天網恢恢。疎而不失。
 

 

 

 

 

 

 

 


 自然の規則は、大まかではあるけれども、取りこぼしが無いという事である。人間の浅はかな知識で判断して善悪を決めてみても、「天の悪むところ、孰れかその故を知らん。」天が悪いとする事を誰も知ることはできない。「天の道は争わずして善く勝ち、言わずして善く応じ、招かずして自ずから来り、然として善く謀る。」天の行う仕業は争わずして勝ち、何も言わなくて相手から応答し、招かなくても向こうからやってくる。ゆったりとしているが、自然と秩序が生じる。それに比べて、人為の浅はかな事。目の前の事象に振り回され、右往左往して、結局は、失敗ばかりしている。まったく、かたわら痛いわ。カッカッカ。

 

 なんて威張っている暇じゃないんですけど…。とにかく、最近、外来をやっていると、皆さん現代の医療に対してだいぶ誤解されているなと思うわけです。現代医療といえば、現代科学の粋を集めているわけで、特に、医薬品などは化学の頂点といっても過言ではありますまい。でも、化学の粋を集めて作られた薬でも、風邪さえも治せない。最近、インフルエンザの薬出ましたけど、よぉくレポートを読んでみると、発熱期間が1〜2日短縮したといった程度。なぁんだそりゃぁ?そんなののんだって意味ねぇジャン。確かに、お年よりなどで、体力を温存したいならそうですけど、別にそんなのに高いお金出してもねぇ。ちなみに、最近発表された米国内科学会の治療指針。風邪に対しては、「市販薬と生理食塩水によるうがい」というのが治療だそうで。抗生剤は役立たずです。そうそう、もう、日本だって、それほどがむしゃらに働かなきゃいけない時期は過ぎたんだから。風邪ひいたら、2〜3日ゆっくり休んで、しっかり治そうよ。それが一番なんですよ。化学の力なんて、体の自然の力には遠く及ばないんですから。

 

 最近は、働いている女性も多いわけで。妊娠しても仕事を続けることもしばしば。妊娠中に無理すれば、そりゃぁ、お腹張ったり、出血したりしますわね。「仕事が忙しくて休んでられないんです。」でもね、お腹の赤ちゃんにとっては、仕事なんてぜんぜんかんけーなし。あたりまえですよ。一人の人間として娑婆に出てくるために、必至で育っているわけですから。仕事いっしょうけんめいして流産したって、会社が責任とってくれるわけじゃないんですよ。どっちが大切かよぉく考えて欲しいものです。それでも仕事をとるなら、まだ、妊娠するのは早いんじゃないの?と、思うんですがねぇ。で、そういう人が必ず言うのが、「何とか薬で治らないでしょうか?」はっきり言って、治りません。母親の自然の力というのが、どれほどの能力があるかというのは言わずもがな。薬なんて、10ある治療のうちの2か3くらいにしかなりません。あたりまえでしょ。母親の力より、薬の力がすばらしいなんてことがあるはずが無い。バファリンの半分はぬくもりでできているのです。ってコマーシャルありましたけど、薬なんてそんなもんです。

 

 最近の人はホント困ったもんだなぁ。ちょっと薬をのめば一発で病気が治ると思っている。それは、宝くじにあたって家計の起死回生を願うのと同じ事。テレビや週刊誌で、こんな治療で治っただなんて取材もありますが、あんなのは、ヤフージャパンの株を買って大もうけしたと言う話と同じ程度の事だと思っていただければよろしいでしょう。一攫千金なんて、そうそううまくいきませんやね。そういえば、薬をのむという事はどういうことだか少しはお分かりになるでしょう?つまり、体が治るのを少しだけ手助けするというものなのですよ。漢方の考え方で、上薬・中薬・下薬というのがあります。上薬とは毒性が少なく長くのんで命をやしなう薬。下薬は病気を直接治してくれるけれども、副作用も強い薬です。多くの薬は、漢方でいえば下薬。うっかりすれば、治りもしないのに副作用ばかり出る下の下薬というべきものもあります。

 

