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(200101)

ダンサー・イン・ザ・ダーク
監督・脚本 ラース・フォン・トリアー
出演 ビョーク/カトリーヌ・ドヌーヴ/デビット・モース他

 「日経エンタテイメント!」によると前評判がよくて(ビョークのサントラの曲などが要因)試写会に業界人が詰めかけて、見終わった後にマイクを向けてみると、あまり仔細な説明がされなかったとか。そりゃそうだろうなあ。あの展開と結末では。
 ミュージカル映画にしては、台詞と台詞の間が非常に多い。ビョークが誰かの問いに答えたり、誰かに話しかけたりするときの「溜め」の部分が長い。それが2時間半もの長時間映画になっているんだろうが。
 空想と現実、嘘と真実、本音と建て前など、表裏一体となっている事項が、華々しいミュージカル(加えてビョークの絶大的な歌唱力と存在感)の舞台設計を支えている。
 ところで思うのは、この映画の時代は現代じゃないんでしょう。その割にBGMが打ち込みを多用した90年代以降の音楽だったので、そのへんがギャップと言えばギャップだったか。(2001/01/08)

(200102)

ベニスで恋して
監督 シルヴィオ・ソルディーニ
出演 リーチャ・マリエッタ ブルーノ・ガンツ ジュゼッペ・バッティストン マリーナ・マッシローニ

 広告で使われる写真には主演の女優と男優のふたりが微笑みながら向かい合っている写真が掲載されているので、このふたりの不倫関係が話の骨頂なのかと勝手に想像して、いざスクリーンから流れてくるストーリーをなぞってみたら、不倫よりも、登場人物のそれぞれに投影されている人生の機微だけが、エンディング後に残った。
 そもそも主役の主婦が遠い昔にアコーディオンをやったことがあって、すねに傷持つ男は歌手をめざしていた。そして舞台はイタリアなので当然ながらシャンソン。シャンソンが出る映画はたいてい人生哲学をキーにしているから。
 哀愁あふれるコメディであるから、一部の人物は、当然誇張されたものもあり、そのへんを突っつき出したらこの映画を楽しめない。出会いと別離による、それぞれ(主演のふたり以外を含めて)の顔の雲行きが、観る人それぞれに何かを与えてくれる。
 それにしても、ブルーノ・ガンツは「ベルリン天使の詩」でドイツ語をしゃべっていたけど、今度はイタリア語ですか。いったい何カ国語しゃべれるんだろう。(2001/02/02)
(200106)

東京マリーゴールド
監督 市川 準
出演 田中麗奈 小澤征悦 斉藤陽一郎 樹木希林 寺尾聰

 暖色の虚構が数珠繋ぎにつながっている。ひとつひとつの風景が暖かいために、クリスマスが計二回も出てくるのに、さっぱりクリスマスらしくない。コンパの風景も「これがコンパというものだ」というテレビのドキュメンタリーをなぞったように見えるし――そうなのだ、どうも絵柄が映画と言うよりもテレビくさい。主人公の女の子の先輩がテレビCMに勤めているという縁で、自分も女優として駆り出されて、撮影をしている――これがまるっきり「なっちゃん」の撮影風景みたいだし。樹林が母親役として顔を出したところは、これから何の製品のCMをやるんだろうと錯覚してしまった。
 原作を読んでいないので何とも言えないが、実はもっとどろどろしたストーリーなのではないかと推測する。「これではカップルで観るにはつらい」と商品価値としての判断から生々しい部分をカットしているのではないかと。「期間限定の恋」なのだから。この映画で人間味ある、言い換えれば生臭い部分は、田中麗奈がくやし涙ぽろりで相手をなじるところと、田中麗奈に部屋から去られて、さらにエンディングで真相が露呈(あえて内容は書きません)した時の男の情けなさぐらいだった。(2001/06/03)

完全なる飼育 愛の40日
監督 西山洋市
出演 深海理絵 緋田康人 竹中直人

 すでにいくつかのグラビアで水着を見て「この人いーなー」と思って、今週発売の雑誌で今日の舞台挨拶を知って、勢いで観に行きました。
「脱いでいる」という前情報があったので、ほんの数分ぐらいだろうと思っていたら、濃い水色のブラとショーツ姿にしてさらに脱がすだの、裸の上からワイシャツ着させたり、盥の中で背中を流したりとサービスカットの山。深海さんは肩が張っているのでおっぱいもかたちよく揺れていました。以上。
――って終わってどうする。
 女子高生を誘拐して監禁する。そして暮らしていくうちに愛が芽生える――という流れて狂気とサイレント、暴力と表裏一体の愛、というフレーズのみで身構えていたのですが、実際はちょっとちがった。
 緋田氏が女子高生を誘拐する時の演技で、あまりに滑舌がいいので、狂気を演じる人としてはどうかと思ったのですが、「天涯孤独の予備校教師」という設定だとするとこれでいいのかな。
 女性に縁がない、ということがよくわかるのは、誘拐した女子高生に対して、脅しの言葉と共に、過剰なるまでの優しい言葉をかけている。いらんことまで言わんでいいのに、ということまで喋ってしまう。相手の気持ちを汲み取ろうとしているくせに肝心なところは何も見ていない、という不器用さを緋田氏がうまく出していた。この映画の裏テーマは「過剰なる優しさ」ではないかと。
 深海さんはモノローグで棒読みっぽいのだが、恐怖に立ちすくんでいる女子という見方をすればこれでいいのかな。誘拐した男に愛情を持つところは、盥の上で洗われているという同じシーンでも目つきに変化が出ていていい。(2001/06/23)

