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『創』・・・小さな物語と黒い童話の部屋


時々思いつきで書いた小さな小さなかわいい物語や、若いころの勢いに任せて昔話をブラックユーモア仕立てて書きためたものを紹介していきます。
                      

小さな物語の部屋

その1・・・「ぼくのたからもの」

僕の名前は「ひろと」、妹の「のんか」が大好きだ。
僕は小さい頃から、みんなより少し指を動かしたりするのが苦手な障害児なんだ。
妹はそんなぼくの困っている姿をを見つけると、すぐに優しく助けてくれる、だから大好きなんだ。
「のんか」は僕のことをなんでも知っている。
なぜなら僕がどこかで困っている、僕の傍にいないそんな時でさえ何時の間にか傍にきて直ぐに助けてくれるから。
それに僕は言葉も上手じゃないから、ママや皆に伝えたいことがある時に、
上手く伝えられなくてイライラすると、どうしていいか分からなくなって、
「のんか」の髪を引っ張ってしまうんだ。
そして、なぜかその時だけはうまく髪を掴むことができる。
「のんか」は怒るけど、すぐに優しくしてくれるとてもいい妹なんだ。
だから、僕はいつも「のんか」には悪いなぁと思っているんだ。
僕は意地悪なことは分かっているけど、自分ではどうにもならないんだ、
だからぼくも困ってしまって時々悲しくなってしまうんだ。
そんな時にみんなが、もっと悲しいこともわかってる。
だから、僕の夢はこの指が自由に動かせて、自由にお喋りができたらいいなぁと思っている。
でも、神様が僕をこうして作ったことにも訳があるんだと、小さいころにパパが教えてくれたから、
それが仕方のないこともわかっている。

ぼくには「パパ」にも「ママ」にも「のんか」にも見せたことのない、
とても大切にしている「たからもの」がある。
それは去年の夏、みんなで海水浴に行った時のこと、僕がひとりで浜辺で遊んでいる時だった。
大きなカニさんが砂遊びをしている僕の左の指にかみついたんだ。
「イタイッ!」と思いながら振りほどき、そのカニさんを思わず右手で掴んで思い切り投げようとしたときに、
何故か、ふと思い出したんだ、「のんか」の髪を引っ張っているときのことを。
いつもこんな風に力いっぱいに、「のんか」の髪を引っ張っていたんだ。
それで僕はそっと、波の打ち寄せる砂浜にカニさんを返してあげてみた。
こんな風に優しくできたのは、生まれて初めてかも知れないと思った。
するとカニさんは膝まづいている、僕のそばにきて、ちょっと擦りむいて血のにじんだ膝に
あわを吹きかけてくれた。
ヒリヒリした痛みは、「あっ」っと言う間に消えた。
僕が出ない言葉で「ありがとう」とカニさんに言うと、少し離れたところまで歩いて、
目玉をキョロキョロさせながら僕を呼ぶように右のはさみを振っている。
僕がついていくと、どんどんと岩場のほうへ入っていく。
しばらく、追いかけていくと、まわりは岩だらけで誰もいなくなっていた。
カニさんが今度は左のはさみを振っている、その方をみると大きな岩に穴が開いている。
僕の腕がちょうど入るくらいの穴の大きさだ。
僕はその穴を恐る恐る覗いてみた。
奥にキラキラひかるものがみえるけど、暗闇の中で光っているのでよく分からなかった。
少し怖かったけど、腕を入れてみた。
光っているものに触れると少しツルツルしていて、いままで感じたことのない不思議な感触だった。
手を一杯に伸ばすと触れることはできるけど、指を上手に使えない僕には掴むことができなかった。
何度か掴もうとしたけど、上手く掴めない。
こんな時には、イライラしてしまう僕だけど、どうしてなのかイライラするもう1人の僕が現れることはなかった。
仕方なく取り出すのはあきらめて、穴からしばらく覗いていると、
だんだんと目が慣れてきて光の正体が少しづつ見えるようになってきた。
ちいさなまーるい石だ、そこからはオレンジや緑や黄色や赤・・・
色々な光がまーるい石から光の粒になって飛び出していくのがみえた。
僕はその光の粒ををずっとずっと見ていた。
気づくと何時の間にか傍にあった小石を握りしめていた。
僕は不思議な感じがしたけど、指を動かしてみた。
僕の思い通りに指が動く。
周りにあった小石を掴んでみると簡単に掴める。
掴んだ小石を、寄せてくる波のほうに投げてみた。
僕の指が自由に動くようになった瞬間だ。
そして、そっと唇をうごかしてみた、「い・し、ま・ほ・う」
言葉も話せる、しかも僕の思い通りに。
これでもう「のんか」やパパやママを、前のように困らせることはない。
ふと思い出すと、随分長い時間をここにいたみたいだ、一時間くらいは過ぎているかも知れない。
きっとみんなは心配して大騒ぎになっているはずだ。
周りをみても僕を連れてきたカニさんはいない。
急いで元の場所へ戻りながら、いろいろなことを考えた。
どうして僕の指は自由に思い通りに動かせるようになったんだろう。
どうして僕は口は自由に思い通りに話せるようになったんだろう。
とても嬉しかったから、早く「のんか」に指が動かせること、話ができることを教えてあげたい。
でもまてよ、僕の指が自由に動かせることや言葉を自由に話せる事をを知ったら
「のんか」はもう優しくしてくれなくなってしまうかも知れない。
ママだって、もう優しくしてくれないかも知れない。
そうだ、いままで通りにしよう、そうしたら「のんか」もママもパパも、
きっとずっと優しくしてくれる。
もとの砂浜に戻ってから気づいた、「しまった!指が動くならあのまーるい石を持ってくれば良かった!」
でも、もういまからでは取に行くことはできない。
そんなまーるい「魔法の石」のことを話しても誰も信じてはくれないだろうし・・・。
もとの浜辺では、みんなで僕のことを探していた。
僕をみつけたパパは黙って、いつものように、思い切り僕の頭を叩いた。
「のんか」が僕の前に立って助けてくれた。
ママは「もう見つかったから、いいじゃない!」とパパをなだめている。
僕が原因となる、いつもの光景だから驚くこともなかった。

