Minimoog 前期/後期の比較

Minimoogには数種類のバリエーションが存在します。最も初期の完全ディスクリート回路のVCOを持つR.A.MOOGロゴの最初期型、MOOG MUSONICSロゴの初期型、一般的ないわゆる前期型、ホイールなどが凸凹だが前期型基板の過渡期型、VCO基板が大きく変わったいわゆる後期型(S/N10176以降)、最後の25台の限定豪華版etc...

そんな中でも代表的な前期型&後期型を2台所有する、というキチ○イじみた(笑)状況のため、せっかくだからこれらの違いを解説してみます。

*画像に特に記述が無いものは上が前期型、下が後期型。

まずは外観!

ホイール

一番分かり易いのはモジュレーション&ピッチベンドホイールの形。前期型(の多く)は白い半透明な樹脂製で、中央の窪み以外はツルツル。同型のホイールはSONIC 6において横向きの特殊なピッチベンドホイールとしても使用されている。最初期型の一部は透明のものも存在する。

70年代後半以降に製造されたものは不透明の白い樹脂製で凹凸があり、肉抜き加工が成されている。この頃製造されたMOOG製シンセサイザーの殆どはこのホイールを共用している。80年代、MOOGの最後っ屁(?)The SOURCEは同じ金型でスモーク色の透明ホイールを使用。

個人的には後期型のホイールの方が汗ばんだ手でガシガシ操作しても滑らないので好き。尚、頓挫した再生産Minimoogは前期型タイプのホイールを採用していたが、断面がカマボコ状で触った感触は全く異なる。極端にいえばNordLeadのアルミ製ホイールの様な形。

*再生産Minimoogとオリジナルとの違いについての記述はこちらのサイトに詳しく解説されている→SYNTH FOOL!

リアパネル

ホイールだけでは前期/後期の完全な識別はできないが、リアパネルを見ればほぼ90%特定可能。写真は奥が前期型、手前が後期型。VCO基板の設計が変更され、安定度が増すとともに調整箇所も増えたのが後期型。前期型は11個のトリマー用の穴が開いているのに対して後期型は16個。オシレーターのオクターブ調整が3つのVCO毎に調整出来るようになっている(前期型はまとめて1つのトリマーで行う)。

100%でないのは、前期型でも後に後期型のボードに中身だけ交換された個体もそれなりに存在するため。

リアパネルのロゴステッカーは前期型には貼られていないものも多い。3M Scotchlite製の反射素材を使用。

リアパネル周辺・・・

少ーしマニアックな所を攻めてみる。リアパネル上部、シリアルナンバーが打刻されている場所。Moog Music Inc.の所在が時期によって異なる。我が家の前期型はN.Y.はWILLIAMSVILLE、後期型は同じくBUFFALO。Moog Music Inc.の所在地の変遷は:

Trumansburg, New York 1964〜1971
WILLIAMSUILLE, NewYork 1971〜1976
Cheektowaga, New York 1976〜1983(Buffalo)

とのこと(Thanks! おこのみ さん)。

で、中身!

VCO!!

さて、いよいよここからがキモ。リアパネルカバーを止めている18本のネジを外すと内部の基板が現れる。Minimoogの基板は主に4枚。VCO、VCFのそれぞれの基板の裏には電源、EG&コントロール系の2枚の基板が刺さっている。パネルのポッドやスイッチ類の配線は基盤ではなく気合の空中配線。

で、まずは右側に刺さっているVCO(Voltage Controlled Oscillator-オシレーター)基板。前期型はいかにも精度の悪そうなトリマー、年代物なコンデンサやカーボン抵抗、いかにも手作り基板風なパターン(ちなみに我が家の前期型は基板のみ更に古いR.A.Moog時代のものに交換されている)。後期型はより大量生産の工業製品っぽい作り。基板表面にも抵抗やコンデンサの番号等が表記されており、目的の部品が確実に分かるようになっている(当たり前か)。トリマーも高精度なものに。この見た目の違いがそのまま音に現れている気が。やはり前期型はチューニングは安定しないものの豪快な発振音を出してくれる。シリアルNo.10176以降の全てのMinimoogにはこの後期型のVCO基板が使用されている。

VCF!!

そしてMinimoogを永遠の名機たらしめているVCF(Voltage Controlled Filter-フィルター)。これは回路的には前期/後期とも全く同じもの。梯子型の-24dB/Oct.の特性を持つ典型的なローパス・フィルター。

だが、使用している部品が異なる。注意!この写真のみ上が後期型、下が前期型

前期型のコンデンサはいかにも古そうなマイラ。対して後期型はMKT?VCO以外にもVCFの部分でもサウンドに違いが聞き取れるため、この辺りの部品の違いが原因と考えられるだろう。逆に言えば70年代当時の怪しいマイラコンデンサを手に入れ、後期型のコンデンサを交換すれば前期型の荒々しいサウンドに近くなるのかも。保証は出来ないし、その後の結果にも一切責任は持てませんが。

・・・てなわけで、以上がMinimoogの一般的なバリエーション2種類の主な違い。で、よく訊かれる質問が「どっちが良いの?」。どっちも良い!前期型は一言で言うならワイルド、後期型はやや手懐けられてオケに合わせやすくなった洗練されたサウンド。とはいっても両者の違いは微々たるものであり、どちらも極太ベース&リードマシンとしては並ぶものの無い名機である、と。

あ、あと我が家の前期型はチューニング安定化改造が施されているが(上記写真撮影時点では未改造)、それでもチューニングが安定するまでに少なくとも5〜10分の暖機を要する。後期型はこの点に関しても非常に優秀で、電源投入直後から全てのVCOのチューニングはほぼ完璧。

追記

書くのを忘れていた。前期型の一部のロットには波形切り替えスイッチが異なるモデルも存在する。写真ではMOOG MUSONICS時代のMINIMOOGにその仕様が確認されるが、我が家の前期型もそのタイプ。左の写真を参照。下が一般的なMinimoogの波形/レンジ切り替えスイッチ。


NEW! 2001.7.15 R.A.MOOGのロゴを持つ非常にレアな個体に遭遇。

R.A.MOOG:ロバート・A・モーグ博士が最初に興した会社の名前。モジュラーシンセ等を主に製作しており、Minimoogの開発→製造に着手するが150台程を生産した後にMUSONICS社と合併。ロゴプレートも「MOOG MUSONICS」に変更されたため(これは430台程度→以降はMOOG MUSIC INC.に)このロゴプレートを付けた個体は非常に珍しい。

背面パネルの表記もTrumansburg。

ホイールの位置も奥まっており(もちろん透明)、DECAY/GLIDEスイッチも違う。本来は赤いモメンタリボタンだったがこの個体ではトグルスイッチに変更されている。

シリアルNo.は10154。後の個体のように刻印ではなく、手書きのシールが外部電源ソケット横に貼られている。ACケーブルはソケットの左側から生えている。

オシレーターボードは新しい(といってもR.A.MOOGロゴの)基板に換装されていた。我が家の前期型と同じ基板だが(トリマー周辺の穴/パターンが通常の前期型オシレーターボードと若干異なる)、背面パネルは新規に穴を開け直している。やはり最初期の完全ディスクリート基板はもう残っていないのだろうか。情報求む。