▼ボブ・グリーン『DUTY――我が父、そして原爆を落とした男の物語』(山本光伸訳/光文社)
ボブ・グリーンの父親が死の床についていた頃、彼は一人の男との接触に成功した。ポール・ティベッツ八十三歳。エノラ・ゲイという戦闘機に乗ったかつての軍人。特命を受けて、1945年8月6日の広島上空へ飛んだこともある――。
やがて迎えた父親の死。彼の父親もまた軍人だった。ティベッツは彼の父親と一度も出会うことはなかったが、インタビューを受ける最中に、彼の父親に興味を持ったようだ。ボブ・グリーンもまた、今まで考えてもみなかった父親自身に隠れていた信条に惹かれ、またティベッツの語るアメリカ軍人としての人生について、対比しながら考えていく――。
「暴力とヌードと卑猥な言葉がなければもっとましな国になった」と語るティベッツ、「現代アメリカの若者たちより当時の日本の軍人たちに共感できそうな気がする」と語るティベッツ、「戦争当時の日本の体制に対しては敵意があっても一般の日本人に敵意などない、よって私もトヨタ車を買う」と語るティベッツ。
ビジネスやスポーツの比喩の中にしばしば「戦争」に関する単語が用いられることに激しい嫌悪感を抱き、「戦争によって勝ち取った自由というものが存在することを、この国(アメリカ)の若者たちは知らない」と嘆く。
ティベッツは真っ当な軍人であり、老いを重ねて戦争時代を賛美することもない。自分の信条に反するものを批判し、静かに死ぬことだけを願っている。
こうやってティベッツの言葉ひとつひとつを拾っていくと、それだけで名言集になってしまいますが、その言葉の断片だけで何かを評したり、演説のネタにするのもまた危険な気がします。ひとりの軍人が生きた内容の、それ以上でも以下でもないのだから。安易に「戦争」や「原爆」の事実を語り、悲しみを共有したように思いこみ、わかったような気になる以前に読んでおきたい本です。(2002/03/08)
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