荒畑新三郎はラークマイルドに火をつけながら、視線を窓の外に移した。 ガラスに映る彼女の幻影が悩ましいほどに美しく、思わず声を漏らしそうになった。 彼女はしかつめらしい顔で沈黙を守ったまま、新三郎の言葉を待っていた。 根負けした新三郎は紫煙を吐き出すと、ゆっくりと口を開いた。 結局それを言い出したのが新三郎であったということも彼女にとってはごく当たり前のことだったから 当然、新三郎の口から出る言葉も彼女にとっては寝耳に水なコトではなかった。
「密室にばかり目がいっていた。 いや、あなたにそうしむけられたのだろう。」
「すべておわかりになったようですね。」
もちろん新三郎にはすべてわかっていた。事件の日、彼女が都内にいなかったことも、 そして彼女が(心理的に作られた)密室から外に出たその方法も。
「あなたを逮捕しなければいけません。」
くぐもった声は、彼女の心をより複雑にした。 彼女の心は、すでに新三郎に捕らわれていたのだ。 復讐劇は終わったのであるから、仮にここで捕まったとしても彼女に後悔はない。 ただ目の前のこの男と過ごした数週間だけが彼女を悲しくさせるのだった。 彼女はそれらをうち払うように、しっかりとうなずくと新三郎の目を見据えた。 そして首の後ろに両手をまわすと、大きく開いたドレスの胸元に光るロケットをはずすと新三郎に差しだした。 彼女と彼女の唯一の理解者であった母親との強い絆の証であるそれをもう一度眺めながら。
「これをわたしの犯した罪といっしょに 牢獄の中へ連れて行くわけには行きません。 どうか。お預かりいただけないでしょうか。」
新三郎は彼女の視線を捉えたまま頷くとそれを受け取った。 くわえたラークマイルドがいつの間にか根本まで灰になっていた。
作者註:オチがつきません。すいません。でもせっかくココまで書いたのでupします。(笑) |