まぁ、私が今、勤めている病院は、ビックリするほど人気のある病院です。一日、百二十から百五十人、多いときには百七十人くらいの外来患者さんと、月に八十から九十件のお産があります。この辺の、個人産婦人科としては一番でしょう。でも、なぜ、一番なのか?私には、(もちろん、前任の先生方にも)理解できません。それならば、なぜ、理解できないのでしょう?それを、書いてみたいと思います。

 もう、この病院の、インチキな事はずいぶん書き連ねてきました。それは、必要も無い治療を勧める事だったり、やってもいない検査をやったように見せかけたり、はたまた、必要な薬に、必要も無い薬を合わせて処方したり、一歩間違えれば犯罪行為の事を(と、言うか、すでに犯罪行為であるのだが、見つかっていないというだけの事だ。)平然とやってのけているのです。

 なんてとこまでは、多くの病院でやっていることでしょう(多数の人間がやっているからと言って、悪い事は悪いのだ。)これまでの事を読んだ方のなかには、おお!これは俺の病院のことだ!とか、ああ、あの病院のことだ!やめておいてよかった。なんて思っている方も、少なくないに違いありません。(少なくないなんてモンじゃない。多くいらっしゃるかもしれません。と言うほうが適切かもしれない。)ま、それだけ、病院と言うのは専門性が高く、他の人は口を挟めないので、腐りきっているという事です。(でも、腐りきっているのは本当は医療だけではない。)

 そんな総論的な事は、この際どうでも良いわけで…。この病院のモットーは「心をこめて」みたいな事を掲げているわけなんですが、どう考えても、心がこもっているわきゃ無い。患者さんは表しか見ていないから、分からないでしょうけど、な〜に、エエカッコシィの院長が金(借金)にもの言わせて、誤魔化しているだけなのですよ。という事を言いたいわけです

 唐突ですが、雑誌の取材記事って、どうしてあんなに、美言麗言ばかりなのでしょうね。まるで、結婚式の時、仲人が新郎新婦の紹介をしているがごときです。どんなに、誉める所が無くても、必ず誉める。その技術には感服するばかりです。いわく、厳しい社員研修があり、入社後数ヶ月は各部署をまわって、全ての仕事を経験させられます。いわく、接待法も徹底して教育されており、接待のプロを招いて講習を受けさせます。一流の設計士にデザインさせた室内は、まるでホテルのよう。マタニティーのための、スイミングプールやスタジオも完備、等々。けっ!なんのコマーシャルなんだ、これは!ホテルの宣伝かァ?

 患者さんが入ってくると、まず、ナチュラルウッドと石で作ったちょっとホテル風の待合室。有線でオルゴールの音楽が流れている。奥には花屋と、マタニティショップが。中庭には、噴水がジョボジョボと音を立てて噴き出している。向こう側の壁には意味も無いオブジェが二つ三つこれでもか!と言った雰囲気をかもし出している。吹き抜けから覗くのは、二階のナースステーション。さえない顔つきで、私がふらふらと歩いているのを見る事ができるだろう。なかなか、美形ぞろいの受付嬢たち。院長に会いたいことを告げると、「はい!院長先生はただいまいらっしゃいませんので、ちょっとお待ちくださいっ!。」って、元気がいいのは良いけど、なんかまちがってねぇーか、おねーさん?それって、厳しい研修で習った事?

