滝本竜彦『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』(角川書店)
 地方の高校の寮で独り暮らしをしている高校二年生、山本陽介は、深夜営業のスーパーから高級霜降り和牛二キログラムを万引きした帰りに、女子高生野崎理絵と出会う。理絵が正体不明のチェーンソー男と対決している姿を見て、「俺も仲間に入れて」と陽介は強引に頼み込んで仲間に入ってしまう。
 音楽や小説や美術など、芸術分野にあれこれ手を出しては「俺には才能がある」と吹聴する万引き仲間の渡辺。夭折して思い出の中にしか生きていないけど、大切な親友能登。退屈な高校生活でも、陽介にはいつだって仲間がいる、そして理絵も――。
 理絵がなぜチェーンソー男と戦っているのか、そして凶暴なチェーンソー男と互角に対抗できるだけの体力・技量・超能力がなぜ備わっているのか、文中で明確な説明はされない。理絵の「あたしにもうまく説明できない」という一言で終わってしまう。「朝、起きたら毒虫になっていた」のカフカ『変身』の設定と同じ。
 それでも文体や設定の乱暴さをうまく包み込んでしまうくらいの激しさがあるので、展開が支離滅裂でも引き込まれてしまう。装幀がアニメ絵でなかったら、まったく純粋な青春小説として売り出せたかも知れない。
 文中で「お前が本当に何を考えているかわからない」と、家庭訪問で陽介の担任、加藤が嘆くシーンがある。正攻方で躾られることへの苛立ちを、叱られる側からの気まずい思惟が見事に描かれている。(寮のお姉さんが陽介の無断外出を見つけて、自分が彼をどう叱ったらいいかわからず、戸惑い、照れている様がかわいい。理絵との掛け合いよりも生き生きしていた)(2002/03/09)
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