 よくいる困った人は、勝手に人からもらった薬や、昔もらった薬をのんでしまう人。ちょっと待って下さいな。薬は、症状に対してのむのではなくて、その、原因に対してのむものです。だから、下手に薬をのまれてしまうと、症状だけが弱くなって、診断がつかなくなってしまう。医療関係の仕事をしている人に、このタイプ、結構多いんです。とりあえず症状が治まったので、大丈夫だと思っていたけど、薬やめたらまたひどくなったので来ました。なんて、来院したときには、何がなにやら?薬で症状が抑えられているので、典型的な症状は無いし、それでいて病状は進んでいるので今まで診たことないような状況になっている。しかも、検査をしてもはっきりと結果が出ない。なんだそりゃ?と、言っているうちに、だんだん症状がはっきりしてきて、おお!そうだったのか!と、いうわけで初めて治療にかかれるという訳です。

 

そうそう、健康診断なんて言って、大雑把な血液検査といいかげんなレントゲンととりあえずの心電図なんてやって、貴女は健康ですなんてやってるけど、あれも、かなり怪しい。異常だと言われて再検査してもほとんどが問題無しです。それどころか、高脂血症などと大騒ぎして、大量の薬を処方される事がありますが、最近の調査では、高脂血漿と診断された人の方が癌の死亡率が低いという事も言われています。高脂血漿は動脈硬化のもとだなんて言いますけど、低すぎるとそれもいけないという事らしい。人間、年取ったら、コレステロールが上がるようにできているという事でしょうか?ちなみに、現代人は高コレステロール血漿を心配しますが、低コレステロールというのも重症な病気のひとつです。何せ、体の中のホルモンの殆どがコレステロールからできていますから、ホルモン失調を来たす。これが、ひどい症状をおこすということ(らしい)です。(何せ、そんな症状、飽食の日本で見たことないから、らしいとしか言えない。)そういえば、アメリカで、やせている人より少し太った人の方が健康で長生きするという発表が、数年前にありました。案外私は長生きかも…。まぁ、人生長ければ恥も多しとも言いますけどねぇ。

 

 人間の体というのは、皆さんが思っている以上にうまくできていて、薬なんかのまなくても上手に調節してくれています。風邪の症状なんか、典型的なものです。風邪の症状には、一つ一つ意味があります。熱が出るのは、免疫力を高めるためであり、ウイルスの増殖を抑えるためです。鼻水が出るのは、鼻の粘膜を洗い流すため。それに、鼻水の中にはIgAという、大切な免疫物質が含まれます。咳が出るのは、気管にある痰を外に出すため。喉が腫れるのは、ウイルスがそれ以上体の中に進むのを抑えるためです。つまり、体がウイルスに対抗して一生懸命働いているのが、風邪の症状なのです。なのに、人間は目の前の事象にとらわれて、風邪薬を安易にのみます。そうすると、ウイルスを抑えようとして起こっている諸症状が抑えられてしまうわけです。強盗がやってきた時に、強盗に立ち向かわないで、目をつぶって耳をふさいで無抵抗でいたらどうなりますか?親切な強盗なら見逃してくれるかもしれませんが、最近の強盗はねぇ、悪質なの多いですから。強盗に立ち向かわないように手足を縛っちゃうというのが風邪薬の正体です。そりゃぁ、手足縛って猿轡しとけば静かでいいわな。でも、どうなるかは想像するまでもないですよね。そういうわけで、アメリカの診断基準は「市販薬と生理食塩水によるうがい。」と、なったわけです。あとは、体が何とかしてくれますので。おまえは黙って寝とれ。という事です。

 

 ねぇ。医者なんてやっていると、本当に天網恢恢。疎而不失。という事をつくづく感じます。結局、俺が治しているわけでは無い。体が治っているのだ。と、ね。じゃぁ、一体何してるんだ?まぁ、ちょっとこうすると、治るまでの間楽ですよ。というコンサルトをしているといった程度でしょうか?たいしたことはしていないんですよ。いや、ホント。私がヤブだからというわけではなくてね。良くいえば、天の道を示しているというわけでしょうが、それほどかっこいい事しているわけでもない。ただ、本当に、街角に立って、道を聞かれたら、「あっちです。」と、指差しているのと変わりない。そんな事なんです。ね、だから、医者を先生なんて呼ばなくてもいいんです。その代り、自分で治る事を努力していただかないと。自分の体は、最後には自分で面倒を見なきゃどうにもならないのですから。

 

天網恢恢。そういえば背中もカイカイなどと、とってもくだらない事を考えつつHOMEへ。