▼バリー・ユアグロー『一人の男が飛行機から飛び降りる』(柴田元幸訳/新潮社)
このタイトルが冒頭に出てくる短編は、
「一人の男が飛行機から飛び降りる、さめざめと涙を流しながら、男は靴箱いっぱいのラブレターを、風が吹き荒れる空中に投げ捨てる。手紙たちはさっと舞い上がり、ふんわりふくらんだ雲の底にへばりつく。男はそれを見て、悲しげなうめき声をもらす。が、じきまた落下の混沌が彼を飲み込んでしまう……」(スープの骨)
そのひとつ手前の短編は、
「一人の娘が転んで、首の骨を折る。娘の霊を来世今で送り届けるべく派遣された天使が、彼女に恋してしまう。しかるべき処理を行なう代わりに、天上の誓いを破って、天使は娘を生き返らせてしまう。恋のとりこになった彼は、娘と駆け落ちする。」(ホンキー・トンク)
そのひとつ後の短編は、
「私は一人の女の子と一緒にベッドにいる。あたりは暗いけれど、女の子の顔に不思議な形のでこぼこがたくさんあるのが私にはわかる。私たちはいちゃいちゃやり出す。と、何かしら甘い、ものすごくいい香りが私の鼻を刺す。私はそろそろと、でこぼこの一つに舌を伸ばす。でこぼこをくわえて、もぞもぞと噛む。舌がとろけそうだ。私は無我夢中でもぐもぐむしゃむしゃ食べる。「やめなさい!」と女の子は叫んで私をつき飛ばし、がばっと身を起こす。「やっぱりそうね」と女の子は言う。「あなたは私のイチゴが目当てなのよ」(イチゴ)
意味がわかりますか。いや、意味を追い求めてはいけません。誰かの夢の中の出来事だと思って柴田元幸の訳を楽しみましょう。
149本の短編の大半は「父」「母」「彼女」が出てきます。心理学者なんかがこの小説をテキストにしそうで。(2002/04/02)
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