字ばっかで読むのが大変です。すみませ〜ん。でも、読んでね。(^^;

その1・お産の幻想

 §1・会陰切開のないお産

 私の、今、勤めている病院は、所謂今風の産婦人科で、ホテル並みの施設と料理とサービスを売り物にしています。個人病院としては、このあたりで一、ニを争うほどお産が多い病院です。しかしながら、その医療レベルには疑問点も多く、周りの医師からはあまり評価されていないと言うのが現状でしょう。そのような病院ですから、患者さんから人気を得るためには、例え医学的に疑問があるにせよ、素人受けするような、様々な独自の治療方針をもっています。例えば、分娩時に会陰切開をしないと言うのも売り物のひとつとしています。しかし、しばらく病院に勤めていると、何故、会陰切開をしないのか、大変に疑問に思うに至るのです。

 そもそも、会陰切開というのは、何故行われるのでしょうか?なにも、医者が切った貼ったが好きだから行うわけではありません。きちんとした理由があります。第一に赤ちゃんが狭い膣の出口で引っかかって出にくくなるのを防いで、なるべく早く出やすくしてあげるためです。第二に、自然に膣壁や皮膚が裂けると、どこがどのように裂けるか分からないので、最初から安全な場所に傷を入れておくのです。第三に、裂けてしまった傷は、刃物で切った傷よりダメージが大きく治りにくいので、出来るだけダメージが少ないきれいな傷を入れて治りやすくするのです。つまり、お母さんと赤ちゃんの安全のために会陰切開を施すのです。

 会陰切開を行うと安全で、しかも治りが早いなら、何故、皆が会陰切開を忌み嫌うのでしょう?ひとつには、会陰切開をしたあと、縫合するのが痛いと言う事を、多くのお母さんたちが吹聴しているからです。「お産より、縫うときの方が痛いわよ。」と言うのは、よく、産後のお母さんたちから聞く言葉です。その言葉を聞くと、お産の経験のない人は、(きっと会陰切開をすると縫った時いたいんだわ。)と思ってしまうのです。しかし、会陰切開でなくて自然に切れたって、縫う時の痛みは同じです。かえって、会陰裂傷(自然に出来た傷)の方が、範囲が広くて縫うのに時間がかかることが多いのです。

 でも、そんなこと知っているのは産婦人科の医者くらいなものです。お産も二回三回になれば、自然に切れても、傷が小さい事が多いし、切れない人も多いので、結局は、比べようがないではないですか。しかも、大学病院や、大学の関連病院なんかでお産をした人は、研修医や、新米助産婦の練習台になってしまうわけで、それだけ痛かったり、必要のない切開を入れられたりと、つらい思いをする事が多いのです。ということで、多くの人は、お産のあと痛い思いをしなくてはならないのは、会陰切開を入れたからいけないのだと、偏見を持っているわけです。なに、結局は切開をいれようがいれまいが、縫うときには縫わなくてはいけないのだから、ならば、最初からきれいに切ってあった方がいいんですけどねぇ。

 しかも、私の勤めている病院では会陰切開をしないというのが売り物ですから、まるで、会陰切開は悪い事のように皆が思っているのです。母親学級のときの説明は、「当院では基本的に会陰切開はしません。もし、自然に切れてしまったら縫う事もあります。」と言うようにしているようです。これを聞いて、きっと妊婦さんの多くは、(もしかすると、切れなくてお産が出来るかもしれない)などと思い込んでしまうのわけです。

 でも、これははっきり言って幻想です。生物学的に見て、人間というのは他の動物に比べて異常に頭が大きいので、基本的には膣口が傷つかずに赤ちゃんが出ると言うのは難しいのです。会陰切開を行わなかった昔は、産後しばらく足を縛って動かさないようにしていたそうです。それでも、裂傷のひどい人は、外陰が治ったときには瘢痕だらけだったようです。せっかく技術が発達して、お産をしても、出来るだけ外陰部に傷が残らないように出来るのに、それを拒否するのは何故でしょう。しかも、ほとんど費用はかからず、痛みだって、裂傷を縫うよりは本当は少ないはずなのにです。

 実際に、初産で裂傷がなく生まれる人は一割以下だと思います。ほとんどが、裂傷になって、しかも、2箇所以上に傷が出来て、痛い思いをして縫われてしまうわけです。いつも、縫いながら、(切開をいれれば、もっときれいに短時間で縫えるのになぁ。)と思います。

 もっとも、院長は、平気でいいかげんに縫うので短時間にすむようですが…。退院診察のとき見ると、糸がはずれてベロベロになっている事が多いのです。だけど、一ヶ月もすると普通に治ってくるのが不思議です。人間は強い。特に女性は。でも、女房なら絶対にあの院長にだけは縫って欲しくないヨなぁと思う次第です。ま、知らぬが仏か。

 そう言ったわけで、会陰切開をしないお産は楽である。とか、会陰切開をすると縫わなくてはならないので、産後痛い。とかというのは全くの偏見です。そういって、自分の病院を売り込もうとするような輩はうそつきだと思ってよいでしょう。もっとも、本当に会陰切開をしなかったのが良かったのかどうかと言うのは、比べようがないことですから、どうしょうもないんですけどね。私に言わせれば、だからこそ、こう言う病院が平気で大手を振っていられるのだと思いますけど…。もし、一人の人が同じお産を他の病院と比べる事が出来たら、この病院は起訴が毎月五十件くらいはあるでしょう。と、思うんですけど。まぁ、医療と言うのはそう言う面が多いので成り立っていると言う所はあるんですけどね。でも、私には解せないなぁ…。

 

§2・いきまないお産

 また、私の勤めている病院の話しです。ここは、ラマーズ法お産を進めていくのですが、なぜかいきんではいけないのです。何故、そんな事を言い出したのかはよく分からないのですが、とにかく、お産のとき妊婦さんはいきみたいのをがまんしてお産をするのです。確かに、いきまないお産というとなんだか新しくて自然でかっこ良いように思えますが、そうなんでしょうか?

