64話(05.05.23

ギタリストの為のアンプ検証 その3(バイアスの話)

 

さて第3回目ですが、第2回目では、シングルとプッシュプルの動作がなんとなく、絵でわかっていただけたかと思います。

3回目は入力に音が入っていない時(ギターを繋いだだけ)のお話し、、、実はこれが一般にいうバイアスのお話です。

 

まずはシングルアンプで、音が入っていない場合の様子は下の図のようになります。バネは伸びることも、縮むこともできる位置にいます。図2が適正なバイアスだとしたら、図1はバイアスが深い状態、図3はバイアスが浅い状態となります。

ある位置におもりを止めておくように、ある電圧でパワー管(のグリッド−カソード間の電圧)を固定することをバイアスをかけるといいます。言い換えれば、「どれだけバネにテンションをかけているか」と言うことになると思います。

 

 

 

図1                   図2                    図3

 

バネが一つで表されるこのシングル動作の場合はA級動作になります。適正バイアスの値を中心にして、バネが縮む限界まで縮んで、伸びる限界まで伸びるように設定するのが最大パワーを取り出す設計です。ですので、図1、図2、図3で考えると、図2が一番パワーが取れそうなことがわかります。図1、図3で同じ振幅を得ようとすれば、どちらか片側(縮む側か、伸びる側)が歪みとなって現れます。歪ませたときに上下が大体同時に歪んでくるのが良い設定です。図1の場合は縮む側に余裕がありません。図3は伸びる側に余裕がありませんね。

 

同じように、プッシュプルの場合を考えてみましょう。

 

図4          図5          図6

 

図4、図5、図6はどの状態も伸びることも、縮むこともできる位置にあります。図5が適正なバイアスとすると、図4はバイアスが深い状態、図6はバイアスが浅い状態です。

 

A級動作の場合は上下のバネが対称に動作するのが条件ですから、考え方はシングルのアンプと同じです。適正バイアスから、伸びる限界と、縮む限界が同じ距離にある設定が良い設定です。

 

もちろん、これだけの話ではなくて、プレートの最大電圧、最大損失を考慮したうえでこの動作ポイント(バイアスとトランス、プレートの電圧で決まります)を決める必要があります。

 ところで、第1回目で、トランスはギア比を変えるためのトランスミッションというお話をしたと思いますが、プッシュプル用のトランスにはもう一つ大事な仕事が残っています。それは、波形の合成ということです。波形というと堅苦しいので、せっかくバネでたとえていますから、この場合はバネの軌跡と考えてください。

どういうことかというと、トランスからスピーカーに出す信号はトランスの入力であるパワー管の波形(バネの軌跡)の上側のバネと下側のバネの奇跡をそれぞれいいところを取って、合成する仕事なのです。

つまり、バネが2つある場合、一つのバネがきちんと仕事をしていれば、もう一つのバネは休んでいてもトランスで合成されると、関係なくなってしまうのです。

何で、途中でこんなお話をするのかというと、オーディオ用プッシュプルの場合はA級以外にAB級、B級のアンプが考えられるからです。AB級、B級アンプはパワーを稼ぐために上記のトランスの性質を利用して、わざとバイアス点をずらして片側を歪また状態で使用します。そうするとA級アンプよりさらに大きな出力が得られます。しかも、トランスの特性で合成した波形は歪んでいない波形が合成されるのです。

 

A級、AB級、B級のアンプの動作の様子を動画で表してみました。リンク先に飛んだら、マウスの右クリックか、スペースキーを押してください。(かなりの力作)

 

A級動作イメージ

AB級動作イメージ

B級動作イメージ

 

バイアスの調整は、本来、上記のようにバネの縮み具合(伸び具合)の設定だけではなく、上下のバネの伸び方の調整も揃える必要があります。(AC調整といいます)しかし、ギターアンプの中で、これが調整できるものはほとんどありません。私の作成するアンプは、通常のDCバイアス調整のほかに、AC調整も可能なようにしています。

 ちょっと、難しくなってきました?質問がある方は遠慮せずにメールしてくださいね。

 

 

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