葛根湯医者 葛根湯医者ぁ? 葛根湯は、現代でも感冒の薬としてポピュラーな漢方薬です。古くは、消炎、解熱効果のある便利な薬として、様々な炎症性疾患の治療に使われていました。 ところで、葛根湯医者とはなんでしょう? 1.葛根湯のようになんでも治してしまう名医。 2.どんな疾患にも葛根湯を処方してごまかしてしまうヤブ医者。 3.いつも葛根湯を服用して仕事をしている不養生な医者。 さぁて、どれも正しいように思えますが・・・。 現代の葛根湯とは? ひるがえって、現代の葛根湯とは何か考えて見ますと、やはりペニシリンの発見以来数々の感染症を克服してきた、『抗生剤』があげられるでしょう。 怪我をすれば抗生剤。腹が痛けりゃ抗生剤。熱が出れば抗生剤。しまいには何だかわからないので抗生剤。と言った具合に、病院でもらう薬のなかに抗生剤が入ってないことは珍しいくらいです。 しかし、抗生剤は本当に何にでも効く万能薬なんでしょうか?答えは当然「否」です。確かに、細菌感染にはよく効きますが、ウイルスには効きません。また、それぞれの抗生剤はどの菌に効き目があるのか決まっているのです。 抗生剤の副作用! しかも、抗生剤には副作用があります。ペニシリンアレルギーはよく知られている副作用のひとつです。アレルギーとはいえ、程度によっては命を失うことになりかねません。そのような事を避けるために、注射の抗生剤を使うとき、種類によっては皮内テストを行う必要があります。 その他にも肝臓の機能を悪くしたり、白血球を減少させたり、腎臓の機能を悪くしたりする可能性があります。また、腸内の善玉の細菌も殺してしまい、ひどい下痢を起こしたり、胃の粘膜を傷害して、吐き気や嘔吐、胃痛など起こすことも少なくありません。 あなおそろしや耐性菌 抗生剤には、細菌の細胞の発育を阻害する作用があります。この性質をうまく使えば、薬になるけれども、間違えた使い方をすると、人間の体の細胞まで傷害してしまうということなのです。 そんな薬を手軽に使っていると、時には大変な副作用が、起きることがあります。それは、耐性菌の出現です。今、問題になっているMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、さまざまな抗生剤にさらされ、ついに抗生剤に殺されない力を持ってしまった菌です。 これらの菌は、免疫力の強い健康な人にはそれほど影響しませんが、新生児や、老人、手術後、抗癌剤を使用中の人、重傷な疾患で体力の衰えた人を狙ってとりつくのです。 終わりなき戦い 耐性菌はMRSAに限りません。ストレプトマイシン耐性結核菌なども、今大騒ぎのもととなっています。 それらの菌は弱った人々を狙ってくるので治療も大変になります。場合によっては、命を失うことになりかねません。 細菌だって自分が生き延びるために抗生剤に殺されているばかりにはいかないのです。それをまた人間が新たな抗生剤を使って成敗し、新たな耐性菌が出現し、新たな抗生剤を作り・・・。いつまでたっても終わりのない戦いなのです。 最後に勝つのは人間なのでしょうか、それとも細菌なのでしょうか? 抗生剤だーいすき そんな、怖い副作用がある抗生剤を無闇に使いたがるのは何故でしょう? 一つに抗生剤が高価であることです。抗生剤は、他の一般的な薬剤に比べて、数倍から数十倍の値段がします。したがって、薬価差益(所謂、仕入れ価格と売値の差)で儲けが多くなるのです。(現在では保険法の改正で薬価差益は少なくなってきました。) さらに、開発費が高額なので製薬会社もあの手この手で使わせようとします。(新薬の説明会には特上寿司や、うな重が出るのです。貧乏な研修医は感動してしまうワケだ。) そして、これが最も大きな理由かもしれませんが、もし、抗生剤を使っておかなかったために感染がひどくなったらどうしようと言う心配からです。例えば風邪をひいたとき、本来ならウイルス感染であるから抗生剤は無用であるはずなのに、細菌感染でも起こして、肺炎になったらどうしよう。と、考えて、抗生剤を投与する様な場合です。 さらに、患者さんが、抗生剤は万能薬と、勘違いして、医師に処方を頼むような場合もあります。 抗生剤医者とは いずれにせよ、抗生剤は優秀な薬であると同時に、重大な副作用をもたらす毒薬ともなりうるのです。薬は両刃の剣であり、扱いを間違えれば自らが傷つくのです。 故に、このような薬を用いるには、慎重にならなくてはいけません。もちろん、薬を出してもらうほうも安易に要求するべきではないでしょう。(ときどき風邪薬の中に抗生剤が入っていないと、クレームをつける患者さんもおられます。) ところで、最初の問題の葛根湯医者とはなんなのでしょうか? 答えは2番のどんな病気にも葛根湯を出してごまかすヤブ医者のことでした。 そして、現代の葛根湯医者とは、抗生剤をむやみに出してしまう抗生剤医者なのです。しかし、葛根湯と抗生剤のもたらす副作用の大きさを比べれば、どちらの罪が大きいかは明白です。 賢い患者にならなけりゃ。 さあ、抗生剤医者にむやみに抗生剤を出されないためにどうしたら良いでしょう。 なかなか、難しい問題です。なぜなら、抗生剤を出し慣れている医師は抗生剤を出さないと感染症が起こるのではないかという脅迫観念に囚われているからです。そういう先生達は、私達の体に免疫の能力があることなんてすっかり忘れてしまっているのです。 ちなみに、昔、私の勤めていた市立病院では、明らかな感染症がない限り抗生剤を使わない病院でした。大きな検査の後や、手術の後など普通の病院ならば必ず抗生剤を出すような場面でも、抗生剤を使わせてもらえませんでした。しかし、そのために感染症がひどくなってしまうという事はまったく無かったのです。 結局は、抗生剤をのまなくては人は感染症にかかってしまうという妙な偏見に凝り固まってしまっている医師が多いのでしょう。その原因は、開発費を取り戻そうという製薬会社の教育によるものが大きいと思うんですけどねぇ。ま、深いことは追及しますまい。 ところで、そう言う偏見に完全に囚われている医者が多いので、なかなか抗生剤の魔の手から逃れることはできないのです。 やはり、賢い患者としては、信頼できるかかりつけ医を作っておくに限るでしょう。そして、患者の要求に対して、はいはいと二つ返事で薬を出すような医者は、抗生剤医者可能性がおおきいと疑ってみてください。少なくとも、抗生剤を処方するということを言ってくれて、何故必要なのか説明してくれる位でないと信用できません。 そして、多少厳しいことを言っても、きちんと医学的な適応を持って処方してくれる医者が本当に信用できる医者であるということをわすれてはいけません。 賢い患者になるには、ご機嫌とりのやさしい医者よりも、厳しいことを言っても正しい判断をしてくれる医者を選ぶことが大切なのです。 お帰りは