 でも、考えてみてください。人が、痛いのをガマンするときどうしますか?確かに、息を吐いて力を抜くと言うのもひとつの手かもしれません。しかし、ほとんどの場合は息を止めて腹に力を入れてがまんしませんか?大体、陣痛が来ると、いきみたくなるというのはいきむ事も赤ちゃんを出す力(娩出力)のうちに入っているからです。よく、いきむと、息が出来ないから赤ちゃんに酸素が行かない。なんて、分かったような事を言う人がいますが、それはウソ。子宮が収縮した時点で、もう、赤ちゃんへの酸素の供給はかなり落ちているのです。だから、いきまないようにしていたとしても、酸素を赤ちゃんにあげられるわけではありません。でも、成熟した赤ちゃんはそんな事にも耐えられる能力が十分あるわけです。赤ちゃんがもう出たいのなら、あらゆる力で赤ちゃんを早く出してあげる事がお母さんの務めではないのでしょうか。それなのに、息を吐いていきまないで〜。なんて悠長な事してる間に赤ちゃんもお母さんも疲れきってしまうわけです。

 実際、この病院では、分娩までの時間が長くて、最後にはお母さんが疲れて、子宮も収縮しにくくなって、お産が進まなくなるということがとても多いのです。それでなくても、もうすぐ生まれそうで生まれないという時間が長くて、お母さんと赤ちゃんはとても苦しい時間が、普通の病院でのお産と比べて長いと言うのに…。

 よく、こんな病院でお産するなぁ。マゾヒストなんじゃねぇ〜の?と私は思ってしまうのです。もし自分が女性で、お産をするとしたら、この病院より、きちんといきませてくれて、早くお産させてくれる病院の方がいいと思います。私は、マゾではありませんから。

 そう言うわけで、いきまないお産なんていうのも、聞いた感じはかっこよく聞こえますけど、ろくな事はないのです。それも、幻想に過ぎません。そんな、姑息な手段に頼っても結局はお産が楽になるなどと言う事はないのです。もっとも有効な方法は、お産から逃げずに、お産をよく知って、立ち向かう事です。つまりそれがラマーズ原法の精神です。

 まったく、ウソつき医者は言葉巧みに患者さんをだまして、自分の病院でお産をさせようとしますので要注意です。なんだか、よく聞こえる事ほどいんちきなことが多い!!「お産が楽になりますよ。」何てこと言うような病院は、避けた方が無難です。きっと、その病院は、医療レベルが低い分を甘い言葉で補おうとしているのですから。

 もう一度思い出してください。老子の言葉を「美言不信(美言は信ならず。)」孔子で言うのなら「巧言麗色少なし仁。」と言う所でしょうか。医者だって人をだます時には、やさしくて甘い言葉を使うのです。ご用心、ご用心。

 

その2・困った薬

 最近、困った薬があります。それは、某製薬会社で出しているフェ*ニー*軟膏。この薬のコマーシャルを始めて見たとき、こんな宣伝していいんかいな?と思っていました。確か、「女性の大切な部分のかゆみが、自分で治せるんです。」とか、女優さんがにこやかに言ってました。でも我々から言わせると、いいかげんなこというなぁ。うそつきぃ。ということなんです。

 だって、外陰のかゆみの原因は沢山あるのです。それぞれで治療が違うのに、その鑑別をして、治療方針をきめてこっちは商売してるのに、何が「自分で治せる」んだばかやろう!そんなんで治るんだったら苦労ないわ!と、私は言いたい。

 で、案の定、外来に来る患者さんで、その軟膏をつけていたんですが治らないんですといってくる人が、沢山いるのです。まぁ、非ステロイド系の消炎鎮痛剤や抗ヒスタミン剤が入っている程度なので、本来病気をひどくする事はないと思うのですが、なにせ「自分で治せるんです」と言われちゃったもんだから、効きもしないのに一週間も2週間もつけ続けてから来院するのです。ですから、来たときにはかなりひどくなっている事が多い。

 それなら、トリコマイシン軟膏でもつけといたほうが良いのになぁ。トリコマイシン軟膏なら、カンジダ、トリコモナス、一般細菌(クロマイ含有のもの)に効くのでかなりの範囲をカバーできます。

 以前は、オロナイン軟膏をつけたけど治らないという方が多かったのですが、ただ、オロナインは外陰部の異常に効くとは宣伝してないので、皆さん2〜3日つけて効き目がないと、早めに来院されることが多かったのでした。

 つまり、フェ*ニー*軟膏の功罪は、薬の成分や効果にあるのではなくて、宣伝の仕方で、外陰の掻痒感をその原因にかかわらず、自分で治せる。と言う幻想をいだかせてしまった事にあるのです。ホント、いーかげんなこと言いやがるなぁ。今度、宣伝やってたらJAROに連絡してやろう。あれは過大広告です。明らかに。んんん…。そう考えるとウソつきは医者ばっかりじゃないんだなぁ。

 (確かに、宣伝のなかでは「かぶれなどに効く」と言っているのですが、全体の流れとして、多くの人が掻痒感全般に効くと、勘違いしてしまいます。実際に勘違いしている人が一人や二人ではありません。外来にその軟膏を使っている患者さんが来るたびに、「おいおい、また、フェ*ニー*かよぉ。」って感じです。)

おかえりはこちら