ミリオンダラー・ホテル
監督 ヴィム・ヴェンダース
出演 ジェレミー・デイヴィス ミラ・ジョヴォヴィッチ メル・ギブソン ジミー・スミツ ピター・ストーメア アマンダ・プラマー グロリア・スチュアート バッド・コート ジュリアン・サンズ ドナル・ローグ ハリス・ユーソン トム・ボウアー ティム・ロス

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』という映画はアメリカをかなり偏見入り交じった視点で描いていたので、一部のアメリカ人には人気がないという。それもそのはずで、移民に対する差別的な仕打ち、主人公に対する冤罪の部分など、アメリカ人にとっておもしろないエピソードが堆く積まれている。
 この作品もまた、ヴィム・ヴェンダースという一ドイツ人が描いたアメリカの闇を描いている、ように見える。主人公がミリオンダラー・ホテルの屋上から飛び降りて、地上に降りるまでに述懐されるエピソード、それも貧民が一度だけ夢見た憧れの花舞台という設定には、華々しさに憧れる人々の闇がうごめいている。(それもまた、なぜか役者の大半がニューヨーク出身であるところも何かの皮肉か)
 ただ、単なるアメリカ告発ではなく、主人公トムトムが最後に「人生って素晴らしい」(モー娘。のあの曲で歌わないように。念のため)と言っているのは、生と死の揺らめきが、「ザ・ミリオンダラーホテル・バンド」(ボノとブライアン・イーノを中心としたこの映画のためのバンド)が奏でる混じりけのない音で、ヴェンダースお得意の揺らぐカメラワークに合わせている。
 個人的に好きなのはピター・ストーメア演じるディキシーという人物(パンフレット見たら『ダンサー・イン・ザ・ダーク』にも出てたんですねえ)。長髪で髭で丸眼鏡をかけてギターを弾く――ジョン・レノンを模倣している。自分を五人目のビートルズメンバーだと信じて疑わない男。これが声から喋り方から歌い方までレノンそっくり。レノンもアメリカ生まれではなく、自由の国アメリカを信じてやってきた人間として有名であったのをヴェンダースが採用したということか。(最後のクレジットで「Special Thanks to」の中にオノヨーコの名前があった)
 サントラ、後で買おう。(2001/06/24)

(200111)

まぶだち
監督・脚本 古厩智之
出演 沖津和 高橋亮輔 中島裕太 光石健 矢代朝子 清水幹生

 長野県の中学校では、生活記録と題して、日々の行動の一部始終と、自分がどう感じたかを余すところなく書き留めて提出する義務を強いられている。飯山市のある中学校でも、仁村テツヤ、野村周二がいるクラスの男子は四苦八苦。テツヤや周二のクラスメート、じゃなくて、まぶだちの神津サダトモはそんな彼らに一計を授ける。書くことがなければ嘘を書けばいい。まるっきりの嘘ではばれる。だから、いかにも本当らしい嘘をつくことだと諭す。周二は感心して、いつもそんなサダトモに一目置いているが、テツヤはそんなサダトモが鬱陶しくもあり、反面、尊敬もしていた。そんな嘘は担任の小林先生にはとっくにバレていたのだが……。
 サダトモは生活記録の他に、万引きの手ほどきまで、テツヤや周二や他のクラスメートに仕込んでいた。それはひょんなことから発覚して――。

 徹底して嘘をつきまくるサダトモと、「お前らは未熟なんだから、未熟であることを認めろ。いいかっこするな。自分や他人から肯定されるような自分であれ」と徹底して言い含める小林。
 大人の世界ではどっちも存在する。というよりどっちの意見が正しいのだ、とも言い難い。どっちが正しい、とはっきり言える人がどれだけいるのだろう。長野県教育委員会は少なくとも、小林のような意義を持って、生活記録なるものを実行しているのだろうが。
 前作『この窓は君のもの』から六年、空白の時期の経て完成されたこの作品は重い。前作のように突き抜けていない。抜けが悪い、というのではなく、中学校を卒業してずっと遠く離れて、振り払おうとして、抱えたり引きずっていたりしたものの正体の尻尾が見え隠れしているような映画だからだ。「自分の人生でいちばんかっこ悪い時期」と語った監督。かっこ悪さから逃げるな、という小林の言葉は、監督自身にも、映画を観る人すべてにも投げかけているようで。(2001/11/24)

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