▼ポール・オースター『偶然の音楽』(柴田元幸訳/新潮文庫)
この小説は、言い切りの文章が少ない。
「ナッシュは悲しかった」「ポッツィは落ち込んだ」「マークスは冷静になった」「ティファニーは嬉しがった」というような言い切りの文を、山場において多用されていたらこの小説の魅力は半減するだろうが。
作者が主人公ナッシュに託した、車で移動していくイメージは、そのまま悲しみや憎しみや怒りや虚しさをすべて抱え込んで進んでいく。そして二者択一の分岐点に立っても、読者がページをある程度結果を予想できるような、暗示の文学。その暗示は最後の最後まで、ナッシュと悲しみを共有した者を捕らえて離さない。(2002/01/21)
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