生徒諸君に寄せる


        この四ケ年が
       わたくしにどんなに楽しがったか
       わたくしは毎日を
       鳥のやうに教室でうたってくらした
       誓って云ふが
       わたくしはこの仕事で
       疲れをおぼえたことはない
  諸君よ紺いろの地平線が膨らみ高まるときに
  諸君はその中に没することを欲するか
  じつに諸君はその地平に於る
  あらゆる形の山嶽でなければならぬ
  諸君はこの颯爽たる
  諸君の未来圏から吹いて来る
  透明な清潔な風を感じないのか
 
  それは一つの送られた光線であり
  決せられた南の風である
  諸君はその時代に強ひられ率ゐられて
  奴隷のやうに忍従することを欲するか
  むしろ諸君よ更にあらたな正しい時代をつくれ
  宙宇は絶えずわれらに依って変化する
  潮汐や風
  あらゆる自然の値からを用ひ尽くすことから一足進んで  
  諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ
 
  新らしい時代のコペルニクスよ
  余りに重苦しい重力の法則から
  この銀河系統を解き放て
  新たな時代のマルクスよ
  これらの盲目な衝動から動く世界を
  素晴しく美しい構成に変へよ 

  新らしい時代のダーウンよ
  更に東洋風静観のキャレンヂャーに載って
  銀河系空間の外にも至って
  更にも透明に深くて正しい地史と
  増訂された生物学をわれらに示せ
  衝動のようにさへ行なわれる
  すべての農業労働を
  冷たく透明な解析によって
  その藍色の影をいっしょに
  舞踏の範囲に高めよ 

  新たな詩人よ
  雲から光から嵐から
  新たな透明なエネルギーを得て
  人と地球にとるべき形を暗示せよ
 
      
    


宮澤賢治の授業風景