ちょーぼや
なんて薬が有ったら、私は一人で大儲けです。でも、そんな物は現実には存在しないというのは、皆さんご想像の通り。「んなもんあるわけねぇだろぉ!」と、思うのですが、外来にかかると、突然その事を忘れてしまうのですね。まるで、「元本保証、年利40%以上!」なんて話に騙されて投資してしまうみたいに・・・。
でもね、本当なんですよ。たとえば、風邪薬。処方したその日に「効かないんですけどぉ。」なんて電話がかかってくる始末。わたしゃ言います「風邪薬は初めから効かないものなんです。」そうです。こんな物は単なる対症療法。風邪が本当に治っている訳でなくて、風邪の症状を押さえ込んでいるだけ。だから、大抵は風邪薬は出しません。なんせ、米国医師会の風邪に対する標準療法は、「市販の風邪薬をのんでうがいして寝てろ。」ですから。
不妊症の治療もそうですね。時々、治療を始めればすぐ妊娠するもんだと思ってる方がいる。よりによって、「来年の春には出産予定にしてるんですけどぉ!」って、赤ちゃんはおもちゃじゃないんだから、期限どおりに納品は出来ませんやね。治療を始めてすぐ妊娠するなら苦労はイラねぇや。それに、婦人科も商売になんなくなっちゃうし。
マスコミの影響なんでしょうかね。皆、医者にかかればすぐ病気が治る秘策があるに違いないと思っているようです。まぁ、医者の源なんて、本当は、祈祷師だったわけですから。皆が奇跡が起こるに違いないと、期待を寄せるのも、仕方の無い事かもしれません。
大体、ペニシリンが実用化されたとき、負傷した兵隊にペニシリンを使って、今まで助からなかった負傷者が次々に回復するのを見て「現代医療の奇跡だ!」などと思い込んだのが運の尽き。次から次へと開発される新薬に大きな期待が寄せられるけれども、副作用は出るは、値段は高いは、耐性菌は出るは、あげくの果てには効果が無いは。魑魅魍魎、奇奇怪怪、阿鼻叫喚の地獄絵図。結局は、奇跡の医療なんて絵に描いたもちなんですよ。でも、今の絵は良くできてるからネェ。まるでトリックアートのように本物と見まがうばかりのもちがたくさん。みんな、医師会や厚生労働省やマスコミに踊らされて、絵に描いたもちを食べようと必死にあがいています。それは医者も患者も同じ事。絵に描いたもちを食べろと薦める者あれば、食べようとキャンパスに食いつく者あり。奇跡などそう簡単に起こるはずありません。いつも起っていたらそりゃ奇跡じゃありませんって。
それにつけてもだがしかし、病気なんて原因の分からないものがほとんど。癌の原因を発見したらニュートリノより確実にノーベル賞もらえます。不妊症も、高脂血症も、高血圧も、糖尿病も、生理痛でさえも本当の原因は分かっていないのです。なぜなら、人体が、あまりにもいろいろな要素が絡み合った多変数関数になっているため。絡んだ糸をほぐすのに、一方の糸を引っ張ると、それに絡んだもう一方の糸が締められて抜けなくなってしまうのと同じ。これをほぐすためにあれをほぐして、それをほぐすためにさらにあっちをほぐしてなんてやっているうちに、なんだか分からなくなってしまう。そのうえ、糸なんて単純な物じゃなくて、エンザイムだとかインターロイキンだとかイムノグロブリンだとかプロスタグランジンだとか、訳のわからないものが次から次へと出てくる。これじゃァ、幾ら調べても結論は出ないよなぁ。
その中の、ごくごく単純にわかる物だけが効果のある治療として世に出ているというわけ。一番単純なのは、細菌感染を抗生剤で治療するという方法。これも、耐性菌の出現によって、単純な治療ではなくなってしまった。ある病院での話。癌末期の患者さん。どうしても、感染症が治らない。主治医はとても悩んでいた。ペニシリンもセフェムもアミノグリコシドもマクロライドもテトラサイクリンもホスホマイシンもアンフォテリシンも全部使った!でも、次から次へ出てくる菌が変わって、どうしても治らない!!そして、主治医は一大決心をした。全ての抗生剤を止めたのだ。しばらくして、菌は出なくなった。
癌の末期の、もう、あと何ヶ月かの命であっても、人間の体は自分で自分を守る事を怠っていなかったのです。免疫の力に勝さる抗生剤は無し。人間の体の能力に比べたら、どんな薬も奇跡ではありえません。まず、体が治る。治療は、それを前提に行われている事を忘れてはいけません。人間の体が自分で治る事ができないのなら、手術の傷でさえふさがる事は無いのです。(誰です、それならジッパーでもつけて開け閉め自在にしとけばいいじゃん。などと考えているのは!でも、ジッパーつけるならYKKにしてね。)そして、人間の自己治癒力こそ奇跡の治療といえるのかもしれません。