 そんなのは序の口なんですよ。まったくねぇ。今の若いモンは…。イヤイヤ、まだ、そんなのは若い受付嬢のちょっとした失敗だから、笑って済ませられる事なんです。でもね、その奥には、秘密のお会計所があって、例の不正請求を、院長の言いつけ通り間違い無く行なっているかどうかチェックしてるんですよ。ホ・ホ・ホ。

 でも、私が一番イライラするのは、診察室の喧騒です。そりゃァもう、うるさいったらアりゃしない。普通、産婦人科はプライベートを優先するため、たいていはしきりがしっかりしていて、声が聞こえにくいようになっているでしょう。でも、この病院は違う。仕切り板は180センチくらいのところまでしかなくて、上は素通り。診察室の入り口はドアもカーテンも無い。中廊下からは、患者さんと話しをしている姿が丸見え。なんじゃこりゃぁ!その上、待合室のドアが開け放してあって、待合室の放送の音ががんがん入ってくる。さらに、患者さんを呼ぶときに、看護婦がマイクを使って思いっきり叫ぶので、うるさいったらアりゃしない。マイクに向ってしゃべってんだから、そんなにデカイ声出さなくて良いだろうが!そのうえ、電話が、診察室の机にしか置いていないので、患者さんからの電話を、そこで取っている。周りがうるさいので、おのずと電話に答える声も大声になる。診察室から、「検体出まーす」などと、検査技師にでかい声で呼びかける。おいおい、牛丼屋の一万円札と違うんだから、でかい声で叫ぶな!!内診室では、「ハイ、下着を脱いで台の上に足を乗せてください.」なんて説明している。ばか!そういうことは、ちっちゃい声で説明せんか!向こうの診察室からは、胎児心音が、これでもかと言うほどボリュームを上げて聞こえてくる。隣の部屋から、逆子を治すつぼだとか言って、千年灸の匂いが漂ってくる。中待合室の子供が泣き叫ぶ。待合室を走り回る子供のはしゃぎごえ!ええぃ、ここは遊園地か!いいかげんにしろぃ。ウルセー!ホンっと、イライラするとこだなぁ。この、うるささだけでも、充分にストレスになって肩が凝る。

 なに、デリカシーが無いのはそういう事ばかりではありません。たとえば、カーテン一枚でしきられたベッドの上に妊婦さんを寝かせておきながら、その横で、中絶後の注意事項を説明させるのです。おいおい。そりゃァ、デリカシー無いだろう。でも、看護婦に「そういうデリカシーの無い事しないでくれ」と言ったら、ふくれてやがった。それで、ちゃんと厳しい研修受けてきたのかァ?なんか間違ってないか?

 でも、院長は全然平気。なんせ、中絶の吸引の音が外来中に響いていても、なんの対策も講じないような人ですから。デリカシーなんて、かけらも無い。

 患者さまのためなんていっておきながら、反面、超音波を使うときの潤滑にオリーブオイルを使っています。(いまどきそんな病院見た事無い。)最近では、水溶性のゼリーが出ていて、使い勝手が良いので、大抵の病院が、それを使っているのです。でも、毎日使うもので、高いから、オイルを使っているのだそうで…。オイルを使うと、洋服についたときにしみになって取りにくいのを知っていながら、オイルを使い続けるこの図々しさ。まったく、頭が下がる思いです。それを見たって、患者さんのことなんかぜ〜んぜん考えてないですよね。要するに、よく見える所や、金を取れる所だけ、格好つけているわけで、本当に必要な事はなにもしていない。でも、患者さんは気がつかないんですよ。見た目だけに目を奪われて、クラクラしているのでしょうね。

 一流設計士のデザインしたと言うインテリアも、大したこたァ無い。ちょっと見れば、安っぽいラブホテル程度の作りだという事が分かります。こんなの見て、「まるで一流ホテルみたいだ」なんてアンケートに書いてあると、「ほんとに、一流ホテルに泊まったことアンの?」と、疑ってしまう。と、いうほど、安っぽいのです。でも、安い材料で、よく、ここまで演出したなぁ。それだけは立派なことであります。

 以前、製薬会社の社員の奥さんが入院して、アンケートに、こんな事書いてました。「主人が、処方されている薬を見て、ここで出しているのはゾロ(二番煎じ)の薬ではない。立派な病院だ。といってました。」それは、はっきり言って間違え。わたしが、この病院に来たとき、見た事も聞いた事も無い、下手すりゃ、小さい薬の本には名前さえ載っていないような薬を多用しているのに、ビックリしました。しかも、それらを、抱き込みでつかっている。その、患者さんの旦那さんは、偶然、ゾロでも正規の物でも利益率の変わらないような薬を使っているのを見ていたのでしょうね。

