あとがき

 昭和62年に「進行性筋ジストロフィー在宅療養の手引き(初版)」が刊行されてから9年の月日が経過します.初版の手引き書は,多くの患者さん,ご家族の方や患者さんを支える専門職の方々に読まれました.筋ジス研究第4班班長の岩下 宏先生とともに初版に関わった一人として,好評の声に大いに気を良くしたことを思い出します.
 筋ジストロフィーに関する研究は,この10年間に飛躍的な進歩を遂げました.いろいろな病型の原因遺伝子の局在決定や単離は,その最たるものです.呼吸不全や心不全の病態や治療,看護法の研究も進歩しました.生活指導関係の研究成果も蓄積されました.
 在宅療養を希望する患者さんもいっそう増加しました.それこそ夢物語であるとさえ言われてきた在宅人工呼吸療法が始まり,あっと言う間に100名を越えました.今や18の国立療養所の在宅人工呼吸療法が行われています.これは,在宅療養を願うハイリスクの患者を,国立療養所が長年にわたり蓄積してきたノウハウで支えてきた結果です.地理的問題に由来する実践の速さの地域差はありますが,多数の施設の努力の集合であり,討論の場になった筋ジストロフィー第4班の成果の一つであるとも言えます.他に,リハビリテーション,栄養問題を含め医療・看護に関する枚挙にいとまがありません.
 在宅患者さんの教育環境も徐々に変化してきました.建物構造や設備のハード面の変化は既に目のあたりにできますが,ソフト面の変化の兆しもあります.社会が,いろいろなハンディ・キャップをもつ人々が社会の中で生きること・ノーマライゼーションの意義を少しずつ理解してきているのです.教育や福祉の関係機関と接触し,在宅患者さんの環境整備に尽くしてきた児童指導員,保母,臨床心理士などの努力の賜物です.
 
 筋ジストロフィー研究第4班(岩下班)の3年の締めくくりとして,以上の成果を織り込み,前記「在宅療養の手引き」を全面改訂することになりました.この改訂版は,準備を始めて1年間で刊行されます.患者さんや介護する方々に読まれることを念頭において,平易に,分かり易く記述するように分担執筆者にお願いしました.大きさは初版同様,A5版です.内容については,頁数の関係上この10年間における全成果を収めるのは困難ですので,主な事項に制限せざるを得ませんでした.記述内容に関する質問,追加を希望する項目,意見などを編集責任者の私までご連絡いただけたら幸いです.
 初版よりも多く,16施設26名の方に分担執筆していただきました.執筆者相互の読み合わせが十分でなく重複していた記述の一部は,前もって了解をいただいたように,私が修正,加筆いたしました.そのため読者の方に読みづらい冊子になったとしたら,その責任は私に帰するものです.今回は原稿をフロッピーに保存し送っていただいていますので,それを生かせることもあるかも知れません.
 序文を書いていただきました岩下班長はじめ,忙しい日常業務の中,原稿を書いていただいた分担執筆者の各位に心からお礼を申し上げます.

平成8年1月22日
在宅療養・看護分科会リーダー
姜 進(国立療養所刀根山病院神経内科医長)


このホームページは
厚生省「筋ジストロフィーの療養と看護に関する臨床的,社会学的研究」班
岩下 宏班長の許可をいただき作成しました.
なおホームページ作成には安永 峰夫氏のご協力をいただきました.

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