第59話(05.03.15)
今回は、音がものすごく小さい、リバーブが効かないというFENDERの近年怒級アンプである「THE TWIN」の修理記録です。
それにしても、かなり重いアンプです。40kg程度はありそうです。
まず、音を出してみたところ、本当に細々と鳴っているという感じです。よくよく聞いてみるとスピーカーは片側しか音が出てきません。ターミナルの辺りを見てみましたが、問題なさそうです。これは、スピーカーの断線です。修理にはお金と時間がかかりますし、ビンテージパーツでもないということで交換のお願いをしました。スピーカーが2発入っている場合は位相のチェックも忘れずに行います。これが逆になっていると、音は打ち消しあい、音量が下がります。
リバーブも見てみると、これは数箇所にわたり断線していて、コイルも切れている状態でしたので、これも、了解を得て交換させていただきました。真空管は私のところに来る前に交換しているとの事だったので、疑わないことにします。
ざっとここまで交換してみたのですが、症状は変化しません。それでは、いよいよ本格的に作業に入ることにします。
作業中の様子です。まずはパワー部から見てゆきます。アンプの下に見えているのは自作のダミーロードです。アンプを動作させるときには不可欠です。これが無いとトランスをだめにすることもありますので、ご注意ください。
このアンプはかなり複雑な回路で、パワー切り替えがHiとLoがあり、それぞれにChannel1とChannel2があります。動作を見ていると、HiとLoの切り替えはパワー管のプレート電圧を変更しているようです。もちろん、バイアスもシフトさせています。
まずは、バイアスのチェックとパワー管の様子を見てみます。早速ですが、バイアスが変化しません。パワー管が死んでいるかな??
おっと、、いました。見えますか?真ん中についているのは抵抗ですが、これが焼けて真っ黒です。ここはグリッド抵抗です。まずは4本とも交換します。
しかし、妙です。高々AB1級のアンプでなんで、グリッドに抵抗が焼けるほどの損失がかかるのでしょうか?ここで、まずはまたバイアスを調整してみますが、まだ調整できません。おかしいなあ、、ここで、C電源基板を見てみることにします。(あちこちに小さな基板がついていて、大変な規模です)
これが、C電源基板をはずしたところです。裏返してみると、、、やっぱり、、真っ黒、、、、絶句、、、、、
これでは、元の定数もわかりません。どうしよう??この基板はどういう動作をする基板なのでしょうか?まずはマイナスの電源を作り出すのが役目ですが、よくよく見てみると、このアンプはHiとLoの切り替えがあり、バイアスのシフトをここで行っているようです。また、親切なことに、バイアス電流がモニターできるように外側にジャックがついているのですが、ここで電流モニターも行うようです。
回路を追いかけてゆくと、焼けているのは、プレート電流モニター用の抵抗です。ちょっとまって、、このアンプはパラレルプッシュプルといって6L6を4本パラレルに動作させて100W程度の大電力を得るアンプです。通常カソードに抵抗は入れますが、電流をモニターするのでしたら10Ωが限界でしょう。実際にパネルにも0.4Vと表示がありましたので、0.4V÷10Ω=40mA程度のアイドル電流(1本あたり20mAのアイドル電流)っていうところでしょうか?そうすると、最大パワーのときは余裕をみて1本400mAが流れるとして、400mA×400mA×10Ω=1.6Wこれがパラレルなので、3.2W必要です。普通の設計者なら5Wの抵抗を持ってくるでしょう。しかし、この焼けている抵抗を見てみると、良く見ても1W程度にしか見えません。これって、明らかにFENDERの設計不良だと思うのですが、、、
09.09.09 メールにてコメントをいただきました。
0.04Vのバイアス電圧調整のようです。また使用されている抵抗は1Ω/1Wとの情報をいただきました。
これを踏まえると、無入力時のバイアス電流値は40mAとなります。
この抵抗の損失は最大で400mA流れるとして、400mA×400mA×1Ω=0.16W
ということなります。ですので、1Wあればやく6倍の余裕があるので、設計不良とはなりません。
最近思うのですが、安全性を考えると、この抵抗のワッテージを下げてヒューズとして使用するというのもアイディアかもしれません。おそらくこの抵抗が焼けてしまうのは、バイアス調整時など、一時的にバイアスを浅くしすぎて焼けてしまうと考えられます。ですので、ユーザーが直接触れるところにバイアスがあるもの、考えものかもしれません。
うだうだ言ってもしょうがないので、この部分の基板は作り直すことにします。