 でも、ゾロだからと言って、悪い薬と言うわけでは無いのですぜ。かえって、前薬ののみにくさを改善したり、投与回数を減らしたり、ちょっとした工夫もされていたりする。だから、便利なので、ゾロ薬を使うという事もあります。また、ゾロ薬の方がいつのまにか沢山使われるようになって、有名になってしまったものもあります。

 ゾロの薬を使っているかどうかより、大した意味の無い薬を抱き込みで処方したりするほうが、問題が大きいのです。ほら、抱き込み販売と言えば、ファイナルファンタジーかなんかで、ソフトの抱き込み販売して問題になったことありますし、マイクロソフトでも、近い事やって、訴えられてたではないですか。立派な犯罪行為です。そのうえ、それが、副作用をおこすかもしれない薬であるとすると…。

 まぁ、そんなこんだで、何が一番嫌かって、「患者さんの為に心をこめて尽くしましょう。」みたいな事をスローガンにしているくせに、実際には、金にならない検査はしなかったり、いらない薬を処方してみたり、必要の無い治療を続けてみたり、何か起こると金で解決してしまったり(ある意味で言えば、患者さんのためとも言えるかもしれない。)、近所の病院とのコミュニケーションをとろうとしなかったり、実際の所はひとつも心を尽くしているわけじゃなくて、全て、金の為にうまくやっているというところなのです。そんなのは、一般企業では常識なのかもしれませんけれど、それならそうと言ってくれれば少しは納得できるのですが、口からでまかせで誤魔化そうとするところが、本当にむかつきます。

 例えば、「この検査は必要無いかもしれないけれど、保険では請求できるので、一応やっておいてください。」と、言われれば、まぁ、しゃァないかとも思いますけど、「必要な検査ですからやってください。」といわれても、どの医者がみたって必要無いんだよ。そんなもん。うそつくんじゃぁねぇ。と、思ってしまうわけです。それとも、わかんないと思って、馬鹿にしてるわけ?ど〜せわたしゃ私立医大卒ですよ。国立卒から見ればそりゃァ、馬鹿でしょうよぉ。って、それはひがみか?

 んー、こうなってくると、人の好みの問題になるかもしれないですが、とにかく口先だけで人をごまかしてやろうと言う、馬鹿にした魂胆がみえみえで頭に来ます。そういう魂胆が、実は、日常診療のあちこちに現れているはずなのに、まったく気がつかない患者さん達にも不信感を持たざるを得ません。自分が、患者なら、少なくとも、こう言う話しの仕方や、こういう説明しかできないような医者なら、即座に換えてしまうでしょう。何が、そんなに信頼を得ているポイントなのか、私にはまったく理解できません。

 なにせ、院長の外来にずっとかかっている患者さんが私の外来に(間違えて)かかってしまうと、大変な事になります。検査や、治療について、ほとんど聞いてないし、ましてや、薬の副作用なんてまったく話してもいない。よく、これで、薬剤情報提供料(7点)なんて、せしめているもんだ。

 例えば、いろいろ話しをしているうちに、検査の説明になって「結局、この検査は妊娠をしたいという方だけが受けるような検査なんですよ。妊娠は希望されてますか?」と、質問したら「エエ、院長は妊娠させたがってるようです。」と、言われて、ビックリしてしまいました。ええ!子供作るのに、院長が作れと言ったから作るんだと?ふざけているんだか、甘ったれているんだか?私には、そういう患者さんを診察する事はできません。なぜなら、診察と言うのは、本人が、治療したいという意思があって、始めて成り立つと思うからです(意識障害の場合や、精神科、小児科のばあいは別)。インフォームド・コンセントだって、詳しい説明の後、それを納得した患者さんが、どうするかを決めるという事でしょう。本人に、自分がどうしたいかという意思が無ければ、インフォームド・コンセントだって成り立たないわけです。そういう事で、癌告知の問題が出てきているわけです。いい大人が、院長がそうしろと言ったから、子供作るんですと言うのはなんとも背筋が寒くなる思いです。それにも増して、そういう患者さんに対して、きちんとした説明もしないまま検査や治療を行なって、金をせしめている院長と言うのは、言語道断だと思うのです。

