4.準備する物品

 人工呼吸器を装着する患者が航空機旅行する際に準備しなければならない物品について説明します.

(1)電源(バッテリー)
 現在日本の主要航空三社はいずれも対応してくれます.最も経験のあるのは日本航空です.三社に共通している条件は電源を患者さんや家族の方が用意するということです.この場合さらに乾式バッテリーでなくてはなりません.これは揺れなどによるバッテリー液のこぼれに対する配慮が必要なためです.余談になりますが,電動車椅子の輸送についてもこれが問題になります.乾式バッテリーの場合はそのまま積み込み可能ですが,そうでなければバッテリーを外し指定の容器に詰め替えねばなりません.また現在バッテリー駆動の加湿器はありませんから,加湿器は使用できません.人工鼻で代用します.バッテリーをいくつ用意するかは飛行時間によりますが,日本航空の経験では成田ロサンゼルス便で3個用意した経験があるそうです.なお外国の航空会社には機内電源を使用させてくれるところもあるようですが,事前に電圧等について充分打ち合わせておく必要があります.

(2)人工呼吸器
 旅行にはポータブル型従量式人工呼吸器を使用することが大部分と思います.このタイプはいずれも内臓バッテリーを持っていますが,メーカー保証のバッテリー駆動時間は30分から1時間です.この時間は充電状態等によっても違ってきますから,内臓バッテリーはあくまで緊急用と考えるべきです.人工呼吸器の機内での使用にあたっては,電子機器ということで機種ごとに航空機会社によるテストが必要なことがあります.このテスト期間のための充分な時間的余裕をみておくべきでしょう.またこのような機器の機内積み込みについての最終権限は機長にあり,外国の航空会社の場合には会社側の了承が取れていても現場でもめることもあるようです.バッテリー使用ということが原則ですから,BIPAPタイプの一部の人工呼吸器(呼吸補助装置)は使用が不可能です.そそもそも筋ジストロフィーの在宅人工呼吸にこのような機種を使用すること自体に問題があるのですが,注意が必要です.
 呼吸器の設定条件はパルスオキシメータ等の検査値を見ながら変更するのが理想ですが,現実には困難でしょう.原則的に換気量を増やす(一回換気量を増やす,呼吸回数を増やす)方向で変更します.

(3)酸素を使う?
 呼吸器疾患の患者さん等で在宅で酸素を使っている方がいます.そのような患者さんが航空機旅行をするときには,使用する酸素を少し増やすよう指示されることがあります.では筋ジストロフィーの患者さんにも酸素を使えば良いのでしょうか.先に述べたように筋ジストロフィーの患者さんでは多くの場合,酸素が足りないと同時に二酸化炭素が溜まり過ぎているのです.このような患者さんに安易に酸素を使うことは二酸化炭素の問題にまったく目をつぶってしまうことなのです.街の高利貸から借金する(酸素をもらう)のと同様に後で痛い目にあう危険性すらあります.筋ジストロフィーの患者さんでは原則的に換気をなんとかすべきなのです.
 (多田羅勝義)

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