こういうのを回文というんだそうです。イヤイヤ、怪文書ではありませぬ。薬、を逆から読むと、リスク。まさに、薬は副作用というリスクと隣り合わせで効いているのだと言う事です。その薬を間違えて処方すれば、そりゃぁ、大変な事になりまさぁね。ましてや、筋弛緩剤を普通の点滴に混入してしまったりすればネェ。それに、ちょっとした名前の間違えで、そりゃぁ、大変な事になってしまうわけです。皆さんも、薬のリスクを理解して、飲んでみて調子悪かったり、いつもと違う薬だったりしたら、必ず、医者に問い合わせてください。でも、いつも薬をきちんとのまない人でも、間違えた薬に限って何故かきちんとのんでしまったりするのだな。そんなもんだ。
アスビゾン、アナバン、イリナトロン、シーコレン、ソレルモン、ドセル、ブレシン、ボルマゲン、ポルフェナック、サフラック、ヨウフェナック、ボルタレン。さて、ここに書いてあるのは、何種類の薬でしょうか?答えは、一種類です。み〜んな同じくすり。子供のインフルエンザに使うと、脳炎を起こすのではないかといわれている解熱鎮痛剤、ジクロフェナクナトリウムの事です。おいおい、いろんな名前付けてくれるのはいいけど、全部関連性がないじゃないの。俺は記憶力悪いんだから、なんか規則性をつけてくれよぉ!と、思うことしばしばです。
最近、医療ミスのニュースで投薬ミスも大きく取り上げられています。もちろん、点滴に牛乳入れるなんていうのは問題外ですが、サクシゾン(副腎皮質ホルモン)をサクシン(筋弛緩剤)と間違えるというのは、案外ありそうなことです。もちろん、サクシンを一般の病棟で使うということはほとんどありませんから(北陵クリニック以外は)これをわざわざ点滴に入れるというのもおかしな事ですし、ましてや、サクシンといえば筋弛緩剤であり、危険な薬であるという事くらいの知識がなくて看護婦をやっているというのもびっくりものではあります。
しかし、この手の話しはいくらでも転がっています。産科でよく使うのが、ウテメリン(切迫流早産治療薬)とメテナリン(子宮収縮剤)。これが、正反対の作用を持つくせに、よおく間違えるのです。私も、二回失敗した事があります(幸いな事に問題は起こりませんでした)。それ以来、十分注意していましたが、自分が間違えなく処方箋を書いていても、処方のときに間違えられたりしました。また、ウテメリンと書いて処方箋を出したら、ウインタミン(向精神薬)を処方されて、その患者さんから、なんか変だと相談を受けて、ウイントマイロン(キノロン系抗菌剤)を出されていたのだと勘違いしてしまった。などという笑えない話もあります。
結構、よく使う薬で、処方箋書いてから、おっと、あぶねぇあぶねぇ。って事あります。たとえば、アモリン(ペニシリン系抗生剤)とアモバン(睡眠導入剤)とか、ソラナックス(抗不安剤)とソランタール(消炎鎮痛剤)とかね。いっそがしい時に、慌てて書くと、いつも書きなれているほうを書いてしまう。剤形が全然違うとか(錠剤と軟膏とか)、似たような種類の薬であれば助かるのですが、ときに、まったく違う作用の薬で剤形も同じで、しかも、一方が劇薬だったりすると、これは大変です。シャレにならん。新聞の記事になる。
どぉして、薬の名前とか、似た名前多いのかなぁ!プリプリ!と思って、薬屋さんに聞いてみると、たいした理由でつけてはいないんですね。比較的多いのが、一般名を利用してつける場合(サリチル酸メチル=サロメチール、アモキシリン=アモリン等)。効能を、名前であらわす場合(睡眠のリズムを取り戻すからリスミー、スプレー式の点鼻薬で治すからスプレキュア)。それから、まったく関係ない名前のもの(その他大勢)まで、ぜんぜん深い理由なんてない!そのうえ、後発品(所謂ゾロ薬。開発の特許が切れた後に、まったく同じ製品をもっと安く作る)などは、名前の付け方も、無茶苦茶な事が多い(ジクロフェナクナトリウムを見て下さい!)(ただし、ゾロ薬自体が悪いわけではない。同じ効能の薬を安く提供できるのは良い事だ!!)そのうえ、日本はグローバルスタンダードからはずれた、効能のはっきりしない薬が多いといわれている。一体、記憶力が悪い上に、最近若年性アルツハイマーが加わっている私はどぉしたらいいのだ?(実は、レバ刺しを食べ過ぎてクロイツフェルトヤコブ(いわゆる、狂牛病)にかかってたりして。シャレにならんな。)