 それに、必要も無い処置や、薬を出している。時には、強力なステロイド軟膏を、何ヶ月も、ステロイドとも知らせずに使いつづけているような事もあります。時々、処置に必要性がないと言う事を説明したり、必要の無い薬を、やめたりすると、ほとんどの院長の患者さんは、あの先生は院長という事が違う。と言ってクレームが出るようです。インチキやってるのは院長だぞ!勝手にしてくれ。

 必要のある薬や、処置についても、説明を聞いてないだの、副作用はどうなんだだの、と言って、後で私のところに文句をつけてくる人もいる。イヤイヤ、それは、きちんと院長に聞いてくださいね。なにせ、あの人、いつもどう言う説明しているんだかわかんないんだから。

 そんな事を考えると、そう言えば、似たような医者がいました。私の大学の教授。教授の患者さんを受持ちにさせられた(受持ちとは名目上。実際は、教授が全てを行なう。私のような下賎のものが口出しなんかしたら大変。クワバラ・クワバラ。)のですが、その患者さん、(不幸な事に)手術を教授に頼んでいた。で、教授が、術前の説明を個人的に(教授室で、二人きりで)行なって、術前の検査もぜ〜んぶ教授の指示のもと行なわれました。手術を行なうと、(ぜんぜん、難しい状態でもないはずなのに)1リットル近く出血して、輸血を行なう事になってしまいました。私は、(おいおい、こんな手術で、輸血なんてカンベンだよぉ。)と、思っていたわけです。そしたら、案の定、患者さんが、怒りましたね。曰く、「教授は、自分にまかせとけば大丈夫だ。と言っていた。輸血の事なんて、一言も言ってなかった。どういうことなんだ!!」どういうことなんだって言われても、悪いけど、教授の手術が、あまりうまく行かなかったんで、輸血する事になっちゃったんだよぉ。大丈夫って言ったのは、私じゃなくて、教授。そんな事は、教授に直接言ってくれェ。と、言う事で、無理矢理教授を引っ張り出してきて、話しをさせましたけどね。自分で、大見得切ったんだから、最後まで自分で責任とってくれないと困るよぉ。(どうせ、患者さんから、たんまり手術料いただいてんだろうからさ。私には全然回ってこないよ!)

 とにかく、都合のいい事ばかり言って誤魔化してしまうような医者にはご用心です。薬には副作用が、手術には合併症が、必ずあるものなのです。よぉっく、そこの所まで聞いてください。言わないようなら、どんなに人がよさそうでも、どんなにやさしそうでも、その医者はやめたほうが無難です。その医者は、知らないか、経験した事無いかのどちらかですから。そういう、自分の無知さを優しさで隠している医者って結構多いので御注意です。まぁ、セールスなんかでもそうですけれど、うまい事言ってつけいってくる人って、たいてい、売ってしまうと、アフターサービスなんてぜ〜んぜんしてくれないものですよ。そんなもんですって。

 とにかく、あの病院は偽善のかたまりです。あんな病院の偽善に早く気がついて、皆さんが早く病院を替えられることを、望んでいます。でも、本当の名前を挙げることはできません。ああ、あれか、と思ったら、よおっく考え直してみてください。エエ!どの病院も、どうせ偽善だらけなんだから、きれいな病院で、何かあったらすぐに金出してくれる方が良いだろうって?んー、それも一理ありますねぇ。そっかァ、だから患者さん多いのかァ。ふぅん。納得、納得。チャン、チャン。

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