こんな感じで復元し、抵抗も安心の5Wを使用しました。これで、バイアスが調整可能となりました。
次に、Hiモードの時とLoモードの時でバイアスが破綻しないように抵抗を選んで、バイアスをシフトさせるような回路にしました。これにはシミュレーションを使用しました。
バイアスを調整しているところです。バイアスがずれると左のような波形になり、プッシュプルの合成がうまくできないことがわかります。これをクロスオーバー歪みといいます。実際に音を出して聞いてもこの歪みは気持ちよい歪みではありません。ちゃんとした正弦波がでて、できるだけパワーが取れるバイアスを選びます。このとき部屋を暗くしてプレートの様子を注意して眺めます。ある程度決まったら、30分程度サイン波で動作させて、パワー管に異常が無いことを確認しています。また、プッシュプルの上下にズレがありますので、この調整も行います。これをACバランス調整といいます。下の写真はバイアスが深すぎるときの様子です。かなり無理がかかっています。
ここまでやって、初めてバイアス調整ができたといえると思います。勘違いが多いのは電圧を何Vに合わせたからOKとか、ペア管だから調整しなくてもOKと思っている場合が多いようです。特に楽器屋さんの店員さんはこんな間違った知識を持たないようにしてください。真空管なので、動くことは動きますが、実力発揮していません。そのくせビンテージのNOSの管を薦めるのはやめましょうwww
最近入手した新兵器です。これは、非接触で温度が計れる物で、特に動作させたときに計算と違って、定格をオーバーしていないかどうか確認するのに非常に役立つと思い購入しました。+B電源の抵抗は100℃にも達することがわかります。(触ると火傷しますね)今回、新たに追加したC電源基板は特に問題ない事がわかります。
リバーブが効かない件ですが、ユニット交換して、リバーブはかかるのですが、リバーブ量が調整できません。これは基板をばらしてみてみると、半固定抵抗が壊れていました。右のように見ると大丈夫なのですが、実際には左のようにすぐに取れてしまいました(笑)
このように、基板に半固定抵抗を半田付けして、パネルに取り付けるような構成なので、無理な力がかかったまま組み込まれてしまうと、そこから半田がクラックしたり、上記のように部品が壊れたりします。組み込んだ後に半田鏝で再度温めなおすと応力が逃げてストレスはなくなります。(下の右側の写真を参照ください)また、赤ノブのため、シャフトを切り欠かなくてはノブが入りませんので、加工が必要です。
こんな感じでシャフトを切り欠きます。
これで、アンプとしての機能を果たすようになりました。引き続きアンプの測定を行います。ここからはちょっと、専門的になりすぎます。
、、、が、そのことについていちいち説明していたら幾ら書いても書ききれませんので、そこは「ギターリストのためのアンプ講座」にておいおい説明してゆきます。
★周波数特性
Loパワーモードの1chの周波数特性
Loパワーモードの2chの周波数特性
Hiパワーモードの1chの周波数特性
Hiパワーモードの2chの周波数特性
ギターアンプ固有の周波数特性です。THE TWINの場合は通常のFENDERアンプに比べて特に2chが中域がどっしりした感じがします。
★周波数特性
Loパワーch1の歪率特性
Loパワーch2の歪率特性
Hiパワーch2の歪率特性
Hiパワーch2の歪率特性
Hiパワーch2の測定はちょっと失敗しています。(笑)
さすがに6L6パラレルプッシュプルだけあって、1kHzでは100Wオーバーしています。ダミーロードも100Wの抵抗なので、かなり高温になっていました。(汗)
こうしてみると、このアンプはかなりクリーンなアンプであるということがわかります。
★ダンピングファクターと出力インピーダンス(Presenceは真ん中にて)
Ch1Hiモード時 Ch2 Hiモード時
Ch1Loモード時 Ch2 Loモード時
プレート電圧を上げたほうが出力インピーダンスが下がることがわかります。ダンピングファクターは大体のモードで1以下になっており、オーディオ用のアンプと比べるとかなり低い値になっています。しかし、これは低音の制動などを考慮すると、もっと高い値でも良いと思われる。たとえば、ミュート奏法などではダンピングファクターがもっとあったほうが気持ちよいと思われますが、、、ただ、SOUL BREAKERの実験でもNFBは大量にかけると確かにプレーン弦が針金のような音になってしまい、味が全くなくなってしまった。この辺は設計者の味付けになる箇所だと思います。
最後に、真空管の後ろ側の保護部がないので作成することにします。
スピーカーはセレッションVINTAGE30を採用しますが、オーナー様の要望により、壊れていたスピーカーのみの交換です。