院内処方にしている内科などから、薬を処方されている患者さんが来院されると一苦労です。まず、処方した薬について、調べなくてはいけない。たいてい、後発品を使っているので、調べてみれば「なぁんだ、いつも使ってるやつジャン」というような薬でも、聞いた事ない名前がついているので、調べるのが、結構大変なのです。院外処方なら、たいていは、薬剤についての説明を渡してくれるので、苦労は半減するわけですが。それにしても、自分の飲んでいる薬を理解していない患者さんが多い!半分は、説明しない医者の責任ですが、半分は医者に任せっきりの患者さんの責任でもあります。「何か、お薬のんでますか?」「はぁ、内科でもらってますけど。」「どんなお薬でしょう?_」「さぁ、よく覚えてません。たしか、白いカプセルと細長い錠剤だったような気が…。」「何の薬と言われましたか?」「胃薬みたいなものだといわれたと思います。」外来をやっていると、こんな事がしょっちゅうです。「しょうがないじゃない、患者さんは素人なんだから覚えてられないわよ!!」と、言うご意見もございますが、それなら、残った薬や薬の入っていた包装など、手がかりになるもの何でもいいから、もって来て下さい。でも、本当は、緊急でなくて他の科にかかるときには、いつもかかっている病院に行って、今のんでいる薬について書いてください。と頼んでこられると、とてもよいのです。なんせ、薬が分からなくてヤバイ事になるのは、結局、患者さん自身のなのですから。これも、ひとつの自己防衛です。病院によっては、お薬の手帳と言うのをくれるところがあります。そう言ったものを、活用して下さい。
ソリブジンと言う薬、ちょっと前に死亡例まで出て、大騒ぎになりました。帯状疱疹という皮膚科の病気に使うのですが、これを、ある種の抗がん剤と一緒に内服すると死んでしまう事があるのです。たかが、飲み薬なのに死ぬはずは無いだろうなんて、ちと、油断のし過ぎです。そのとき、問題になったのが、抗がん剤は、本人に癌の告知をしていなければ、抗がん剤と言っていない可能性が高いと言う事です。つまり、胃がんの患者さんに投与するなら、胃薬ですと言うし、卵巣癌の患者さんに投与するなら、卵巣の腫れをとる薬です。なんて事を言って渡しているわけです。で、その患者さんが、皮膚科に行って、ソリブジンをもらうと、皮膚科の医者には、「抗がん剤なんて飲んでません。」と言う事になる。したがって、ソリブジンが投与され、命を失った方がいたわけです。これには、色々な問題が重なっていますが、(ソリブジンの治験段階で死亡例があることを隠していたとか…)おそらく、患者さんが、こういう薬ですといって、その薬を皮膚科の医者の前に出したら、命を失う方はもっと少なかったのではないかと思われます。
本当なら、薬の名前を統一して、分かりやすくするべきですし、名前によって、大体同じ系統の薬だな。というのが分かるような仕組みになっていると、もっと薬の誤投薬がなくなるのではないかと思うのです。今でも、そういう類の薬も有って、例えば、**シリンとついていれば、大抵はペニシリン系の抗生剤ですし、**カインというのは、麻酔剤の事が多いのです。また、後発薬は、先発薬の名前をもじっている事があります(スプレキュアの後発品でブセレキュア、オキナゾールの後発品でオキコナール)。ところが、そう思って油断していると、先ほどの、サクシンとサクシゾンのような事もあるわけです。
もっと、薬の名前に規則性をもたせて、ある程度、名前からどういう系統の薬かが分かるようにする事は、最近良くある医療事故を無くす事に十分貢献すると思うのですが、いかがでしょう?そして、そう言ったことを啓蒙すれば、患者さん自身も、何か間違えがあったときに気が付くはずですし、また、薬にアレルギーが起こった時に、その事を覚えていやすくなるでしょう。それに、諸外国では、認知されていないような、効果の不明な薬もこの際ぜぇんぶ洗い出して、きちんとケリつけたほうがいいんではないですかね。とくに、私のように、ハエ程度の記憶力しか(どういう記憶力だかはさだかでない)ないような人にとっては、とてもうれしい事であります。なんせ、外来で、「いつものあの薬、えーっと、なんだっけ?アで始まる奴。」なんて言ってると、看護婦さんが「何わけのわかんない事言ってるんですか!アズノールの事でしょぉ?」とか教えてくれて、ようやく解決と言う事がしばしば…。あ、そうだ、隣の大学病院に、物忘れ外来と言うのがあったなぁ。行って見ようかな、って。大丈夫かぁ?
それと、これは、本当に自分の身を守るためですから、注意して下さい。とにかく、薬をのんで、何か異常を感じたら、無理して続けないで、すぐに病院に問い合わせる事!!もしかすると、その薬が合わないかもしれないし、もしかすると、間違えて処方されたかもしれない。例え、10000人が何も問題なくのめたとしても、貴女にだけは合わない薬かもしれないのですから、用心に越した事は無いのです。薬はいつもリスクと隣り合わせで効果が出ると言う事を肝に銘じておいて下さい。そして、懐疑的になる事はありませんけれども、十分に注意をして、薬とうまく付き合ってください。そして、もうひとつ、出された薬の名前を覚えて置いてください。できれば、「医者からもらった薬が分かる本」等で確認するとよいと思います。なにせ、薬は貴女の命を助ける事もありますけれど、うっかりすれば、命を奪う毒薬にもなり得るのですから。