あの夏に宝ものを見つけてからも、僕はずっと指の事とお話できる事ははそのままにしている。
「のんか」の優しさもママもパパも何も変わってはいない、変わったのは僕だけだ。
そして、少しだけ大人になっている気もする。
1人でいるときは、自由に指を使っているから、突然僕の部屋のドアが開くと驚いてしまう。
でも、まだ誰にもみつかっていない。
いつか大きくなったら、あの海にいって「魔法の石」を取りだして、大事にしまっておくんだ。
そしていつか「のんか」が、お嫁さんになる時にプレゼントするつもりだ。
その時に「魔法の石」で自由になった指をみせて、この石には魔法の力があることを教えるんだ。
「お嫁に行ったら僕のことはもう心配しなくてもいいんだよ、「のんか」がぼくの分も幸せになってね」、
と僕の口で話すんだ。
そして、「魔法の石」を渡そうと思っている、ぼくにはもう必要のない「魔法の石」だから。
「本当に困ったときにだけ、この「魔法の石」に触れるんだよ、必ず助けてくれるから」、と僕の口で。
ずっと優しくしてくれた「のんか」への、最初で最後の僕からの大きな大きなプレゼントかもしれない。

きょうもいい天気だ、僕は今朝もパパの自転車の後ろに乗って五月の風を体一杯に浴びている。
大好きなパパの背中にしがみついて、いつものように背中を「ぎゅっ」っと握ると、
パパは「いてぇ!」といいながら、うしろも見ないで僕のあたまを「パン!」と思い切り叩く。
「痛かった?」と小さく囁いてみる、
「なに!「痛かった?」、おまえしゃべれるんか?」・・・返事はしなかった。
叩かれたときは痛いけど、優しい時の方が多いから、頭を直ぐに叩くそんなパパも大好きなんだ。
叩かれた頭が痛いなあと思いながら、あのきれいな「魔法の石」のことを思い出して、
「のんか」と僕は、あとどれくらい一緒にいられるのかなと、
パパの自転車の後でひとりで小さく「ふふふ」と笑ってみた。



黒い童話の部屋

その2・・・<桃太郎>

 昔々、あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。お婆さんが川で洗濯をしていると川上から大きな桃が、「ドンブラコー、ドンブラコー」と流れて来ました。お婆さんは早速その桃を家へ持って帰りました。
「お爺さんや、わしゃ今朝、川でこんな大きな桃を拾ってきたがね」
「ほほぉ、そりゃ珍しい。早速二つに切って食べるかえ」
そう言ってお爺さんは、大きな包丁を持ってきました。お爺さんは、包丁を振り上げ、エイヤッと桃を一刀両断にしました。
 すると、中から真っ二つになった男の子が出てきましたとさ。おしまい。

その1・・・<花咲か爺>

 昔々、あるところに、人のいいお爺さんとお婆さんが住んでました。ふたりはポチという犬を飼っていました。
 ある日、お爺さんが裏の畑を耕していると、ポチがきて、
「ここほれ、ワンワン!ここほれ、ワンワン!」
 と吠えました。
 お爺さんはポチのいう通りそこを掘ってみました。でも、何も出てきません。
 しばらくすると、ポチがまた、ここほれワンワン!と吠えます。お爺さんは、もう一度、ポチのいう通りに掘ってみました。でもやっぱり、何も出てきません。
怒ったお爺さんは、
「こりゃっ、ポチ!おまえはわしの仕事のじゃまをする気か」
 と言って、ポチのしっぽをつかんで振り回しました。
 すると、ポチが、
「しっぽを放さんか、じじい! 放さんか爺 ハナサンカジジイ はなさかじじい!」
 と叫びましたとさ。・・・・・おしまい。