けに寝ているときは背中に溜まることが多いので,横向きか少しうつ伏せに近い姿勢をとらせます.場合によっては腰のほうや頭のほうを少し持ち上げるようにします.慣れてくれば胸を触ってゼロゼロいう感じからどこに溜まっているかわかるようになります.横向きになったら背中をトントンと軽く叩いたりバイブレ−タ−を使って振動を加えたりして気管支に粘りついた痰をはがして流れやすくします.次に用手胸郭圧迫法の要領で軽く胸を押してあげます.このとき患者のほうは口を軽く開けてハ−ッと,丁度ガラスに息を吹きかけて曇らすときのように息をはきます.これを何回かくり返すと口の近くに痰が集まってきますから咳をして外へ出します.介助者は咳に合わせてぐっと胸を押して咳をするのを助けます.このようなことを右(左)横向き→仰向け→左(右)横向きというように姿勢を変えて行います.
 痰は喉が乾くと出しにくくなりますから室内の湿度を保ち,排痰するときも時々ぬるま湯でうがいをしましょう.また痰が多いときは十分な水分をとるようにしないと粘度の高い出しにくい痰になりますから気をつけます.活動的な日中に比べて夜中は呼吸が浅くて痰が溜まりやすいので,排痰は夜寝る前と朝起きたときにおこなうと効果的です.痰が多いときは日中も随時おこないます.

 

参考文献

  1. Rancho Los Amigos Hospital Physical Therapy Department:Guide for chest stretching and Breathing Re-education Techniques, 1958.
  2. 安間治和 他:頚髄損傷の理学療法,理・作・療 16:321-326 ,1982.
  3. 荻原新八郎:呼吸理学療法学.医学書院,東京,1990.

(武田純子)

   

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